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7話 羽ばたき

 

 葉っぱカッターを覚えました。


「葉っぱカッター……」


 僕は目の前で切り裂かれたキングキャタピラーを見ながら、自分の中で何かが芽吹いたのを感じ取った。


 もうダメかと思った瞬間に、放たれたのは葉っぱカッター。葉っぱがカッターのようにキングキャタピラーを切り裂いた。それはまるで何かの魔法のようだった。

 そして、それをやったのが、


「僕だった……」


 それを詳しく確認している時間はない。

 僕の周りには、未だに残り4匹のキングキャタピラーがいるのだから。



『『『ジュウウウウウウウウウウウ』』』



 その4匹は僕に威嚇するように、口から叫び声のようなものを出しながら、自分の全身にある毛を逆立てていた。

 おそらく魔引草の効果が切れてしまったのだろう。鋭い針のようなその毛は、人体などはたやすく貫けるはずだ。


「……これはまずい」


 何より、すでに僕の腹部には針が刺さっていて、取り返しのつかないことになっている。


 しかし、痛みを感じている暇はない。


 こうしている間にも、毛虫は僕へと針のような棘を発射したのだから。


 そうなると……今の僕にできることは一つだけだ。


 ……お願い、力を貸して。


「葉っぱカッター……!」



 ヒュンヒュンヒュンヒュン…………スパッ!



 迫ってきていた針のような毛が、葉っぱで切り刻まれた。


「……これなら」


 目前で真っ二つになったそれは、僕の顔すれすれを横切って地面へと落ちていった。


 間違いない。僕は葉っぱカッターを使える。


 そんな僕は近くに生えていた薬草を引き抜くと、それを自分の口にくわえて咀嚼する。

 その直後、全身に力がみなぎるのが分かった。


 本来、薬草というのはそのまま食べただけでは意味がない。

 潰して、薬にしないと効力を発揮しないのだ。


 だけど僕の【草取り】は、それを無視して薬草の効力にあやかれる。

 薬で傷を癒すのよりも限りなく微弱なものだし、それはただ痛みをごまかしているだけにしか過ぎないけど、今はそれでもいい。


 僕は全身に感じる痛みを強引に麻痺させて、体に力を入れる。


 今は立ち上がれる力さえ残っていれば、僕だってまだ戦える。


『ジュウウウウウウウウウウウ』


 先ほど毛を飛ばしてきたキングキャタピラーが毛を切り裂かれたことに反応し、体をバネのように伸縮させて、一気に撃ち出された。


 僕はそれを真正面から相対する。


 そして、


「……葉っぱカッター」



 ……ズシャアアッッッッッ!



 直後、真っ二つになるキングキャタピラー。


 僕はその勢いのまま残り3匹に狙いを定める。


「……葉っぱカッター」


 今度、僕が飛ばした葉っぱカッターの数は3枚。


 若草色の葉っぱが宙を舞い、風を切る音を出しながら敵に迫る。


 ヒュンヒュンヒュン、という音がして、敵にぶつかると小気味のいい音で切り裂かれる魔物たち。


 しかし、


『ジュウウウウウウウウウウウ』


「く……」


 1匹だけ、生き残っていた。

 そいつは自分の毛を飛ばし、葉っぱカッターの威力を削いでいたのだ。

 そのせいで、敵を切り裂くまではいかず、全身を覆うその毛を毟ったのみ。


 そしてその1匹の体が発光し、背中の部分からブチブチという破れるような音がし始めて、毛虫の中から出てきたのは一匹の蛾だった。


『ブチュウウウウウウウウウウウウウウ!!』


「み、耳が……ッ」


 昆布茶色のその蛾が羽ばたくと、鼓膜を破壊する羽音が場を支配する。


 ヴェノムモーズ。

 鱗粉を操り、羽音と鱗粉で敵の動きを麻痺させて獲物を仕留めるという危険な魔物だ。


 キングキャタピラーの生体で、空からの攻撃が厄介だとギルドで聞いたことがある。


 今もそのヴェノムモーズの羽音が耳に入ったことで、僕の頭に激痛が走る。


 それでも鱗粉を吸い込まないようにとっさに口を抑えたものの、すでにその鱗粉はいくらか僕の中に入ってしまっていた。

 つまりあと数秒とかからずに、僕はその鱗粉に毒されて動けなくなるはずだ。


 だから……せめて、その前に、こいつを倒す。



「……は、葉っぱカッター……」



 ヒュンヒュンヒュンヒュン…………ズシャッ!




 それは、降下してきていたヴェノムモーズへと一直線で飛んでいき。


 鱗粉を弾き、羽音で揺れる空気を切り裂き、本体へと到達すると、敵の体をためらうことなく真っ二つにして……。


『ブチュウウウウウウウウウウウウウ』


 直後、破裂するように弾けるヴェノムモーズ。

 鱗粉が撒き散らされ、それを葉っぱカッターが螺旋を描くように渦巻きを発生させて打ち消して……。


 空に満ちているのは、黄金色の輝き。


 …………倒せたんだ。


「よか……た」


 それを見届けた途端、全身から力が抜けて僕は倒れる。


 もう動けそうになかった。


 それでも、ようやく何かを成せた気がした。

 それを感じながら、僕の意識はゆっくりと途切れるのだった


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