哀しき玩具
私の目の前で、月野マリアが項垂れるように塞ぎこんでいる。「うっ・・うっ・・」と、嗚咽混じりの声を上げて泣いている。
「月野さん・・。大丈夫ですか・・?」と、恐る恐る声をかけるとジロッと月野マリアに睨まれた。
怯えた私を、片桐君がそっと肩に手を置いて「まあまあ・・。」と諭してくれた。
私がずっと大切にしてきたモノを、月野マリアは大事にすることすら許して貰えなかった。
親は、子供の事を第一に考えるものだ。
それが当たり前だと思ってきたけど、月野マリアの幼少期にその概念は微塵も無かったのだ。
月野マリアは、生まれた時から。
両親の哀しき玩具だったのだ。
母親のエゴで、実の父親の性欲を満たす為に使われて。反対すれば、母親に包丁で振り回されて。
処女。それは、本当に心の底から捧げたいと思う人に捧げるものだ。
私は、ずっとそう信じてた。
でも、実際問題。
本当に心から好きな人に処女を捧げてきた人が世の中に一体何人いるのだろうか。
私のクラスの女子の一人も、
「最近さぁー。好きですって言われてさぁー。別に好きでも無かったけどー。
そんなに、何度も好きって言ってくれるならって思ってぇー。まぁいっかーみたいなー。
初めてだったけどー。
なんか気持ちいいというより、ただひたすら痛かったって感じでぇー。」
と、誇らしげに語る奴いたっけ。
皆にとって。本当に処女って何?
そんな簡単に与えていいものなの?
ねえ?だって、処女を捧げるのってさぁ。
人生で、たった一度切りしか無いんだよ?
しかもさぁ。
実際体験したことないから私もピンと来ないんだけどさぁ。
初体験って、すっごい痛いって聞いたことあるし。
ただでさえ、女のあんな狭い所に男のあんな大きいモノが入るんだよ?
しかも、最初は血飛沫が凄いって。シーツ真っ赤に染まるって・・。
なんかもう。想像しただけで・・・
絶対、絶対やばいって!
だけど。私。
大片思い中の片桐君なら・・いいのかな・・。
それでも、正直。
いざとなると怖いなぁと思うのは。
大好きな片桐君に、私のあんなグロいものを見せなければならないという事だ。
自分の性器が一体どうなってるのか興味があり、手鏡で覗いてみた事がある。
正直、あまりのグロテスクさに自分が自分に嫌いになりそうだった。
みんな、よくこんなものを簡単に男性に見せれるなぁと思う。
私なら、正直恥ずかしいよ。
まして、大好きな人に・・。
片桐君が、もし私のアソコを見てしまったら。
私の事、嫌いになってしまうだろうか。
「お前、こんなにグロいのかよ。
こんなグロいの初めて見たよ。まじ、キモいなお前。」
とか言われたら、どうしようって思っちゃう。
ねえ。ねえ。ねえ。
皆どうしてそんなに平気で、彼氏に見せられるの?
っちゅーか。
こんなにグロいの、もしかして私だけ?
うーん。
もしかしたら、親友のマリコのは薄ピンクの綺麗なヤツかもしれないし。
それで、金持ちのお嬢様の明美とかはさぁ。
アソコに真珠とか埋めてるんじゃないの?
こんなの見せておきながら、「オホホ、あらぁ、咲子ってば。はした無いわぁ」とか上品に笑えるレベルじゃないよね?
確か、エスカレーター式の大学行ってるお坊っちゃんの彼氏と交際してたと思うんだけど。彼氏は、アソコに何埋めてんのかしらね。
もしダイヤとか埋めてんなら、そのままプロポーズして貰えるかもよ。
「俺と結婚してください。」って、アソコでプロポーズ!
一石二鳥じゃん?
早く結婚したいって言ってたし。
それで、いーじゃん。明美!
100万円位のショーメの指輪欲しいって言ってたけど、とりあえずショーツは毎日履いてよね。
ノーパン趣味らしいけど、個人的には見たくもないアンタの尻さぁ。
たまに、風の影響とかで見たくもないのに見せられる訳よ!
ハッキリ言って迷惑。そんなプレイは、彼氏と二人きりのデートだけにして頂戴!
・・と、話は少し脱線しちゃったけど。
本当。
子は親を選べないと言うが。
いくらなんでも、これは酷すぎるよね。
月野マリアだって、本当は好きな人に処女を捧げたかった筈。
だって、女として生まれたからには。きっとそうやって思うと思うの。
でも、その選択肢を彼女の意思のないうちから親が潰してしまったのだ。
そんなの、悲しすぎる。悲しすぎるよ。




