リアル恋愛攻略本
主人公の安藤くんはいい性格をしています。
不快になるかも知れませんがご注意ください。
ある所に冴えない男子高校生がいた。
趣味はインターネットゲームで、ゲームにログインしてはその管理会社の怠慢な仕事に不平をブツブツいうだけの、どこにでもいる高校生だった。
そんな彼の物語…。
少年の名前は、そう仮の名前で安藤とでもしておこう。
安藤は、インターネットゲームの有料チケットを買う為にゲームショップに向かっていた。
「ねえねえ、そこの学生服の兄さん」
安藤は声のするほうに振り向いた。
「オレ?」
声の主は、安藤と同じくらいの歳の少年だった。
服装も安藤が来ている高校指定の制服。
襟の所にも同学校の校章があり、明らかに自分と同じ学校の学生だとわかる。
その少年は、怪しげなリヤカーを引いている事以外は普通の少年だった。
「何してるの、君…」
「ん?家の手伝いさ。この旗見えるだろ?」
リヤカーの横に変な旗が立っていた。
『唐九汰屋出張所』
そう書かれた旗がぶらさがっている。
「最近店をやり始めてね。でも本店はめっちゃわかりにくい所にあるんよ。で、渋々出張販売しているわけさ」
「ふ〜ん…。何売ってるのさ」
「人にとっては幸運グッズさ」
「詐欺?」
「失礼な。効能がでるまでウチは一円もいただきませんよって」
「ちょびっとした効果がでただけで大騒ぎするやつね」
「んな、アホくさいことしませんって。うちの商品を使ってお客さんが満足するまで一切お金を貰わない。それがうちの経営方針ですぜ?」
「ふーん。なら、商品見せてよ」
「はいよ。お好きなだけ見てくだせい」
安藤は色々商品という胡散臭い品々を見て回る。
ふと安藤の目に一冊の本が目に留まる。
「これは?」
「読んで字の如くですぜ」
「リアル恋愛攻略本?」
「それを選びますかい?」
「なんなの、これ?」
「ゲームに恋愛シミュレーションというジャンルがありますやろ?ゲームによっては攻略本とか出てるじゃないですか。これは、リアル。すなわち現実に適用される攻略本ですな」
「嘘だぁ」
「ま、効果なければ捨てたっていっこうに構いませんです」
「ふ〜ん…、じゃあ試しに貰っておくよ」
「ん〜、あんまりそいつはお勧めできませんがね」
「ん?なんでよ…」
「もし、使うなら緩やかにお使い下さいね。こいつの効果は強烈ですから」
「ふ…、まあ。忠告として聞いておくよ」
「それでは…。はい、毎度。効果が現れて満足したらお金払ってくださいね?」
「わかった、わかった」
そうして安藤は家に帰宅した。
安藤は、自室でリアル恋愛攻略本とやらのページを開く。
「白紙じゃん…」
全てのページが真っ白だった。
「いや、ちょっと待ってくれよ」
「!?」
本がいきなり喋った。
「まだマスター登録していないんだから白紙に決まっているだろう。マスター登録をしてくれよ」
「ほ、本が喋った!?」
「本が喋ったらいけない法律なんかないだろうもん?」
「いや、そりゃないけど…。さてはどっかにマイクが?」
「ないよ。こんな本なんだから喋っても不思議はないと思うけど?」
「そういう問題か?」
「まあ、現代社会に置いて疑ってかかるのは当然の選択だ。君、なかなか正しいよ。うん」
「な、なんか変な事言っている」
「信じられないのは無理ないか。オレの存在など現実社会では異質にちがいないしな。だがな、疑ってかかってばかりではオレという便利なツールを使い損ねるよ?」
「やけに理屈っぽい本だな」
「事実を言っているだけだ」
「なんか、アニメやゲームの世界みたいだな」
「んで、マスター登録するの?しないならさっさと捨ててくれ。オレは違うマスターを探すから」
「いや、待ってくれよ。聞きたい事がある」
「何さ?」
「マスター登録とやらをした瞬間に課金が発生したりしないのか?」
「お前な、人の話を聞いていたのか?唐九汰屋はあんたが満足するまで金はとらないと明言していただろう」
「そ、それはそうだけど…」
「あんまり人を疑いすぎるのも損するだけだぜ、相棒?」
「いや、まだ相棒になったつもりはないんだけどな」
「だぁー!じれったい。マスター登録する気がねえのならさっさと捨ててくれ。そっちのほうがセイセイする」
「わ、わかったよ。するよ…」
「おっと、そうこなくっちゃ」
「んで、どうすればマスター登録とやらは出来るんだよ…」
「ああ、オレにあんたの名前を教えてくれ。それでマスター登録は終了だ」
「ああ、そう。オレは安藤だよ」
「安藤ね。ほい、マスター登録終了っと…。さてさて、早速攻略方を伝授………って、おい!」
「ん?」
「安藤さんよ。あんた今好きな女一人もいねぇのかい!?」
「あ、うん…。まあね」
「まあね、じゃねーよ。呆れた。こんなマスター始めてだわ」
「……………」
「なんでオレを選んだんだよ、全く…」
「いや、好きな女は今はいないが彼女は欲しい。純粋な高校生の願望だろ?」
「あんたみたいなのをゲスっていうんだよ。…まあ、いいさ。あんたがオレのマスターであることは間違いない。安藤さん、あんたに攻略可能な子をピックアップするから選びやがれ」
リアル恋愛攻略本は、一人でにページをめくっていく。
そこには三人の女が映っていた。
「最も安藤さんと相性のいい女の子だ。この中から選びな」
「ふ〜ん…。あ、この子同じクラスの子か。ああ、この人は確かよく電車で見かける子だね。この子は確か後輩だったか」
「右から順番に伊沢絵里、宇喜多亜矢、江口友紀だな」
「ああ、そうそう。そんな名前だった」
「で、どの娘にするよ?」
「ん?全部は無し?」
「は?」
「だから全部」
「貴様というのを最低男というんだよ!何が全部だ。誰か一人に絞れ!」
「いや、どの娘も捨て難い。ゲームでもあるじゃん。同時攻略」
「てめぇは、信じられねぇゲスだな。いいか、よく聞け。これはリアルなんだよ。軽い遊び心ならオレを使うな。今現在、この娘らは貴様のことをミジンコ程度にしか思ってない。それを攻略しようとしてるんだ。いうならばチートを使ってこの子らの心を動かそうとしているんだよ。それだけでもちっとは良心のある奴は呵責に苦しむというのに、貴様というやつは!」
「わかったよ、選ぶよ。んじゃ、この娘」
「適当に選びやがったな。まあ、いいさ。伊沢絵里…。この娘でいいんだな?」
「ああ、いいよ」
「うんじゃ、攻略法だ。しっかり頭に叩き込め。」
翌朝、安藤は朝早く自宅を出た。
そして、いつもより一本早い電車に乗る。
一両目の電車に乗り込み、イベントを待つ安藤。
伊沢を発見し、半信半疑でリアル恋愛攻略本の言うイベントを待っていた。
伊沢の背後にサラリーマンらしきおやぢが立っている。
(うわ…、本当に痴漢されてる)
安藤は冷静に痴漢の手を掴んだ。
「あんた、何してるの?」
「うぇ!?い、な…なんだね?」
痴漢おやぢは顔を蒼白にして安藤の顔と安藤に掴まれている手を見る。
「見てたよ、オレ」
小声で言うのがポイント。
あまり大騒ぎにしてしまうと伊沢の好感度の上昇率があまり上がらないらしい。
「う…、ご、ごめんなさい…。許して下さい」
蒼白の顔で小声ながら謝るおやぢ。
「次してるのを見かけたら、速攻で警察に突き出すからね?」
そう言い終わるとおやぢはそそくさと逃げていった。
やがて、学校のある駅に着き何食わぬ顔で電車を降りる。
…………ベタすぎる。
こんなんで本当にうまくいくのか?
そんな事を思いながら登校した。
安藤は自分の席に着き、次のイベントを待っていた。
「安藤くん…」
伊沢が声をかけてきた。
「ん?」
安藤は何食わぬ顔で伊沢を見る。
「朝、ありがとう…」
「朝?………ああ、災難だったね。犬に噛まれたと思って忘れた方がいいよ」
ここでの注意点。
恩着せがましい発言はNGだ。
あえて素っ気なく。
これがかなり重要らしい。
………ホントかよ?
「うん、そうする。ありがとうね」
伊沢は可愛く笑って去っていった。
これで今日の伊沢イベントは終了だ。
やがて自宅に帰り、リアル恋愛攻略本に今日のあらましを説明した。
「…というわけだ」
「よし。それでいい。伊沢ちゃんのお前に対する好感度は急上昇だ。次はいよいよトドメのイベントだ」
「もうトドメかよ?」
「なんだ?オレは最短コースをチョイスしてやったんだぞ。不服なのか?」
「いや、早いに越したことはないな…」
「お前、現金な奴といわれないか?」
「ふ…、なんとでも言うがいいさ」
「まあ、トドメのイベントについてだが…」
「な、何?」
「これで伊沢ちゃんの愛をゲットできるんだ。安いものだろ?」
「……………う〜む」
「死にはしねぇよ。お前が死んだらバットエンドじゃないか」
「…………わかった。それでいこう」
次の休日、安藤はイベントのため街にでていた。
しっかし、ベタな展開に巻き込まれやすい娘だな。伊沢って…。
「は、離してください!」
…………始まったか。
「いいじゃん。オレのドライブテクみたらきっとその気になるって」
伊沢がちゃらそうな大学生風の男にナンパされていた。
「私、急いでるんです!」
「いいじゃん、いいじゃん。そんな約束キャンセルしちゃいなよ。最高の夜をプレゼントしちゃうぜ?」
うわっ…。
ダサい台詞。
今までこんなマヌケなナンパ文句聞いたことないな。
さて、行くか。
「よ、お待たせ…」
「え?」
「んん?なんだ、てめぇは!?」
安藤の急な(本当は作為的)出現に伊沢は目をパチクリとしていた。
「この子との先約の相手だよ。さっさと行った、行った」
安藤はチャライ大学生にしっしっというポーズをとる。
「ガキが何いってやがる。とっとと帰って母ちゃんのお乳でも飲んでな」
「あ、安藤くん…」
「いいから黙ってオレに合わせて?」
ヒソヒソと伊沢に打ち合わせる。
「悪いけど、自分の彼女がナンパされてるのを見てるほどオレはお人よしじゃないぜ?」
うわ、こんなカッコイイ台詞をほざく日がオレに来るとは…。
だが…
「ほぉ〜う、かっこいい事言っちゃって…。彼女の前で恥かかせてやるよ!」
うへ…。
わかっていたとしても怖い。
だけど…。
チャライ大学生は安藤をボコボコにする。
「ぐふ…、ぶ…、うご…」
安藤のノックアウトに白けたチャライ大学生は興が削がれたように立ち去っていった。
女の為に身体を張るってかっこいいけど、ボコボコになるんならマイナスなんじゃ?
本当にこれでいいのか?リアル恋愛攻略本よ。
「ててててて…。い、伊沢。大丈夫?」
「う、うん。私は平気だけど、安藤君が…」
「い、いや。対したことないよ。これくらい」
いえ、死ぬほど痛いです。
二度としたくありません。
「ごめんね…」
伊沢が泣きそうだ。
んと…、フォローが
「伊沢を守れて良かったよ。偶然…通り掛かって……良かった」
偶然ではありませんがね。このイベント事前に知っていたし。
「立てる?」
「う、うん」
ホントは立つのも辛いけどあまりにも倒れっぱなしだとマイナスらしい。
しかたないから我慢して立つ。
「この前といい、今日といい…、安藤君。かっこよすぎるよ…」
伊沢の顔が赤く染まる。
安藤は心の中でガッツポーズを決めていた。
あくまで心の中でだが。
その夜…。
「うむ、後は伊沢ちゃんの告白を待つだけだな。オレの役目は終わりだ」
「え〜?他の二人は?」
「お、おいおい。もう他の女に手を出したら本当に洒落にならんレベルなんだぞ?」
「は?」
「伊沢ちゃんはもう完璧にお前に惚れている。もし、お前が他の女に手を出しているところ見られてみろ。伊沢ちゃんは、嫉妬のあまり何をするかわからんのだぞ?」
「え?」
「それがオレの力なんだよ」
「じゃあ、うまく伊沢にばれないように他の二人と付き合うことが出来るようにしてくれよ」
「いやだね。オレは人格者なんだ。そんな貴様のようなゲスの頼みをホイホイ聞いてられるかよ」
「いいじゃねぇかよ。オレはお前のマスターなんだぞ?」
「ああ、伊沢ちゃんを落とした時点でマスター契約は解除しているぞ。もはやオレはお前の所有物ではない」
「なんだよ、使えねぇなぁ」
「お前な。他力本願でここまできたくせにやけに態度でかすぎないか?」
「せっかく舞い込んだ幸運なんだ。ありがたく利用するのが人間だろ?」
「よく言うよ。いまだ唐九汰屋に金すら払ってないくせに」
「後二人と付き合うことになったら払うよ。第一オレ、まだ幸運と思ってないもん」
「…………………」
「おい、どうした?黙り込んで…」
「…………………」
「おい?」
「お前には付き合ってらんねーよ。オレは帰る。じゃあな」
リアル恋愛攻略本は、そう言い残して安藤のもとから去って行った。
エピローグ
「あれ?伊沢…。彼氏は?」
「ああ、あのカスのこと?」
「カス!?」
「あの男さ。最初は男らしくてかっこいいと思ってたんだけど、付き合ってるうちに段々メッキが剥がれてきてさ。なんていうかすっごい自己中心的で100年の恋も冷めたわよ」
「え?そうだったの?」
リアル恋愛攻略本が道端に落ちていた。
それを拾う唐九汰屋の少年。
「やれやれ、オレはちゃんといったんですけどね。緩やかに使え…と。いくら完璧なマニュアルに沿って行動しても中身がついてかなきゃ意味ありませんからね…」
少年はリアル恋愛攻略本をリヤカーにしまう。
「どうです?あなたもリアル恋愛攻略本を使ってみたいですか?私と道端で会えばいつでもお売りいたしますよ?私はこの近辺でリヤカーを引いてあなたのお越しをお待ちしております…。それでは今日はここまでです」
END
いかがでしたか?
戦記、提督立志伝の息抜きにこんなもの書いてしまいました。
ミステリーになるのですかね、これ。
もしよろしければ感想を頂けたら狂喜乱舞いたします。