表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

リョウ05' 探偵ごっこもここまでだ・・・

                5'

ゲンジがオーナーに連れられ修理に向かうため

玄関から出たあと カレナリさんは突如一言を言った

「この旅館のオーナーのことなんだが 山の下にある町の住人によると

すこぶる美人らしく若いうちに都会から帰ってきて

親からこの旅館を受け継いたらしいんだが

いまのオーナー あれはどう見ても男にしか見えないけどな」

「はは 彼氏じゃないですかね」

「まあいいだろう」

とカレナリさんはこの話を切り上げたが

かなり興味深い話だ っていうかすこぶる美人だから見てみたい・・・


その後 俺たちは2階のカズマさんの部屋に来た

ドアを開けた途端 錆びた臭いが漂ってきた

「錆びくさいですね」

「まあ 血だから しょうがない」

カレナリさんも明らかにいやな顔をしている

「死因は首筋を切られたのですかね」

「いや違うな」

「え?」

「切られたのではなく おそらく横から喉を貫いただろう」

「貫いた? なにでですか?」

「わからない このあたりに凶器は見かけなかったからな」

と言い しゃがみこみ カズマさんの死体をじっくりと見つめ

「抵抗はしていないな 首の傷以外目立った外傷はない

やはり 油断させられた可能性大だな」

「それなら やはりハルカさんが?」

「わからない オーナーの言ったようにもし殺したのなら

あんなに早くは食堂は来れない・・・だが」

と言い カレナリさんの目線が鋭くなった

「だが?」

「だれも嘘をついてないという証拠はない お前さん 

アガサ・クリスティの《オリエント急行の殺人》を読んだことないか?」

アガサ・クリスティ?

「《そして誰もいなくなった》の作者ですよね

俺 あまり本を読まないんですよ すいません」

「いやいい まあなんだ 

《オリエント急行の殺人》のストーリーはともかくだが

乗り込んだ車両の関係者はほぼ共犯というインパクトのある話だ」

ほぼ共犯 そりゃすげー 完璧犯罪ばっちりできるじゃないか

とそこで俺は気づいた

「まさか カレナリさんが言いたいことは?」

「あぁ 犯人は一人じゃない 二人 もしくは三人だってありえる」

三人 俺 ゲンジ カレナリさんを除く残りの三人か

「すまないが いまの言ったことは根拠のない話だ

もう少し見て 考えさせてくれ」

「あ はい」

俺は死体を直視できずにただ横に立っていた


しばらくすると 俺はもう耐えられないが

カレナリさんはまだ見ながらなにかを考えている

声をかけようと思ったその時

「女があやしいな やはり」

と突然カレナリさんがつぶやいた

「どういう意味ですか?」

「っふ まあ これを見ろ」

と言い カレナリさんはベッドの後ろにある壁を指した

「はい?」

しかし俺はその血が真っ赤に染まる壁のどこがおかしいのか

まったくわからなかった

「よーく見るんだ なにかシルエットを見えないのか?」

「んー・・・ っは!!」

なるほど これは確かに・・・


不自然に壁に飛び散った血はなにかのシルエットを囲んでいる

そう 人間のシルエットだ

「血が飛び散った時 どうやら自分にかかったらしいな

犯人も素人だな こんなミスを犯すとは」

とカレナリさんは言った まるでベテラン刑事のように

「それじゃ なぜ女だとわかるんですか?」

「なんとなくだ」

「なんとなく!?」

俺はカレナリさんが言った言葉に驚いた

「お前さんだって背中見ただけで男か女か判別できるだろ?」

「いやまあ できますけど」

「んなもん勘だ勘 姿見えないけどワンって吠えが聞こえたら

誰もそこにネコいるって言わないだろ?」

「そうですね」

確かにその通り じっくり見れば女に見えなくはない・・・

「正直言ってこのままもっと中に入っていろいろと調べたいんだが

血が足についたらめんどうだ やめておこう」

と言い カレナリさんは踵を蹴り 階段を下りて行った

「ちょっと待ってください!!」

どこかに行こうとするカレナリさんの背中に

俺は慌ててあとを追った

・・・

・・・・・・

「で なぜ女湯ですか?」

「証拠があると思うからだ」

いま 俺たちの前に赤く書かれた湯という文字がある

「入るんですか?」

「もちろんだ」

「えー」

その即答 いろんな意味ですげー

「嫌だったら ラウンジで待ってていいぞ」

「ちょっ 行きますよ 行きますとも」

男二人で女湯に入ることなんざ人生にはもう二度とない経験となるのだろう

まったくワクワクしないがな・・・

・・・と思っていたはずなのに

「ほー」

更衣室の棚の上に置き忘れたであろうパンツを見る瞬間

俺の全身の血が滾ってきた気がする ワクワクするじゃねーか

「・・・ってか きわどっ!」

まるで一本の黒糸に紫の布切れをつけただけのようなものだ

これ ハルカさんのだろうな・・・いや

ツルミさんって可能性も などと浮事考えていたら

「ふむ いい趣味しているな」

と カレナリさんはそのパンツを手に取った

ありえなさすぎる行動に俺は言葉を詰まった

「しかし 証拠にはならないな

お前さん あとで返してやってくれないか」

「いえいえ 結構です」

と俺は両腕で胸の前でバツを作って見せた

「そうか まあほっとくのもあれだろうし 俺が返すか」

そっとカレナリさんはそのパンツをコートの中に仕舞った

・・・逮捕されてもおかしくない行為であった

「それでお前さん 浴室のほう見てきてくれんか

俺は更衣室をもっと調べておくことにする」

「わかりました」

俺は浴室に入り 浴槽などをくまなく見まわしたがなにもなかった

露天は鍵がかかっていて どうやら今日は使えない日だ

特に発見がないから俺は更衣室に戻ろうとした時

「これは・・・」

俺はシャワー台の上に置いてあるシャンプに手を伸ばした

ワンプッシュ式とよく見かけるやつだけど

「・・・外されてるな」

プッシュプッシュと押すのが楽しくて仕方ないであろうキャップが

外されていて 中身はほとんど残っていない

使いすぎだろ・・・

髪についた血はなかなか洗い流せなかったってことか?

俺は思惑を頭に巡らせながら

もう他に調べるとこなさそうな浴室から出た

更衣室でカレナリさんはまたいろいろと見ている

この図・・・犯罪的に見えて仕方がない

「お ちょうどいいところに戻ってきたな

こいつの見てくれ」

と言いながら カレナリさんは血のついた靴下を見せてきた

その上ちゃっかりゴム手袋を装着している

こいつ 絶対に小説家じゃねえぞ・・・

「これは 血を踏んだ靴下ってことですか」

「まあおそらくな 洗面台と棚の間に落ちてあった

ったく 素人にもほどがある うっかりすぎるだろう」

カレナリさんはどこかががっかりしているようにみえる

・・・なにを期待してたのかまったくわからないがな

「まあ 慌ててたんじゃないですか?」

「だろうな でそっちはなにか見つかったのか?」

「空になったシャンプのボトルくらいですよ」

「まあ 血を洗うために使ったのだろう」

・・・血のついた靴下があればシャンプなんかどうでもいいだろうけど

「よし これで犯人は特定できるな

女湯に入りたがる変態がいない限りな」

・・・俺たちは例外だよね 

「少しばかり話を聞いたほうがよさそうだな」

「そうですね ・・・?」

この時 上の階からなにか聞こえた気がする

「お前さんも聞こえたのか?」

「えぇ なんとなく上から」

嫌な予感がする・・・ 

「とにかくすぐに上がるぞ!」

と言いカレナリさんは駆け出した

俺もその後に続いて 2階に上がり

二人がいるはずの部屋の前にきた

「ツルミさん ハルカさん 大丈夫ですか?

聞こえたら開けてください!!!」

と俺はノックしながら問いかけた

しかし返事はない 静寂だ

くそ 鍵がかかって開けられない

「おい お前さん そこをどけ!!」

カレナリさんはそう言いながら手を差し出し 離れろってサインを出した

俺はうなずいて ドアの前から離れた

「ぬおりゃぁあ!!」

カレナリさんは雄叫びを上げながら ドアを蹴り壊した・・・

ただものじゃない とても小説家には見えない動きだ

などと感心する前に・・・ 

俺は目の中に飛び込んできた光景に

恐怖ともいえず 戦慄でもなく ただ素直に

「っざけんなよ くそ!!!」

・・・ここにある理不尽さに怒るばかりだった


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ