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サラリーマン、高校生になる。 〜25歳サラリーマン、不可抗力で高校生に取り憑いたので社会のノウハウを活かして青春謳歌〜  作者: ミソネタ・ドザえもん
作者公認不遇キャラ後日談

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安藤茜は疲れていた

 転職先に入社して数ヶ月が経った。

 ようやく新天地にも慣れ始めて、新しいコミュニティにも属せて、意外と順調に自らの地位を築き始めているように思える。


「いきなりこんなに有給使うだなんて、彼と旅行に行くのかと思ったら、春のセンバツ野球を見に行くんだって?」


「そう。そうなんですよ」


 中でもとりわけ一緒にいる時間が長いのは、今私の隣で昼食を取っているこの女性。福留和美さん。私の新天地の上司にあたる人だ。彼女はまるでいつかの先輩みたく、面倒見の良い人だった。それでも仕事には厳しく、公私混同はしない。でも、すごい美人。それはもう、見惚れるくらいに。

 ただ男性社員からはどうも恐れられているらしい。仕事をするにあたり色々あったそうだ。本人はそれを気にする様子もなかったが、少しだけ何があったかは気になった。


「ウチ、一家揃って野球好きなんです。それで、この時期は毎年そうさせてもらっています」


 あたしは微笑みながら言った。

 ただ言いながら、去年から二年間はそんなことしている暇もなかった気がするな、と思い当たっていた。


「へえ、野球好きなんて男受けを狙っていると思ったのに、随分と本格的なのね」


 福留先輩は口角を上げながら頬杖をついて言っていた。


「えぇ、何なら私、野球が好きすぎて、昔男に振られていますから」


「何それ」


 女性同士の微笑ましい会話が続いた。昔の会社では想像もつかなかった光景のように思える。何せ、昔の会社は野郎ばかりだったし。

 変わったものだ。


 この前までの自分と今の自分を比較して、ふと思った。


「まあ、いいわ。楽しんでらっしゃい」


「ありがとうございます」


 無事、上司に有給の許可を取り付けられた。

 正直、入ったばかりでこんなにも有給を消化することで角が立たないか少しだけ不安だった。

 与えられた権利なのに、こうして使い渋るような考えに至ってしまうのは、きっと昔の会社のせいなのだろう。


 昔の会社であれば、多分本当に休んでいいんだろうな、みたいな脅しをかけられていただろう。

 それで先輩が呼ばれて、上司に「あ、大丈夫じゃねっすか?」と適当に返事をする。それでいざ休んでみると全然大丈夫じゃなくて、翌日出社すると先輩と一緒に上司に怒られるのだ。


『全然大丈夫じゃねえじゃねえか!』


 と。

 ただ、気付くと私の仕事の半分くらいは先輩が担うことになっていて、私が申し訳なくしていると、先輩があまり怒った風でもなくこう言うのだ。


「お前、マジふざけんなよー」


 と。

 半笑いで冗談げに言う先輩に何度救われたか。数えてもきりはないなあ。

 そんな一連の流れも最早懐かしい。そして、そんな場面にもう出くわせないことを思うと、少し寂しくもあった。


 でも、互いが別の道を進み始めた今、私が振り返ってはきっといけないと思った。


 それに……。


 今回私はどうしても、甲子園に家族で行ってしなければならないことがある。だから私は今、彼のことで悩んでいる暇はないのだ。


 そして、そんな私が甲子園でしなければならないこと。

 それは中学時代からの有望選手の写真を撮るだとか、年に一度の大会を楽しみたいだとか。そういう利己的な感情からではない。いやまあ、そういう感情が微塵もないわけではないのだが。


『茜を元気付けてやって』


 私が甲子園でしなければならないこと。

 それは、我が最愛の妹である茜が最近凹んでいるというタレコミを母から仕入れたために行うことである。

 聞けば茜、先輩……間違えた。鈴木君が白石さんと恋仲になって以降、ずっと元気がないそうだ。

 家にいる大体の時間を自室で過ごすようになり、朝だとか夕飯の時間に顔を合わせる度にため息をつくことが増えたそうだ。


「あのスケコマシが」


 まさか姉妹揃って誑かすとは。あのスケコマシめ。

 先輩……間違えた。鈴木君への愚痴もそこそこに、私は気を引き締めた。


 今回の件、鈴木君が白石さんと付き合いだしたという情報を独自ルートから入手した両親曰く、「こういうことは年の近いあなたが相談に乗るべき」と言伝を賜った。

 確かにまあ、私でも両親に話すくらいなら、身近な姉妹に相談するものね。

 まだ私が中学生の頃には、過度な野球トークで男子に振られた度に茜(当時四歳)に泣き付いたものだ。


 というわけで私は、スケコマシに泣かされた可哀想な妹のため、一肌脱ぐ思いで甲子園に向かったのだった。


 当日、私は東京駅で家族と合流し、東海道新幹線で新大阪駅まで向かっていた。

 両親は前のシートへ。

 私と茜は後ろのシートで寛いでいた。


「ねえ茜、富士山見たいんじゃない? 座席変わってあげようか」


「え、いいよ。あたし寝ている」


 そういう茜はいつもの元気もどこへやら、私の誘いも空しくしばらくすると小さな寝息を立て始めていた。


「重症ね」


「でしょう? 困っちゃうわね、男の一人や二人に振られたぐらいで」


 自称経験豊富な女豹、母はそんなことを困っていない風に言っていた。


「まあ我が家としても、鈴木君の遺伝子はドラフト一位候補だったんだけどな」


 父がスポーツ新聞を読みながら呟いた。


「人の遺伝子を振るいにかける発想は引くわー」


「真奈美、君は野球選手と結婚しなさい。お父さんは、孫とキャッチボールがしたいんだ。その子を甲子園のマウンドに立たせてね、アルプス席から号泣したいんだ」


 黙ってろ。

 おっと、汚い言葉を思わず使ってしまった。

 でもしょうがない。結婚とは相手との愛を育んでするもの。なのにこの親達と来たら、最近更に見境がなくなってきた。


「というのは冗談だよ。どうだい。新しい職場は良い人いるかい」


 ……お父さん。心配してくれているのね。なんだかんだ、優しい親だったのね。


「ううん。今は忙しくて、それどころじゃないから。でもその内、誰か連れて行けるようにするよ」


 涙目で私が言うと、前のシートの二席からため息が漏れた。


「こりゃ、当分孫は見れそうもないね」


「まったく、誰に似たのかしら。少なくとも私じゃない」


「僕だって昔はそれなりにヤンチャだったよ?」


「え、そうだったの?」


「アハハ。じょうのだんさ」


「冗談か。良かったわ。オホホ」


 親のしょうもない掛け合いを見ていると、思わずため息が漏れた。この親と血が繋がっているとは、正直私は到底納得できない。この親、クレイジーすぎ。


「きゃー! 打ったー! 打ったー!!!」


 と思っていたけど、どうやら私達は立派なこの人達の子供らしい。

 翌日、早速甲子園に赴き、応援席の吹奏楽にも負けない声援(奇声)を発している我が一家は、他所から見たらただ狂気であっただろう。

 でも、やめられないとまらない。


「ほら茜。あんたも黙ってないで。ちゃんと応援しな」


「うぇぇ、いいよ」


 すっかり忘れていたが、茜は元気がないのだった。どこか他人の振りをしながら、私達の選手達への愛あるエールを見ていた。


「何よ、いつものあんたらしくない」


「いや、あたしはプロ野球専門だから」


 プロ野球専門?

 野球を語るのにプロも。高校生も。中学生もないでしょう。


「わかってないね。一春に全てをかけるこのセンバツ野球の楽しさを」


「まあ、同じ高校生の目線から見たら親近感は沸くよ。頑張って欲しいとも思う。でも……」


 少し冷めた目線で、茜は両親を見ていた。


「あの子、いい尻をしているね」


「そうね、昨春から下半身の強化に勤しんできたみたいだけど、その成果の現れでしょうね。あれは高校生の体付じゃない。それよりお父さん、あのピッチャーのスライダー凄いわよ」


「あれはまず打てない。二軍レベルならプロでも空振りを取れるだろう。ただ、プロになるならもう一つウイニングショットが欲しいね」


「ストレートの球速は……百四十五キロ。中々じゃない。……ってきゃー!」


「うおー!」


 スタンド各地から歓声が上がった。好投手のスライダーを読みきった敵チームの四番バッターが、バットにボールを乗せるようにしてスタンドまでボールをかっ飛ばしたのだ。


「あれでそこまでいくのかー」


「エグい」


 両親の会話はヒートアップしていった。


「あれは……ねえ?」


「諦めな。あんたにもあの血が流れてるの」


 多分、数年後には茜もすっかり高校野球ファンになっていそうな気がする。意外とこの子、涙もろいし。


「……で、どうしてそんなに元気ないの?」


 いい加減茜の態度にもうんざりとしてきた私は、単刀直入に尋ねた。


「……え。そんなに元気ないように見える?」


「見える。それも恋愛事の類な匂いがプンプンする」


「……何それ。でもそっか」


 茜は一度微笑み、俯いていた。

 両親は茜の様子を気にすることはなく、野球に魅入っていた。おい。


 ……まあ、いっか。

 人生の先輩として。姉として。


 ここは大人への階段を、彼女に示してあげよう。


「実は、鈴木君と白石さん。付き合うことになったんだ」


「へえ」


 知っていたが、とりあえず知らないことにした。

 あのスケコマシ。ちゃっかりしている。


 まあそれはともかく。これではっきりとした。


 茜、鈴木君のことが好きだったんだ。だから、彼に恋人が出来て落ち込んでしまった、と。


 まったく。あのスケコマシめ。ウチの可愛い妹を泣かせるだなんて、許せない。


「それでさ……」


「まあ、失恋の一つや二つ、当たり前だと思うよ」


 私は茜の言葉を遮って、慰めの言葉をかけた。

 ただ、私の言葉を聞いた茜は、何かおかしなことを言われたかの如く、目を丸くしていた。


「え?」


「え?」


 何、この反応。


「もしかして、失恋したんじゃないの?」


「誰に?」


「そりゃあ、せ……鈴木君に」


 そう言うと、茜は大層おかしそうに笑い出した。


「ち、違う違う。鈴木君は良い人だし頼りになるとは思っていたけど、別に好意はなかったよ」


「あら、そう」


 計らずして、先輩を傷つけてしまったようだ。ごめんね。先輩。今度たくさんいじってあげるから許して。


「なら、何で?」


「実はさ。白石さんがね」


「何々? もしかして急に悪女にでも豹変したの?」


「違う。とても優しいよ。……でもまあ、豹変したのは豹変した」


 少しだけ、茜の顔が青くなる。


「じゃあ、何?」


「白石さんね」


 茜は、見る見ると渋い顔をし始めていた。


「ずっと鈴木君との惚気話を聞かせてくるの……!」


 悩みの種をぶちまけると、茜は頭を抱えていた。


「そりゃあ初めは、いつもはクールな白石さんの豹変振りが可愛くて可愛くて仕方がなかった。微笑んで話しも聞けた。でも、さすがに毎日は辛いの……」


「ま、毎日……」


 うわあ、砂糖吐きそう。


「さすがのあたしも、そろそろ限界。そろそろ鈴木君をどうにかしそう」


 先輩、あなた恋人のせいで屠られそうだよ。不憫だね。


 ただ、おかげではっきりとした。

 茜の不調の理由はどうやら、失恋ではなくただの精神的疲労だったようだ。


「茜、素直に白石ちゃんに回数は減らしてっていいな」


 とすれば、私のすることはいかに茜の負担を減らせるか、ということだ。一応、それ目的で甲子園に来たわけだし。成果も出さずに帰るわけにもいかない。

 早速、私は一つの提案を出した。


「でも……」


 多分茜は、白石さんを無下にすることに戸惑っている。本来はそんなこと思う必要もないのに。優しい子だこと。


「なら、勉強しなきゃいけないことにしなよ。そうすれば、白石ちゃんも控えるでしょう」


「あ、それいいね」


 意外と物分りがいい妹であった。

 どうやら一件落着したようだ。

 

「いやあ、毎日はさすがに辛いけど。三日に一回くらいは聞いてもいいとは思ってたんだよね。なんだかんだほら、白石さんは人生の先輩に当たるわけだし?」


「そう」


 途端に饒舌になる茜に、私は少し現金すぎないかと苦笑いを浮かべていた。まあ、彼女が救われたのなら姉として満足なのだけど。


「でも本当意外。まさか鈴木君と白石さんが付き合うだなんてねえ」


「そうねえ。私としても意外だった」


 あの奥手な先輩が、さっさと身を固めるとは。本当、意外だった。


「これでもあたし、鈴木君とは一緒に野球見に行った仲なのに。全然わかんなかったよー。アハハ!」


「……ん?」


 私は茜の言葉に、首を傾げた。


「茜、鈴木君と野球見に行ったの?」


「うん。いつかお姉ちゃんが忙しくて行けなくなった時に、一緒に行ったよ。彼、横浜ファンだったからさ」


「へえ、そう」


 今の私はきっと、妹にばれないように必死に怒りを堪えていたことだろう。


『まあそれはおいといて。今度、一緒に野球を見に行こう。それでチャラ。どう?』


 あのスケコマシの言葉が蘇った。

 先輩め。私とは結局野球に行かなかった癖に、茜とは仲睦まじく野球観戦に行ったのか。


 へえ。

 ほう……?


「茜、鈴木君を屠る気。まだある?」


 私は邪悪な笑みを浮かべて、スケコマシの駆除を妹に提案していた。

不遇キャラ後日談第4弾は安藤茜。

出番自体は多かったものの、主人公が彼女の学習方法を検討するに至った『会社の後輩に似ている』というその場しのぎの言い訳が伏線になるやんと思い至ってしまい、姉が登場し、僕の中で姉のバーターと成り果てたキャラ。


バンド参加など転機を計ったが、僕の中でまったく覆せず、不憫なキャラと成り果てた。

この後日談も、妹の後日談と見せかけて、ほぼ姉の話になってしまいました。

可哀想に。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] サブタイトルが気になります。 [一言] 毎日のろけ話を聞かされるのはゲンナリしますね、確かに。
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