キッカケは片思いから
咲子は、36歳になってもなお処女のままだった。15の頃から片思いしていた片桐和彦に片思いを続けたままだ。
咲子は、片桐からのある提案により、小説家を志す。全ては「片桐との恋を叶えるため」という、よこしまな気持ちからのスタートだった。
しかし、向かった先は美人官能小説家のゴーストライターだったのだ・・。
子供を産む時の痛みは、鼻から西瓜を出すような痛みだとマリコが言う。
「いつか、咲子にもその気持ちがわかる日が来るといいなぁ。
本当に感動するんだから!
女として産まれて良かったって。
ああ。お母さん有難うって。
自分を産んでくれた親に対して、改めて感謝の気持ちが産まれるの。
あ、でもその前に彼氏作らなきゃダメよ!
いつまでも、選り好みしてたら行き遅れちゃうだけなんだから。」
優しい旦那、三人の可愛い子供。マイホーム。
幸せの全てを手に入れた親友のマリコは、私にとって人生の勝ち組だ。
私ときたら。
36年間、出産や結婚どころか。
彼氏すら出来たことない、生粋の処女なのだ。
男と初体験すらしたことないのに、出産の話なんて難易度高すぎて、聞いてるだけで鼻血でそうだった。子供を産む時に鼻から西瓜を出すような痛みが起きるならば、男のアレが女のアソコに入った時は一体どんな痛みなのか。
そんな体験したことすらない癖に、私はゴーストライターで官能小説を書く仕事をしている。
もちろん、親にも、マリコにも。誰にも、内緒だ。
こんな事を知ったら、みんな心配するだけだろうな。
ただでさえ、あんたバージンの癖に。ほら、人と付き合った事すらないじゃない? あんた何考えてんのよ? 何がわかるのよ?
何の経験もしたことも無いのに、どうやって書いてんのよ? みたいな。
こういう事を、いちいち説明するの面倒臭いって理由だけで内緒にしてた。
元々、ずっと前から作家になりたかった訳でも何でもない。
キッカケは、20年前の初恋がキッカケだ。
一目惚れして片思いしてたクラスメイトの片桐君に、「好きです。付き合ってください」と書いたラブレターを渡して告白した。
しかし、「ごめん。顔がタイプじゃないんだ。」と言って振られた。
当時の私は、それでもめげずに何度も何度も彼に手紙を送り続けた。
出した手紙は、合計40通になった。
もはや、ここまでくると「あのさ。しつこいんだけど。もう、やめてくんない?」って嫌がられるようになった。ストーカー呼ばわりもされた。
しかし、そんな片桐君から。
ある日、ある提案を言い渡されるようになる。
「お前さ。ラブレター毎回くれるのハッキリいってキモいんだけどさ、文章は正直上手いなとおもう。俺に告白するためだけに、こんな才能使うなんて勿体ないよ……。この才能を、作家として役立てたらどう?」
片桐君。正直、私から何度もラブレター貰うの面倒臭いからって理由だけなんだろうなぁとは薄々気づいてた。でも、まだまだ諦めきれなかった私は、片桐君にある提案をするのだ。
「じゃあ、もし小説書いて面白かったら。デートしてくれる?」と。