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ポートレート
――― 誰かが、私を呼んでいる。
その声は、美術館に足を踏み入れた瞬間から聞こえてきた。
同年代くらいの若い女性の声で、知人ではなさそうだったが、心のヒダにするりと潜り込んできて、溶け込んでしまうような、不思議な魅力があった。
けれど、ロビーには受付嬢が一人ポツンと静かに座っているだけで、彼女以外に、人の姿はない。
空耳―――?
展示されている絵画に視線を合わせ、眼で追いかけてはみるものの、じっくりと落ち着いて鑑賞する気になど、なれなかった。
ただひたすら、どこかから発せられている声に、心を集中させる。
何か不思議な力に導かれるようにして、その声の主を求めて、足早にフロアの先へと歩き進めた。
人間の声ではあったけれど、かといって、知り合いが姿を現すとは思えない。
もっと、漠然としたもの。
意識の中に入り込み、すぐ傍らで、語りかけてくるような声。
何かが、私を呼んでいる。