クラスメイト
3 クラスメイト
机に振り下ろした右手をワナワナと震わせるエイリス。後ろの席から手が伸びエイリスの腰をつつく。
「ひゃっふ?」
エイリスは不意の一撃に驚き勢い良く椅子に腰を下ろす。
「エイリスっ?」
エイリスの挙動に腰をつつく手の持ち主から声が飛ぶ。
エイリスは自身の腰に手を当て後ろを見る。そこには緑色のショートカットで銀縁眼鏡の女子が申し訳なさそうな表情をしていた。
「サウスぅ〜?」
エイリスの言葉にサウスと呼ばれた女子は苦笑いを浮かべて肩を上下させている。
「エイリス。まだ一学期は始まったばかりだしニワゾノ先生もカリキュラム通りの授業をするしかなくて退屈なんだよ。…多分。」
サウスの憶測でしか無い言葉にエイリスの怒りは矛先はサウスに向かう。
「サウスっ!あんたはクラス委員長でしょ?なんとも思わないのっ?あんなテキトーな授業で私らは何を学べば良いの?しかもアイツは私達の担任で専門科目の魔法開発の教師なのよっ!」
鼻息荒く説くエイリスを見てサウスは苦笑いをあげるのが精一杯だ。
エイリスのニワゾノへの罵詈雑言はまだまだ続く。サウスは声を掛けたのは失敗だったと体を小さくしてエイリスの言葉に細かくうなづいていた。
「確かにニワゾノの授業はつまらんよなぁ」
いつのまにかエイリスの横に立つ男子生徒。
サウスは助けが来たと表情を明るくして視線を上げた。そこには赤髪で筋骨隆々とした体型をした男子が両手を組みエイリスを見ていた。
エイリスは男子生徒に対して「だよねー」などと言いニワゾノ批判に華を咲かせる。
赤髪の男子生徒はトール・ライジーク。今年一年生の中では格闘系クラブから引っ張りだこで有名でざっくばらんな性格から友人も多いが、特定のクラブに所属せず助っ人として各クラブに顔を
出している。
歯に衣着せぬもの言いからエイリスとは付き合いが浅いが両者は気が置けない関係であると見て取れる。
トールはエイリスの意見にうなづいて。
「ニワゾノは最初からあんな感じだよな。入学式のオリエンテーションも資料映像で終わったし、授業で話すこと自体無かったかもな。」
サウスは思い返す。ニワゾノの話した言葉を…。
…………っ!
サウスは思い返すのをやめた。
ニワゾノの声を聞いたのがエイリスとのやりとりであったことが初めてと思えたからだ。
「だぁかぁらぁ〜。ニワゾノは教師失格で私達の担任に相応しくないと思うの!私達でニワゾノを担任から降ろしてくれるように学園に訴えてようと思うのっ!」
トールはエイリスの発言に目を瞑った。考えを巡らせている様だ。
しばらくしてトールはエイリスに意見した。
「確かに今のニワゾノの授業はどうかと思うけどよ、サウスが言ったみたいに本格的な魔法開発の授業になったらニワゾノも本気出すだろ?」
トールの言葉にエイリスはむぅ〜と唸りながら頬を膨らませる。
学園内にチャイムが響く、次の授業が始まる為にトールは席に戻る。
エイリスは心の中で決意する。
「ぜ〜ったいにニワゾノを辞めさせてやるんだからっ。」