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10話 花の国への招待状

 

「こちら、ヴェノムモーズの討伐報酬の金貨10枚になります。どうぞ、お納めください」


「き、金貨、10枚……」


 ギルドの治療室から応接室に移動した僕は、今回の件に関する報酬をギルドの職員さんから受け取っていた。

 ふかふかのソファーに座っている僕の目の前には、金貨10枚がテーブルの上に並べられている。

 金貨10枚と言ったら、銀貨10000枚分だ……。


 僕が一年間冒険者をやって稼げるのが、銀貨500枚ぐらいだったらその金額がどれぐらいすごいのかというのはすぐに分かった。


「でも、これを貰っても本当によろしいのでしょうか……?」


「ふふっ、ええ。正当な報酬ですので、是非お受け取りください。今回、プランさんが討伐したのはただのヴェノムモーズではなく、アルマヴェノムモーズですので、これでも少ないぐらいだと思います」


 優しく微笑んで頷いてくれる女性の職員さん。


 僕は恐る恐るそれを受け取り、震える手でポケットにしまった。


「さらに、今回は特別報酬として金貨100枚を用意しておりますのでどうぞお受け取りください」


 どん! と置かれるパンパンに膨らんだ袋。


「ひゃ、100……!?」


 僕はその迫力に仰け反った。


「それは今回あなたがお救いになった方から、気持ちばかりですが……ということで、ギルドで預からせていただいた金額です」


「こ、これも受け取ってよろしいのですか……?」


「ふふっ。是非」


 優しく微笑んで頷いてくれる女性の職員さん。


 ……本当にいいみたいだ。

 僕はこのお金をどうするべきか悩んだ。


 これをこのまま持っていると、命を狙われたりはしないだろうか……。

 この街は治安がいいけど、そういう心配をしてしまう。


「それはおそらく問題ないじゃろう。お前さんが助けたあの方がそういう対策もすでにしているじゃろうからな」


「対策……」


 そう言ったのは、この部屋にいるもう一人の人物。

 初老の男性で、彼はこの冒険者ギルドのギルドマスターだ。

 白いひげを蓄えたギルドマスターは、一見するとただのおじいさんにしか見えないけど、かつて名を馳せた冒険者だったと聞く。その力は未だに健在で、この街はそんな彼が目を光らせているから治安もいい方だと聞いたことがある。


「お前さんが救ったのは、『花の国』フラワーエデンのお姫様じゃ。お前さんもその名前ぐらいなら聞いたことあるじゃろう?」


「ええ、まあ……」


「男なら誰しも夢見る国じゃものな」


 まるで眩しいものを見るような眼差しで、ギルドマスターが僕を見る。


「まあっ。プランさんもやっぱり興味があるのですね」


「きょ、興味があるというか……なんというか」


 ギルドの女性の職員さんが、くすりと微笑みながら可笑しそうにしていた。


「花の国、フラワーエデン。お花が咲き誇っているその国には女性しかおらず、女の私でも一度は行ってみたいと夢見ている国です。今回プランさんが救った方というのがその国のお姫様なのです。ですのでおそらく、今のプランさんには花の加護が付与されていると思いますよ」


「あ……だから、体が少し熱くなってたのかもしれません……」


「ほぉ、お主はすでに花の加護を自覚できておったのか」


 ギルドマスターが感心したように、驚いていた。


 目を覚ましてから今まで、なんだか体の内側が熱くなっていた気がしていた。

 これはただ熱っぽいだけかと思っていたけど、不思議と嫌な感じではなかった。むしろ感じていると、体の中から癒されるのが分かる。


「となると、お主はすでに花の国のお姫様に気に入られておるようじゃな。そのお姫様からお主宛に書状を預かっておる。恐らく、花の国への招待じゃろう」


「「……花の国への招待!?」」


 僕と受付の女性の声が重なった。

 そんな僕の前に、丁寧に封をされている手紙が差し出された。


 僕がそれを手にとって見てみる。

 そんな僕に、ギルドマスターも、職員さんも、しげしげと頷いて開けるのを促しているかのようだった。


「あ、開けますね……」


「「どうぞどうぞ」」


 僕はそっと封を開けて、中身を見てみる。


 そこにはこんなことが書かれていて、


「『ーーもしよろしければ、是非、我が国へ招待させていただきたく思いますーー』」


「「……本当に招待状だった!?」」


 手紙の内容に、ギルドマスターも受付の女性も身を乗り出して驚くのだった。


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