歪な世界
とある部屋のドアが音も無く開かれた。
「やぁ、いらっしゃい」
シンプルな応接室の様な部屋で、気さくに言う『死の商人』と呼ばれる男は、部屋にそぐわない黒い高級感のある椅子に座っていた。
「あぁ、初めての来店か。お望みの品は何かな」
対して、男の目の前の若い青年は無言だった。
栗色の髪に、緑の瞳。幼い顔立ちで少年にも見える彼は、白を基礎としたTシャツに、裾を少しまくったジーパンを履いた、まるでコンビニにでも行くような格好だった。彼に違和感を覚えるのは、何故か足は裸足のままだった事くらいだろう。
「武器なら、銃から刃物にマニアな物まで揃えてある。それとも逃走用のアシ?隠れ家?」
立ち上がって慣れた手順でべらべらと喋り出す男をよそに、青年は辺りを見渡していた。そして四隅に在るものに目を止めた。
「アレは?」
、、、、、、、、、、、
「あぁ、なんだ。そっちに興味があるのか」
視線の先には、首輪のついた鎖に吊り上げられている人間がいた。来ている服はボロボロで、青白い肌にはアザと血がにじみ出ていた。俯いたまま動きがなく、表情は髪に覆われていて読み取れない。
「悪いが、アレは売り物じゃない。私の趣味でね。まぁ、気にしないでくれ」
「.....悪趣味だな。売春でもしてるのか」
「まさか。趣味だと言っただろう。そのテに用なら、他を当たってくれ」
「それこそまさか、だ」
青年はそこ一旦言葉を区切ると、ゆっくりと『死の商人』に笑いかけた。
「俺はアンタに用があるんだ」
「なら手短に頼む。生憎、暇じゃないんだ」
長ったらしい話に嫌気がさしたのか、皮肉混じりに男は言う。
「そうか、そりゃ悪かったな。最後の商売に、花を添えてやりたかったんだけど」
「おい、注文がないんなら―――」
立ち去ってくれ、という言葉を喉の奥に呑み込む。青年がポケットから取り出された何かを、男の口に押し込んだのだ。
「ひぁ―――っ!?」
それは男の店でもよく取り扱われる、黒い小型の銃だった。
「言ったろ。アンタに用があるって」
「い、ぎぁ...ひょ、待っ.....!!」
男は青年の腕をつかみ、なんとか逃れようとするが、そんな暇も与えず差し金に力を加える。
「黙れよ、クソったれ」




