1話 草取りとか、ざまあみろ
「あ、プラン。お前追放な。ほれ、しっしっ。とっとと失せろ」
それは、宿の部屋で報酬の分配をしている時のことだった。
パーティーリーダーのカルゴが、些細なことを告げるように僕にそう言い渡した。
「理由は言わなくても分かるよな? お前が使えなからだ。っていうか、なんでお前は冒険者なんてやってんだよ」
「おいおい、カルゴ。お前が無理矢理、プランを村からついてこさせたんじゃなかったのか?」
「おっと、いけねえ、そうだった」
「「がはは……!」」
他のパーティーメンバーのアードまで一緒に笑い声をあげる。
「………」
その言葉を受けた僕は、ただ佇んでいることしかできなかった。
下を見ることしかできず、顔を上げることはできなかった。
「ま、でも、冒険者に向いてねえってのはカルゴの言う通りだよな。だってこいつは【草取り】だからな」
「草取りなんざ、子供でもできるってえの。なあ、そうだよな? プランよ?」
「……」
……そのことは、嫌という程自分でも分かっている。
冒険者をやる上で、能力というのは大事だ。
人は誰しも一つずつ能力を持っていて、僕の能力が【草取り】というだけだった。
でも、その【草取り】の能力というのは、冒険者をやる上であまり役には立たない。
草を抜いても、偉いわけじゃない……。
能力なんてなくても草なんて誰でも引っこ抜けるし、もっと言えば小さな子供でも簡単にできる動作だ。
……そんな草を抜くことが得意なだけの能力が、僕の【草取り】という能力だった。
「今日も俺たちが戦闘している間に、お前はのんきに抜いてたもんなぁ?」
「あれは、回復薬を作るためで……」
「おっと、出ました、プランの言い訳タイム。実力はねえのに、口だけは一丁前でご苦労なこった」
テーブルの上に足を置いて言うカルゴ。
「ま、気持ちは分かるぜ? お前のザコ能力は使えねえから、言い訳したくもなるよな。今日のあれは、俺たちが戦闘をしてる時に、なんで回復薬を作ってたんだ?」
「あれは、ポイズンバタフライの毒がいつもとは違ったから、それを補えるようにと思って……。依頼の前に余るぐらい作ってたけど、あの毒はポイズンバタフライが育った環境の新鮮な薬草でしか打ち消せないから」
だから即席で、急いで作ることになった。
近くに生えていた草を、抜いて、だ。
「ふぅーん、すごいね。で……? 結局今日のお前は、何体敵を倒したんだ?」
「敵は……倒せてないです」
「ぎゃはははは……! だよなぁ! だってお前、草を引っこ抜いて潰すだけしかしてねえもんなぁ……!」
それは、その通りだった。
そもそも、薬を作るので手一杯だった。
「あのな、お前がやってたことは誰にでもできるんだよ……! だったら【草取り】のザコ能力は、やっぱりこのパーティーにはいらねえわ!」
そう言って、カルゴはテーブルを叩きながら笑い続けていた。
「ふむ。僕もいいだろうか?」
この場にいたもう一人、ゲーラがメガネの位置を直しながら手をあげて僕の方を見た。
「おう、いいぜ。ゲーラ。お前も言ってやれよ」
「じゃあ失礼して。プラン、君は冒険者になってどれぐらい経つのかな?」
「今年で2年目だよ……」
「ほう。そして今は16歳だったね」
「そうだぜ? あ、でも村にいた時の準備期間もあったから、そいつ今年で3~5年ぐらい冒険者みたいなことしてるんだぜ?」
「ほう。それは大したもんだね」
ゲーラがいつも通りの声でそう言った。
「で……? その間、君がやったことといえばなんなのかな?」
途端に口調が強くなり、問い詰めるように聞いてくるゲーラ。
「僕がこのパーティーに加入したのは最近だからね。だから君を見ていると、君がこのパーティーで何をしていたか思い出せないんだよ。具体的には何をしてたのかな?」
「……薬草で回復薬のストックを作ったり……」
「はい。他には?」
「みんなの汚れた服を洗濯して、洗ったり……」
「はい。他には?」
「みんなの食事の準備をして、遠出する時はその準備とかもしたり……」
「そうだね。君はそれをしていたよね。それで他には? 君だけにしかできないことは、何かないのかな? 是非、聞かせてほしいな。そういう誰にでもできることじゃなくて、君だけにしかできない、君がこのパーティーに貢献していたことを、聞かせてほしんだ。はい、どうぞ?」
そう言ったゲーラは得意げな顔をしていた。
「ぎゃはは! おいおい、ゲーラ、それぐらいにしてやれよ! あんまし正論言うと、可哀想じゃねえか!」
「え、そうなのかい? 僕は別に当たり前のことを聞いたまでだけどね?」
カルゴとアードが、その言葉にさらに笑い声をあげる。
ゲーラはメガネの位置を指で整え、足を組んで満足そうにしていた。
「…………」
……こうなることは分かっていた。
それが、今だったというだけだ。
街に来て冒険者になった経緯。
『プラン、うちの息子が直々にお前を指名した。よってお前は、カルゴと共と街に行って冒険者として息子の囮にでもなれ』……と。
【草取り】の能力だと知った僕が、やるせない気持ちになっていた時に、村長はそんな使命を与えた。
昔から冒険者になることには憧れていたけど……思い描いていたものとは真逆だった。
「ま、お前がいると、楽なこともあるんだけどな。たまにギルドで絡んでくるうざい奴らもお前がいれば、そっちに行くからさ。でも、それももう必要ねえよな? なんせ俺はランクアップして、Bランク冒険者になったんだからよ?」
そう言って突き出されるカルゴの手には、ランクアップしたばかりのギルドカードが持たれていた。
カルゴはBランク。
そして、僕のランクは……Eランクだ。
死に物狂いでやってきても、ランクは一つしか上がらなかった。
「ほんと、情けねえな! 後から始めた年下の奴にも追い抜かれる始末だし、みっともねえよな!」
その言葉に、僕は自分のギルドカードを握りしめた。
それは……ずっと気にしていたことだった。
「だから分かっただろ? お前はもう、いらねえんだよ。てか、ランクが離れすぎてるから、組めなくなるって言った方が正しいんだけどな」
それがギルドの定めた決まりだ。
ランクが離れているとパーティーを組むことができないのだ。
「ま、安心しろよ。お前が抜けたら、代わりにもっと使えるやつを入れるから、お前はいらねえわ」
「……分かった」
そうして僕は、この場を去ることにする。
……もう決まっていること。
僕もその準備はあらかじめしてあった。
そして去り際。
「あ、プラン、待てよ。最後にお前に渡すもんがあったんだった。ほれ、報酬」
その言葉と同時に僕の頭に乗せられたのは、雑草だった。
「…………」
しなびれた雑草だった。それが僕の頭の上に盛られていた。
土で髪が汚れる。それを見て、カルゴたちが再び腹を抱えて笑っていた。
「ぎゃははははははははは! 草取り男にはぴったりの姿だぜ! ほら、とっとと失せろ、しっしっ」
* * * * * *
……しかし、この時のカルゴたちは知らなかった。
実はいつもプランの能力に支えられていたことに……。
それに気づいていなかったカルゴたちは、今日を境に一気に転落していくのだった。
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