出版社へ
「わかったよ。デート位一回行ってやるよ。そのかわり、面白かったらな。」
片桐君の台詞に、一寸の光を感じた私は帰ってすぐに毎日、毎日・・一心不乱に小説を書き続けた。
思い立ったらすぐ行動しないと気が済まない性格の私。いつも、思いつきで行動しては失敗ばかりだった。
「もっと考えて行動しなよ。」と周囲に言われても、耳を貸さずに同じ失敗を繰り返し続けてばかりだった。
今回、小説書くことだって完全片桐とデートする為だけの理由なのだ。
片桐の言葉がなければ、恐らく小説なんて書こうとも思わないであろう。
母は、そんな私の後ろ姿を見て
「あの恋バカっぷりは、きっと父さんに似たのよ。私じゃない。絶対、私な訳ないわ。」と、溜息をついてた。
もはや、私の行動にすっかり呆れ返っていた。
やがて、私はやっとの思いで書いた小説を出版社に持ち込む事にしたのだ。
しかし、「なんだ。この昭和崩れみたいな話は。こんなつまらんクズ話は。世間知らず丸出しじゃないか。
文法とか、そういう以前の問題じゃないか。恥ずかしげもなく、よく持ってこれたよな?こんなのさぁ。一体何処で受けるんだよ?」と、スグに追い返された。
えー。いい発想だと思ったのにぃ。
戦場の兵士達が、タイムスリップして現代の日本に現れてさぁ。
生ぬるい教育にドップリつかった若者達をボコボコにしてやるっていう、斬新な展開なのにぃー。
私は、原稿抱えて数々の出版社をまわった。が、結局何処も相手してくれなかった。
やっぱり、無理かぁ。
そうだよね……
元々、最初から上手くいく恋なら。私がこんな風に小説なんて書かなくても成り立つ訳で。こんな遠回りなアピールなんてしなくても、スッと上手くいくものよね。
私はただ、片桐君とデートがしたいだけ。ただそれだけ。
別に、作家デビューとか本当はいらない。
芥川賞とか、直木賞とか、国民栄誉賞とか。そんなのも、別にいらない。
ただ、片桐君と。手を繋いで。
当たり前のように、街中歩きたい。ただそれだけ。
どうせ、叶わない恋なのだから。別にいいじゃない。一回位。
恋人みたいなデートさせてくれてもさぁ。
それには、私がまず小説デビューすることがかかっている。
そして、一定の評価を受ける。ただそれだけ……。
でも、難しいものは難しいものよね。
小説デビューなんて、そんな簡単な事じゃないってのはわかってるけどさ。
だって、私。箱入り娘で、実家から出たこと殆ど無いし。生まれてこのかた彼氏も出来たことない。波乱万丈の人生送ってる人なら、いくらでもネタが書けるのかもしれないけどさぁ。
私の人生からは書くネタ無いから、家にある歴史漫画を参考にして考えたのよね。
教育熱心な父が、
「将来、お前に絶対役に立つから。
社会の授業はコレさえ読んでおけば、テストの点数も絶対いいハズだから!」
といって歴史漫画シリーズ大全を買ってくれたのはいいものの……。
特に勉強に役に立つことはなく、(何しろ、マニアックな歴史ネタばかりだったので)普通に教科書読んだ方がテストの役にはずっと立っていたと思う。
あーあ。やっぱり。無理かなぁ。私に小説なんてさ。
踵を返し、トボトボ歩いて出版社を後にしようとした。
すると。
そんな私に、「あの、ちょっと待って。」と声をかけた女がいたのだ・・。