ジョレーストーン
「咲子ちゃん。また、悪霊ついてきてるけど・・。一体、どうしたっていうんだい?
確か、一度は振り払って消えた筈なのに。また、背後に見えるんだよ。女の霊が・・。」
塚本君が、私に恐る恐る言った。
確かに、月野マリアの幽霊が再び現れたのは最近の事だ。もしかして、この人は本当に幽霊が見える人なのかもしれない。
「どうしようなあ・・。除霊してあげなきゃって思うんだけどさ。
その為には、僕のパワー入りの秘伝のパワーストーンペンダントを着けないといけないんだ。
「ジョレーストーン」って言うんだけどね。秘伝の呪文を、満月の日から新月になるまで毎日念じて作られた代物なんだ。
本当は、五万円するんだけど。咲子ちゃんには、特別でプレゼントしてあげたいって思うんだよね・・。やっぱり、昔からの知り合いだしさ。」
ジョレーストーンって。ネーミングが、結構適当なのは気のせいだろうか。そして、たかがパワーストーンで何故五万円もするのか。
パワーストーンなんて、所詮石ころじゃないの?そんなものに、いくら呪文だかパワーを込めたからとはいえ、一気に五万円の価値がつくとでもいうの?
と、こんな時に限って。履いてきた勝負パンツの紐の右側が、少し緩んできた。やばい、何とかして落ちないようにしなければ・・、
私は、更に緊張感を増した顔になった。パンツは落ちそうだし、男には騙されそうだし。
もしかしたら、塚本君は幽霊は本当に見える人なんだけど。あえて、その力を利用した詐欺師なのかもしれない・・。
月野マリアのいうことは、やはり正しかったのかもしれない。少し、悔しいけど。
すると、突然あたり一面に強い風が吹き荒れた。
「や、やばい・・。悪霊が暴れている・・。おのれ!悪霊め!咲子ちゃんに迷惑ばかりかけやがって!
咲子ちゃん。後ろに下がってて!
僕が、守ってあげるから!
さあ!このジョレーストーンをつけて!」
と言って、勾玉形の碧いパワーストーンネックレスを貰う。ってか、これ。ジョレーストーンじゃなくて、ラピスやんけ。
マドモアゼル愛先生が監修してた、マイバースディって雑誌の巻末に載ってたのと同じ、ラピスやんけ。
「ジョレーストーンじゃなくて、これラピスだよね?」と塚本君に尋ねる。
「うーん・・、
石としては、確かにラピスかもしれない。
しかし、この石は僕たち霊媒師一族の秘伝の呪文や魔術が組まれている、特別な石なんだ。よって、ラピスであってラピスではないんだよ。
不思議なパワーを注入されたことにより、新たにジョレーストーンとして生まれ変わった代物なんだ!
ジョレーストーンは、どんな悪霊からも守ってくれる力が・・あっ!」
と、塚本君が言った途端。パァン!と、ジョレーストーンは、音を立てて勢いよく割れた。
「お、おのれ!悪霊め!咲子ちゃんに、何するんだ!」と、塚本君が慌てはじめる。
しかし、現状としては。
ジョレーストーンがただ勝手に割れただけで、特別私に危害は何も加えられていない。
すると、ぼんやりと黒い長髪の女の幽霊が姿を表した。
「う・・うらめしや・。」
と、幽霊が言うと「ひいいい!本当に、幽霊出たぁぁ!」と、塚本君は一目散に去って言った。
幽霊の正体は、月野マリアだった。
「ったく。幽霊になって始めて「うらめしや」なんて臭いセリフ言ったわよ。
ほんと、恥ずかしいったらありゃしない。心配してついてきたら、このザマだったから。
馬鹿だね、あんたも。あんなに、私が言ったのに。
あいつは、悪徳霊感商法の詐欺師なんだよ。まあ、実際に霊感だけは本当にあるタイプなんだけどね。だから、余計に厄介なんだけど。
そして、この詐欺には片桐も噛んでるっぽいわね・・。
私の存在についても、片桐があの男に話してる可能性があるわ。
あんたを紹介するために、片桐はお金を貰ってる可能性があるの・・。」
えっ。どういうこと?
どうして、そんな事を片桐君がしないといけない訳?
私が、ずっと恋してきた人が。まさか、私を騙そうとしてるなんて。そんな事、信じたくはない・・。




