マリアの想い
月野マリアが、真っ直ぐな目で私を見る。
「貴方に唾を吐いて、喧嘩を煽ったのは・・。
実は、貴方に本当に私の作品達を任せていいのか試したかったのです。
貴方は、毅然とした態度で「書かせて下さい!」と、言ってくださいました。
正直、一回しか小説書いたこと無い癖に。
一体、何処から湧き上がるのか?その自信?
根拠の無い自信に溢れた女性・・。
私の作品は、並大抵の神経の人間では描けません。その位、世界観が病んでます。
なにせ、私がドラッグ決めながら脳内トランス状態で書いたような作品ばかりですからね。
貴方なら、きっと大丈夫です・・。」
月野マリアの瞳には、涙が溢れていた。
クスリ漬けになり、神経を擦り減らしてまでもなお命懸けで書き続けた大切な作品を私に任せようとしている。
私は、その熱い彼女の気持ちに答えたい・・。心の底から、そう思ったのだ・・。
「月野マリアさん・・。
貴方の気持ち、しっかり受け止めました・・。
私に・・私に・・貴方の世界を書かせて下さい!正直、まだ私もロクに小説なんて書いた事なくて。どうやって書いたらいいかさえもわからなくて・・。
でも、どうしても貴方の作品を書きたい・・。
月野マリアとして・・。
そして、月野さんが出所した頃には・・。
私の作品を読んで欲しい・・。
だから、それまで絶対生きて下さい!
こんな事で、月野さん!
貴方、死んじゃダメですよぉ!」
と、私は月野マリアに向かって叫んだ。
ダメです。月野さん。
こんな事で死んでしまっては。
まだまだ。貴方には。
生きなければならない理由があります。
ずっと、親のいいなりで自由も恋も奪われて育って来たんです。
親に騙されて飲まされ続けたクスリによって逮捕され、親の金の為に働いた仕事で性病貰って死ぬなんて。
駄目ですよ。
そんなの。月野さん。
貴方には、まだまだ・・
幸せになる権利だって沢山あるんです。
どうか、お願い・・生きて・・生きて・・
生きて帰って来て下さい・・。
気づけば、私の目にも涙が溢れていた。
片桐君が、無言でそっと指で涙を拭いてくれた。片桐君は、こういう所本当に気が利くし優しい人。
でも、その優しさが時として仇になることもある。
だって、私は諦めようとする度に貴方の優しさに呼び止められてしまうのだ。
そして、また貴方の事を諦められなくなり。
私は、貴方をまた追ってしまうのだ。
どうして、私に気がない癖にこんなに優しい事の?ねぇ、片桐君・・。
「月野・・。おめぇ、絶対生きて帰って来いよ・・。」
片桐君が、月野に言った。そして、少し優しく微笑んだ。
「咲子さん・・。片桐さん・・ありがとう・・。」
そう言って、月野マリアは優しく微笑んだ。
「もう、いいか?いい加減、もういいよな?」と、警官の一人に言われ、月野マリアは「はい」と頷いた。
そして、三人は警察官達に連行された。
佐藤さんの、
「貴様らぁぁぁ!
私を捕まえたら、どうなるかわかってんだろぉぉなぁぁぉ!
後で全員まとめてパンツズリ降ろさせて、チンチンの先っぽに生姜乗せてやるぅぅ!
地獄に全員突き落として、熱い鉄板の上で「アチチアチ!燃えてるんだろうかー」と郷ひろみのヒット曲を歌わせながら、裸踊りさせてやるうううう!」
という、訳のわからない寄声を聞きながら・・。
恐らく、佐藤さん自身もクスリ漬けだったのだろうと。
私と片桐君は、この時察したのだった。




