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30話 幻の花、ユグドラシルフラワー

 

「は、はしたない姿を見せてしまい申し訳ございませんでした……」


「ふふっ、寝起きのカレストラ様、照れ顔で可愛いですね」


「ええ、さすが我が国の王女様です。とても愛くるしいです」


 カレストラさんが起きた。

 椅子に座っているカレストラさんは、赤く染まった顔を手で覆いながら、恥ずかしそうにしている。


「カレストラ様、よだれ垂れております」


「えっ、うそ!?」


「うそです」


「もう! リーネのいじわる!」


 それでも念のために口元とデスクの上をさっと拭くカレストラさんの動きは、見事なぐらい早かった。


「プラン様、ごめんなさい。久しぶりに会えたというのに、醜態を晒してしまいました」


「あ、いえ、そんな……」


「そうですよ! プランくんも、カレストラさんの寝顔を見て、とっても喜んでいましたもん!」


「はい。プラン様は寝顔好きのようです」


「そ、そんなっ、プラン様ったらっ」


「ね、寝顔好き……」


 カレストラさんが恥ずかしそうに、モジモジとし始める。

 寝顔好きだと思われている僕は、その姿をそっと見守るのだった……。


 とりあえず久しぶりのカレストラさんだ。

 とは言っても、1週間ぶりぐらいで、遠くから手を振りあったりとかはちょくちょくあった。


 今回、僕たちがこの部屋に来たのはリーネさんに案内してもらったから。

 そしてリーネさんはカレストラさんのために、僕たちを連れて来てくれたとのことだった。


「そうだったのですね。リーネが気を回してくれて、プラン様とアリアさんを呼んでくださったのですか」


「ええ。最近のカレストラ様は仕事詰めでしたし、プラン様たちに会いたがっておられましたので。プラン様、アリアさん、本日はここに来てくださいまして、ありがとうございました」


 リーネさんが綺麗な礼をして、お礼を言ってくれる。


「私もまだ、お礼を言えていませんでしたね。ここ数日のプラン様たちの活躍はしっかりと報告を受けていました。花壇の子達と仲良くしてくれて、フレーシアの胞子のことも解決してくださったのですよね。本当にありがとうございました」


 カレストラさんもそう言って、優しい目をしながら「ありがとう」と言ってくれた。


 彼女のその言葉は、心に染み渡るかのようだった。

 僕もカレストラさんの役に立てるのは嬉しい。


 この能力を褒めてくれて、必要にしてもらえるなら、これからも色々やりたいと思った。


「プラン様のおかげで、我が国は確実にいい方向へと導かれております。もしかしたらプラン様なら、幻の花ユグドラシル・フラワーを咲かせることもできるかもしれませんね」


「ユグドラシル・フラワー……」


 なんだか、すごそうな名前の花だ。

 幻と呼ばれているぐらいだし、普通の花とは別の、もっとすごい花なのかな。


「ええ、我が国の者たちがそれぞれ咲かせようとしている花です。しかし、なかなか咲いてくれない花なのです」


「種自体はたくさんあるんですけどね。しかし、ユグドラシルフラワーの芽を咲かせたことのある者は誰もいません。かつて、数百年前にこの国ができた時の、その一度しか咲いたことのないと言われております」


 カレストラさんとリーネさんが苦笑いをしながら教えてくれた。


 それなら、やっぱり、すごい花なんだ。

 芽吹かない花……。この国に来てからすでにいろんな花を目にしているけど、そんな花もあるんだ。


「そうだ。お二人も是非、挑戦してはみませんか?」


「「挑戦……?」」


「ええ。我が国の民は、それぞれユグドラシル・フラワーを咲かせることを目標にしていますので、是非、お二人にもやっていただけると嬉しいです」


 カレストラさんがそう言うと、すでにリーネさんが準備していたみたいで、僕とアリアさんに種をもたせてくれた。


「これがユグドラシルフラワーのタネです。長い間、誰も芽吹かすことのできない幻の種です」


「「これが……」」


 タネの色は、銀色だった。

 光を浴びたそのタネは、虹色の輝きも宿していた。


 そして、僕がそのタネを手にした瞬間、【草取り】の能力が発動していて……、


「「「あ……っ。芽吹いてる……」」」


 にょき、っと、発芽して。


 ユグドラシルフラワーが開花の兆しを見せていたのだった。



「「「す、数百年間、芽吹かなかったユグドラシルフラワーがもう芽吹いてる……」」」」


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