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6話 草取りの芽吹き


魔物に襲われていた二人の話です。

 

「姫様……いけません!」


「離して、リーネ……!」


 姫様と呼ばれた少女が、メイド服を着ている少女に止められていた。

 街の外にいる二人は、先ほどまでキングキャタピラーという毛虫の魔物に襲われていた。

 しかし、一人の少年が来てくれたと思ったら、魔物を引き連れて自分たちを助けてくれたのだ。


 だけど……。


「あのままでは彼が死んでしまいます……! このまま見殺しにするなんてできません!」


 姫様と呼ばれた少女は、涙を黄金色の瞳いっぱいにためて、泣きそうになっていた。


「それは分かっております……。だからこそ、彼の気持ちを汲んで逃げるべきなのです……」


 メイド服の彼女も泣きそうな顔で、そう言うしかなかった。


 メイド服の彼女の言葉は正しい。なぜなら、少年がそれを望んだのだから。


『僕一人でも余裕です。ですので、心配なさらずにお任せください』


 自分たちを襲っていたキングキャタピラーを引き連れて離れた少年は、そう言ってくれた。


 そのおかげで、自分たちは今もなお生きている。少年のおかげで、二人は助かっていた。

 状況が悪く逃げるしかできなかった二人にとって、彼は救世主だった。


 でも……二人はすぐに分かった。

 彼がキングキャタピラーを倒せる力を持っていないことぐらい。


 余裕そうに魔物を請け負ってくれた彼だけど、声が震えていた。

 気丈に振る舞っていたけど、足の震えを我慢しているのが一目で分かって、彼の顔色も悪くなっていた。


 それなのに、彼は自分たちを逃がすために、キングキャタピラーを請け負ってくれたのだ。

 自分のことを後回しにしてまで、少年は自分たちの身代わりになってくれた。


 身も知らないのにも関わらず、だ。


「……姫様、だからこそなのです。少年の覚悟を無駄にしてはいけません。姫様が考えないといけないのは、一人の命より、自らのそのお命です」


「リーネ……」


 ……それは正論だった。あの少年が死んだところで、彼女には何の影響もないのだから。

 花の国、フラワーエデンのお姫様。

 美しい黄金色の髪を持ち、どんな花よりも美しい彼女は、誰よりも尊い存在だ。

 それを守ることこそ、メイドの使命だった。


 それでも……だ。


「彼を見捨てることなんてできません……。自分も怖かったでしょうに、ただ通りすがっただけなのに、彼は私たちを救ってくれたのです……」


「姫様……」


 だから、彼を死なせたくはない。


 姫様は今の自分の言葉は、メイド服の少女を困らせることになることぐらい分かっていた。

 それでも、そう思わずにはいられなかった。


 助けを呼びに行くにしても、街まで距離がある。

 だったら、救援は望めない。

 自分たちが街に行っている間に、少年は魔物の餌食になるだろう。


 なにより、あの魔物はたやすく倒せる相手ではない。

 なぜなら、あれはキングキャタピラーではなく、それよりも倍以上危険な強化種、アルマキングキャタピラーなのだから。


 危険度は推定Bランク以上。

 その突如湧いた危険な魔物を倒すのは、困難を極める。


 だから……。


「……こうなったら私も覚悟を決めます。……沈めていたあの力を使います」


「姫様……!?」


 姫様と呼ばれた彼女の髪が、儚く光を帯びた。

 きらきらと光るその美しい髪は幻想的で、彼女の黄金色の瞳も同じように光を帯びる。


 これは絶対に使ってはいけないといわれている能力だった。


 だけど、背に腹は変えられない。


「……はぁ、分かりました。私もお伴します……。だからそれは封印してください……!」


「ごめんなさい、リーネ……」


 メイド服の彼女が折れて、覚悟を決める。


 彼女も本当は彼を助けたいと、思っているのだ。


「状況は厳しいですけど……あの少年のおかげで私たちは体制を立て直すことができます」


 メイド服の彼女は空を見る。

 雲の隙間から太陽の光が差し込んでおり、日光が満ちている。

 この光の量なら、なんとかできそうな可能性も僅かながらにある。


「でも、いいですか? 危なくなったら姫様だけでも絶対にお逃げください。それだけは約束してください」


「うん」


 そうして覚悟を決めた二人は、少年が走って行った方向へと走り出す。


(どうか、間に合ってください……)


 そしてしばらくして、遠くの方に彼の姿が見えると……二人は驚いた。


「「え……っ」」



 ーー 葉っぱカッターを覚えました ーー



 …………ズシャッッッ!




「「は、葉っぱが……」」


 葉っぱが飛んで、まるでカッターのように毛虫を真っ二つに引き裂いたのだ。


(あれは……もしや……)


 その時、姫様の頭をよぎったのは古い伝承だった。


『その者が現れし時、運命が動き出す』


 これは偶然か、必然か。

 何かが始まった瞬間だった。


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