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36話 プランがいなくても、俺たちは倒せるんだ……!


元いたパーティーの話です。


 

「くそ……。このままだと、俺たちはいい笑いもんだ……ッ」


 一人の男が苛立たしげに壁を殴った。その音は騒がしいギルド内に消えて行く。


 ここは以前、プランが活動していた街の冒険者ギルド。

 その酒場の隅っこ。そこには三人の冒険者がいて、その三人は肩身の狭い思いをしていた。三人は以前、プランとパーティーを組んでいた男たちである。


 プランを追放して以来、彼らには不幸が降り注ぎ続けていた。


 プランよりも自分たちの方が強いことを証明するために挑んだ、キングキャタピラー討伐は失敗し。

 そのせいで、ランクが一気に降格し、BランクだったのがDランクに。そして今ではEランクにまで落ちている。ほぼ、ルーキーと変わらないまでになっていた。


 ギルドが始まって以来、そんな冒険者は今までおらず、どれだけ三人の実力が不相応だったのかが明るみに出ている。

 それを知っている周りの冒険者たちは、プランが元いたパーティーのことをすでに冒険者とも思っておらず、三人は肩身の狭い思いをしている。


 ……そして、三人もすでに気づいていた。

 このパーティーが落ちぶれたのは、プランがいなくなったからだと。


 そもそも、プランは村の村長に言われてカルゴとパーティーを組んでいただけで、本来はカルゴたちとはレベルが違うのだ。


「おい、どうすんだよ……。俺たち、次に失敗したら今度こそやべえって……」


 パーティーの一人、ゲーラが貧乏ゆすりをしながら、焦っている。


「お前も、少しは考えろや! その頭は飾りかぁ? ほんと、使えねえ奴だな、お前は!」


 カルゴが煽るように言って舌打ちすると、ゲーラも舌打ちをしてカルゴを見下す。

 明らかに不機嫌な二人は、先日依頼に失敗して以来、諍いを起こしている。


「お前も少しは何か言えよ。ほんと、偉そうな口ばっかりベラベラと喋るわりに、肝心なところでは使えねえよな。なあ、アードさんよ?」


 カルゴが憂さ晴らしとばかりに、アードを煽った。


「……君と一緒にしないでくれないかな。一体、誰に口を聞いているのか分かっているのかい?」


「おめえだよ。何にも役に立たねえ、アードさんよ?」


「チッ、……君にだけは言われたくないね」


 アードも舌打ちをする。

 もはやこの三人は、パーティーと呼べるだけの間柄ではなかった。


 しかしそれでもパーティーを組み続けているのには理由がある。

 それは、三人の実力不足の事実が広がっているため、誰もパーティーに入れてくれないのだ。

 ソロで冒険に行くことなど、自殺するに等しい。故に、どこにも入れない三人は、この三人で組むしかないのだ。

 しかも三人のランクは、ほぼ最底辺。このままソロになりでもしたら、すぐに命を落とすことになるだろう。


 それを挽回するためにも、何かをしないといけない。

 自分たちの実力を知らしめるような、何か、を。


 ……そして、そんな時、カルゴは掲示板の方を見て、とある依頼が張り出されていることに気づいた。

 それはーー


「……決めた。ドラゴンの討伐に行くぞ」


「は? 冗談だろ」


「冗談じゃねえよ。もう、これしかねえって、てめえらも分かってんだろ」


 ドラゴンの討伐。

 魔物の中でも、上位に君臨するドラゴン。

 それを倒せば、名声が広がるだろう。さすれば、今の底辺の位置から抜け出すことができて、もっと上を目指すこともできるはずだ。


「俺たちは、そもそもBランクまで登りつめたんだ。ドラゴンを倒せる実力もあるはずだ」


「だが……」


「あ? お前、ビビってんのかよ」


「いや、しかしーー」


「おいおい、ゲーラさんよ? お前はやっぱり口だけの野郎だったのか? こんくらいでビビってるとか、お前、マジありえねえわ」


 そのカルゴの言葉にアードとゲーラは苦々しげに、歯を食いしばった。


 プランを追い出したことで、このザマで。

 おそらくこのままだと、三人は冒険者として馬鹿にされ続けるはずだ。


 自分たちがそうだったのだから。

 自分よりもプランの方が下だと思い込んで、あざ笑って追放した。

 それが三人に跳ね返ってくるだけ。全ては因果応報。自業自得なのだ。


「くそ……」


 そうして三人はもうそれしかないことを悟り、依頼書を剥がして受付に行くことにした。


 それでも、自分たちならやれるとまだ信じてもいた。

 ドラゴンなんざ、楽勝だ。俺たちは元々Bランクまで登りつめていたんだ。相手はでかい的で、小手先の技術よりも、そもそもの実力があれば倒すことができる。

 そして、周りが自分たちの実力を知って吠え面をかくのを見てやる、と。



 しかしーー


「こちらの依頼を受理することはできません。お引き取りください」


「はあ!? なんでだよ!」


「なんでも何も、こちらの依頼はBランク以上の方のみが受けることのできる依頼です。Eランクに降格したあなたたちには、受ける資格がないのです」


『おいおい、あいつなんだろ? 降格した奴らって。冒険者を続けてて、惨めになんねーのかね』


『言えてる』


 受付嬢とカルゴたちの話を聞いていた冒険者たちが、笑い声をあげた

 それらは全て、カルゴたちに向けられており、三人は逃げるようにギルドを出ることしかできなかった。


「く、くそが……! あの雑魚どもが。舐めやがって!」


「まじ、ありえねえ……。こうなったらギルドを通さずに、行くしかねえよな……」


「腹立たしい……。僕の力を知らないくせに……」


 ギルドを出た三人は、針のむしろだった。


 ギルドで依頼を受けるのは無理。ランクが足りない。

 だったら、依頼を受けずに、ドラゴンを倒しに行くしかない。

 そうすれば、さすがのあいつらも黙るはずだ。


 そうして三人は、名誉挽回のために、ドラゴンが生息するという山へと向かうことにしたのだが……、




 * * * * * *




『グガャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


「「「ひ、ひぃ……。な、なんだよこれ……」」」


 数十日かかってようやくたどり着けた山の中で、三人は目の前にいるドラゴンの咆哮を受けただけで動けなくなって、腰を抜かして立つこともできなくなっていたのだった。


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