真実
佐藤雪のあまりに際どい話に、私は一瞬たじろいた。
ちょっと待ってよ。
あのさ、私。
さっきから何度も言ってるんだけど処女だっちゅーの。
処女に対してイキナリ公開性行為とかさぁ。ハードル高すぎるにも程があるんじゃない?
私が今まで胸を見せた事がある相手なんて、一緒にお風呂に入った親かお医者さん位なんだけど?
そりゃぁ。片桐君の事は大好きだよ。でも。でもさぁ。
私は、片桐君と順序よく愛を育んでゆきたいの。ね?
だって、男ってさぁ。
いきなり女を抱いてしまうと途端に冷めるっていうじゃない?
だから、簡単に体を許してはいけないのよ。
っ・・・て、何?
片桐君。元々私の事なんとも思ってないのに引っ張ってもしょうがないって?
それは、相手が私に興味があって追いかけられてる時に限って有効だって?
私がやっているのは、単なる恋の一人相撲なのであって。
相手の気持ちを全く推し量る事なく、ガンガン好意を言うだけ言って。
でも、体は許さないとか。男にとっては、拷問にすぎない?
本当はね。
心の底から、彼に抱かれたい気持ちで一杯で。
毎日毎日。妄想が尽きない位よ。
多分私の脳内を、片桐君に公開したらきっと逮捕されるんじゃないかって位変態だと思う。
しかし、佐藤雪の台詞に臆する事なく片桐君は淡々と切り替えしたのだ。
「佐藤さん。月野マリアさんは梅毒で余命幾ばくも無いと聞きました。
しかし、それは本当ですか?」
佐藤雪の表情が、一瞬曇った。
「梅毒で死ぬ人は、現代では限りなく少なくなっていると聞きます。
それは、戦国時代の話です。病院に行ってちゃんと治療すればちゃんと治ると聞きました。
また、もし放置状態位で3ヶ月程すると、顔にブツブツの症状が出ますし髪も禿げてきます。まだら模様のバラ疹というものも出ますし、指や顔の一部分が腐ったりします。
月野さんって、病気が原因でストーリー作家になったと聞きましたが。
月野さんの最初の作品、確か映画になりましたよね?
実は、当時の彼女と見に行ったんですよね。あれ、本当にいい話でしたけど・・。
確か原作を作ったのって、一年以上前ですよね?
確かに、月野さん顔色悪いし挙動不審ですが・・。梅毒のソレでは無いと思うのです・・・。」
さすが、片桐君。
校内ナンバーワンのイケメンモテ男だが、比例してヤリチンなだけあって性病にも凄く詳しい。
いつも、彼のヤリチン武勇伝を得意気に聞かされる度に憂鬱だったけど好きだから我慢してた。
きっと、こんな話が出来るのは女の中では、私くらいだ。
それくらい、私はきっと彼にとって特別なんだって。
なるべく、いい方向に思い直す事にしていた。
でも、この時だけは逆に惚れ直してしまった。
佐藤雪に堂々と性病の知識を伝える片桐くんが、益々眩しく見えたのだ。
「ちょっとおおお!佐藤さん!もういい加減適当な事ばかり言うの辞めてくださいよぉ!私は、ただのクスリ中毒だっちゅーの!」
と月野マリアが叫ぶなり「ちょっとおおおおお!」と、物凄い剣幕で佐藤雪が慌てだした。ずっと一糸乱れぬ冷静沈着ぶりだった佐藤雪が、突然慌てだしたので私と片桐君は一同にビビってしまった。
「月野!こんなに私が必死にやっとの思いでずっと庇ってきたのにぃぃぃ!クスリの事だけは・・クスリの事だけは、絶対に言うなってあれほど言っただろうがぁぁぁぁ!
ずっと、貴方が薬物中毒で絶対に辞めようとしないから・・私はずっとどうやって隠せるのかって、悩んで悩んで・・・
そうだ、性病にすれば貴方をAV業界から引退させる事が出来る・・・・
今の状態も、性病という事にすればバレたとしても世間から同情される・・・
むしろ、薬漬けで死んだとしても悲劇のヒロインとして崇められ続けるのです・・・。
なのに・・・なのにぃぃぃぃ!」