秘書誕生
片桐君の話を聞いた警察官は、
「まあ、そういう事ですか・・仕方ないですね・・。本当は、目撃談とか色々聞かないといけないんですけど。
でも、まあ・・お楽しみ中の所をこれ以上邪魔する訳にもいかないので。
私達は、ここで退散することにします。
色々と、ご迷惑おかけしました・・。」
そう言って、ぺこりとお辞儀をした。
警察官達は、捕らえられた佐藤家三人を引き連れて足早に立ち去っていった。
さっきまでの賑やかさとはうってかわって、部屋は2人きりになった。まるで嵐が過ぎ去った後の静けさのようだった。
閑散とした空気の中。黙々と片桐君は原稿を拾い集める。サラサラした髪から覗くスッと長い睫毛が、また一段と美しい。
「なんとか、あいつら立ち去ってくれたな。ふう。俺たちまで職務質問されたら、溜まったもんじゃねぇぜ。よし、咲子。原稿お前も拾うの手伝えよ!」
「えっ。片桐君・・何で?」
「何でって・・おめぇ、月野マリアと約束してたじゃん。小説書くってさ。
それには、この月野マリアが書いてきたネームが必要なんだろ?
まぁ、俺もここで話を聞いてしまった当事者だし。
おめぇの事、手伝ってやるからさ。」
片桐君が、私の目を真っ直ぐ見つめる。そして、優しくニコッと笑った。
片桐君は、笑うと目尻に皺が寄ってクシャッとなる。
その笑顔がまるで子犬のように可愛くて母性本能をくすぐってしまうのだ。
「片桐君・・」
「ごめん・・。俺さ。
本当は、お前に小説かいて面白かったらデートしてやるって言ったの。あれ、嘘なんだ。
本当は、お前に俺の事を諦めて貰う為だったんだ。
正直、お前と俺。
付き合う気とか無いから。
どうせ付き合うなら、もっと可愛い子ちゃんがいいし。
男に慣れてるような垢抜けた女の方が、俺も気楽じゃん?
お前みたいなガリ勉女が、下手に付き合うと一番めんどくさいんだっつーの。
正直、本気でまさか小説書くなんて思わなくてさ。
まさか、俺のせいでこんな事にお前が巻き込まれるなんて・・。
これは、俺にも責任があるからさ。
だから、俺。お前の事、手伝うから。
秘書になるわ。おれ!」
・・・は?
何?どゆこと?片桐君?
小説書いて面白かったらデートしてくれるって話。あれ、嘘だったの?
「正直、俺。月野マリアの作品のファンなんだよね。
本当、どうしてこんな展開が思いつくんだろうっていつも不思議でさ。
ただの官能小説で終わらせないスリリングな展開とか、本当に天才なんだよな。
それに、月野マリアの原作なら。
絶対ヒット間違いないし!
俺にも印税沢山来るじゃん!
今のピザ屋のバイト、まじキツイしさー。
電話担当の女が、俺に最近しつこく言いよってきてさー。
まじめんどくさいなーって思ってて。丁度辞めたかったんだよねぇー。
こっちのがさ、絶対金になるじゃん!」




