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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

女神のいる街

作者: 須藤二村
掲載日:2019/04/09


 とある地方の国道。コンビニから出てきた少女が、変わりかけた信号に気付いて横断歩道を走り出した。そこに運悪く居眠り運転の大型トラックが通りかかった。正に晴天の霹靂(へきれき)、このままだと大惨事は避けられない!


 その瞬間、歩道から飛び出した男子高校生が少女を突き飛ばした!

 少女は不意の衝撃にもんどり打って横断歩道の端まで転がっていった。この時になって大型トラックのドライバーは異変に気が付いて急ブレーキをかけたが既に間に合わない。身代わりになった男子高校生はバンパーに強く(はじ)かれて転倒したまま動かなくなってしまった。少女はただ茫然(ぼうぜん)と事態を見つめていた。トラックからドライバーが慌てふためいて降りてきて、そして頭を抱えた。


 男子高校生の名は、屯田林(とんだばやし) 佐武朗太(さぶろうた)と言った。佐武朗太は「やれやれだぜ……」と起き上がって、制服の汚れを手で払いながら足元に突っ伏したままの自分の死体を見つけた。


「どえぇッ⁈ 何これ! 俺が死んでんだけど!」


 その時であった。佐武朗太の目の前に突然虹色に輝く(まば)ゆい光の球が現れたかと思うと、それは女神様の姿となってこう言った。

「貴方はどんなスキルで、どんな異世界に転生したいですか?」

 佐武朗太は思った。「キタコレ!」何を隠そう佐武朗太はなろう系には詳しかった。特にチートスキルに関する考察には一家言(いっかげん)ある。


「ま……魔力レベル999のスキルと、ハーフエルフが沢山いる街でハーレム三昧な異世界がイイぜ!」


 と即答した。

 女神は「承知しました」と答えて杖を一振りすると、佐武朗太の足元に魔法陣が出現した。魔法陣は光りながら回転を始めると、光の束となって佐武朗太ごと消えた。


―― 五分前のコンビニにて


 タイヤが急ブレーキでロックし、辺りに突き刺すようなスキール音が響いた。その直後に何かがぶつかる鈍い音。これはただ事ではないと誰もが気付いていた。コンビニにいた五名の客と店員、そして隣のスーパーからもゾロゾロと十五人程が飛び出してきた。

 男子高校生が倒れているのを発見して、かつてコンビニの女性客だった女から悲鳴が上がる。何人かの大人が携帯で119番通報していた。

「男の子がはねられたぞ! 早く救急車呼んで!」

 しかし、次の瞬間全員の目は男子高校生に釘付けとなった。彼は倒れて寝そべったまま彼自身の上に立ち上がったのだ。誰も状況を把握出来ないまま固唾(かたず)を飲んで見守っていると、男子高校生は「やれやれだぜ」と言った。

 「「しゃ、喋った……!!」」「ドッペルが喋った!」「何あれ幽霊⁈」

 一瞬でざわめきが起こり一同がパニックに陥っていると、今度は彼のすぐ近くに激しい光があって白いローブ姿の女神まで現れた。

「おおぉーーーぉ……」

 その場にいた数十人全員が思いがけず奇跡を目撃して感嘆を漏らした。写メを撮る者、スマホで動画撮影を始める者も出てきた。母親に電話をして状況を説明している女子高生もいた。辺りにはどんどん野次馬が増えてきて人だかりとなった今、その中心では男子高校生がなにやら《スキル》だとか、《ハーフエルフ》などと奇妙な単語を発している。そして、地面に光る円の図形が現れたかと思うと全てが消えて、通常の事故現場へと戻った。


 このニュースは瞬く間にネット中を駆け巡り、夕方のニュース番組では特集が組まれた程だった。特撮や集団催眠では無いかと怪しむ意見は勿論あったが、それでも目撃者の人数が尋常ではなく複数の動画も拡散されていた。これはもう認めざるを得ないと、バチカンからも奇跡認定員が派遣されたが、結論から言えば男子高校生が生き返った訳ではないし、トラックの破損が元に戻った訳でもない。

 実際のところ、極一部の者達だけがこの事態を正確に把握していた。なろう民であった。彼らにとってこの場所は《聖地》となり、毎日何百人という人が巡礼に訪れた。

 しかし、あれ以来女神様の姿を見ることは出来ない。


 ある時、トップランカーのワナビがこう提案した。

「もう一度、誰かがはねられたら現れるんじゃないか?」

 考えるまでもなく、これは恐ろしい提案だった。いかな奇跡のためとは言えヒト殺しに成りたいと思う輩は居ない。そこで、裏サイトで自殺したい人を募ってこの場所に集合して貰い、タイマーで起動したトラックを突っ込ませる計画を立てた。助けないと救済は無いんじゃ無いか? とか、助けるのは小学生でなければならないと言い出す炉利もいたが、とにかくやってみようと言うことになり実際に突っ込ませた。トラックは想定通り自殺志願者三人を跳ね飛ばしてそのまま走り過ぎた。ワナビ達はジッと(こら)えて待機していると、程なくして自殺志願者は三人共が自らの死体の上にむくりと起き上がった。

 その瞬間わっと歓声が上がり、ワナビ達は互いの肩を叩いて(たた)えあった。自殺志願者の前には女神様が降臨、一人ずつ希望スキルと異世界の設定を確認していた。しかし、彼らはなろう民では無かった。したがって「スキルは……英語かな、誰も自分のことを知っている人が居ない世界に行きたい」などと発言し、ワナビ達を失望させた。

 ただ、こうなるとやるべきことは決まっている。最強のチートスキル、極めてエロ展開が容易なハーレム異世界の設定を思い付いた者が勝ちだ。彼らは検索キーワードを駆使し、または割烹で議論して、最強のチートスキルや異世界設定を練りに練って研究した。

 この先は一生ハーレムで過ごすことが確定しているのだから何も恐れる物は無い。既に日本中から数万人のなろう民が順番待ちになっていた。懸念としては、最後のなろう民だけがタイマーで走り出すトラックに当たることになるくらいだ。


 まず最初はトップランカーのワナビがトラックに轢かれることになった。果たしてトップランカーのワナビは、死体の上に立ち上がって女神と、それを見守る数千人のなろう民達に向かって高らかに宣言した。

「俺は最強のスキルが欲しい! そして貴族として生まれる異世界さ!」

 素晴らしい! 正に慧眼と言わざるを得ない。最強と言ってるんだからこれはもう最強のスキルで間違いない。そして貴族、生まれた時から能力とは関係なく苦労せず暮らして行けることが確定している! 拍手と共になろう民達は感服した。

 トップランカーは、魔法陣と共に旅立った。


 「次は俺だ!」

 声を発したのは、書籍化の後エタった元ランカーだった。

「スキルは平均値よりちょっと上で頼む! 異世界ではTSして令嬢になるぜ!」

 おぉ、見事にパクっている! 尚且つ、ラレの設定から少しだけパワーアップしている所が堅実さをも感じさせた。またもなろう民達は感服した。

 元ランカーは、魔法陣と共に旅立った。


 そして、次の相互評価ランカーは言った。

「俺は最強の脳筋だ! 冒険者のパーティから追放されるぜ!」

 もはや何を言っているのか分からなかったが、とにかくなろう民は感心した。

 相互評価は、魔法陣と共に旅立った。


 そうして次々となろう民は旅立っていった。


 もう殆どの転生を希望する者は旅立っていて、その国道が落ち着きを取り戻そうとしていた頃、一人の少女が来て自分を轢いてくれそうな車を探していた。

 しかし、いくら待っても少女を殺してくれそうな物は現れそうになかった。

「いいでしょう。どうやらお嬢ちゃんで最後のようだから、特別に願いを聞いて差し上げましょう。どんなスキルとどんな異世界に転生したいですか?」

 女神が降臨して優しく尋ねた。

「ううん、スキルなんか要らないの。私はお兄ちゃんと一緒に暮らしたい。だからお兄ちゃんの転生した世界へ連れて行って欲しいの」

 少女が望みを伝えると、女神は「そう、承知しました」とだけ答えて立ち去ろうとした。

 それを見て少女はついに泣きだしてしまった。

「どうして⁈ 女神様はどんな異世界にでも連れていってくれるんでしょう? だったら私だって」

 女神は少女が泣き止むのを待って

「いいえ、そんな世界は無いのよ。私はアンケートの統計を取っていただけだから」と静かに言った。

 そうして女神は、少女に優しく微笑むと続けてこう言った。

「あのね、お嬢ちゃん。何の努力もしないで成功を得られるなんて、そんなことが当たり前だと思ってる時点で死んでるのと同じことなのよ」

 辺りはもう薄暮れだった。


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― 新着の感想 ―
[一言]  えっと、おもしろかったです。。。  これで終わりってことはないです??? 続きを読みたいです。。。  期待して良いですか???  作者様 乙。
[良い点] 晴天の霹靂 [気になる点] 見事にパクっているてん。 [一言] ハーレムで過ごすこと
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