結果発表
二時。
数十分早く自分達の仕事を終わらせたクラスメイト一同は、ライブへ向かった少女達の帰還を待った。
最終的に、何人かの人たちは休憩時間を返上して営業活動に回ってくれていたのだが、残り数名は皆で件のライブを見に行っていたそうだ。
「すっごいよかったよー」
「うん。ちょっと感動しちゃった」
なんて感想を漏らしていたし、恐らく成功はしたのだろう。心の底からホッとしている僕だった。
「たっだいまー」
岡野さん作の衣装を身に纏い、汗で髪が少しうねっている安藤さんが、笑顔で帰還を告げた。続いて、山田さんが少し申し訳なさそうに入ってくる。
「おかえりー」
クラスメイト一同で彼女らの無事の帰還を称えた。
「ライブは?」
僕の問いに、安藤さんは一瞬逡巡した顔をした。え?
「ばっちりでーす」
途端、笑顔でブイサインを見せた。驚かすなよ、もう。
クラスメイト達が湧き上がった。まるで彼女らの成功を自分達のことのように喜び合っていた。本当、人が出来た子達だ。
「悪かったわね」
そんな歓喜に沸くクラスメイトとは違い、安堵してホッと脱力しかけていた僕に、白石さんが小声で話しかけてきた。
「いいや。大丈夫。なんだかんだ楽しかったしね」
「そう。ありがとう」
微笑む白石さんをまじまじと見ること数秒、途端に恥ずかしくなり、僕は目を逸らした。
「まあ、いいってことですよ」
「そう。でも、少し残念ね」
微笑んでいた白石さんだったが、顔に陰を落とした。
「え、何が?」
「売り上げ。目標の六万円に届かなくて」
ん?
「え?」
「え?」
二人して素っ頓狂な顔を作って、首を傾げあった。
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閉会式。体育館。
まだ文化祭で浮かれた熱が冷めやまない学生達は、大きな喋り声を発しながらその場に座っていた。もしこの場が避難訓練であれば、きっと校長先生が壇上に上がってすぐに、「皆さんが静かになるのに五分かかりました」、なんて時計をわざとらしく見ながら言うのであろうが、今日はそんなお堅い場ではない故に、誰も学生達を咎める人はいなかった。
なんなら、先生陣もうるさく喋っている。いや、あなた達は自重しなさいよ。一応、学生の模範の立場なんだから。
『みなさーん。壇上にご注目ください』
皆の視線が壇上を闊歩する我らが文化祭執行委員長に集まった。余計歓喜の渦に沸く学生達を注意することはなく、大層学生達を見下していることが嬉しそうに手を振ったりして浮かれていた。まるでアイドル気取りだ。
そういうのは鳳にやらせた方が様になりそう。あいつ腹黒いし。アイドルという空虚な存在にはピッタリではないだろうか。
『それでは、第四十九回文化祭の閉会式を始めます』
仕切りなおすように、少しだけ真面目そうに委員長は話し出した。切り替えの出来る彼、きっとモテるのだろうなあ。
閉会式は時折学生達が騒いだり、委員長が騒いだりする中、それでもタイムスケジュール通りに進行していった。
そして、出店の売り上げ発表の時間がやってきた。
『はい。では発表いたします!』
委員長が胸ポケットから封筒を取り出す。重々しい空気を出すために、わざわざそんな物を準備するとは、意外と洒落っけもある人だな。
というわけで、さて。出番だな。
うずうずとしながら、僕は立ち上がる準備をしていた。場が場だし、年甲斐もなく皆に混じってはっちゃけようと思っていた。ほら、僕一応、青春を謳歌すると言ったわけだしね。
こういう時大騒ぎするのって、それこそ頑張りが認められたことへの歓喜の渦が出来るものだろ?
ようし。やるぞお!
『えぇ、まずは通年通り一年、から……え』
委員長が少しだけ固まった。咳払いを一つして、彼は続けた。
『し、失礼。では一年から! 売り上げ第一位!』
来た来た来た。
いったるぞ!
『一年三組! 売上金七万二千六百円』
「いよっしゃー! Fooooooo!」
一人立ち上がり沸き立つ僕。とんだ恥を搔いてしまった。まさか、誰も乗ってこないとは。
周囲の空気が冷たいことを察すると、周りを見回した。皆、口をあんぐりと開けて放心気味だった。
「え、乗ってこいよ。恥搔いたじゃないか」
咎めるように隣に座る安藤さんに言うと、
「鈴木君、売り上げって六万以下なんじゃないの?」
彼女は声を震わせながら言ったのだった。
「え?」
誰がいつそんなことを言った?
あ、そういえば。白石さんも似たようなことをさっき言っていて、お互いに首を傾げあったような。あの時の彼女の顔、可愛かったなあ。ゲフンゲフン。そんなことは関係なかったね。
冷め切った空気の中、頬を染めて僕は着席した。次いで二年と三年の売り上げ一位の学年と売り上げ金が発表された。
結果、二年一位の売り上げ金は五万円台。三年一位の売り上げ金は、六万円台。
つまり、総合一位は我が一年三組だったわけだな。
なるほどなるほど。
我がクラスも、並びに二年も三年も冷ややかな空気の中での結果発表になったのは、それが理由か。
えぇと。
こういう時、なんて言うのが正解なんだろう。
未だ恥を搔いたことでばつの悪い僕は、冷ややかな体育館で一人物思いに耽っていた。
こういう時言う台詞、か。……あ、そうだ。
「また俺、なんかやっちゃいました?」
微妙な空気が変わることはなかった。
次話でようやく文化祭終われる。
長かった也
次話は九時~十時にあげる。