ゲンジ03 最初の犠牲者
03
「ふぅ~ いい湯だ~」
「生き返るね~」
今 僕たちはまさにしなければならないことをやり遂げようとしている
そうだ 温泉だ
温泉旅館に来て温泉に入らないなんて頭どうかしてる
夕食の前に風呂入ってさっぱりするのが常識だ
そしていかに温泉を効率よく数多く入るのがポイントだ
僕はいままで無駄に旅してきたわけではない
まあ それに関してリョウも同じだが
「混浴がないのが残念だぜ まったく」
「いや だからないって 君はどんだけ混浴したいんだよ」
とことんこの男には呆れ果てるな
「ったく これだから純情ぶってる"ガキ"はわかってねーな」
「リョウ・・・ 引きちぎるよ」
腸とか引きちぎってみると楽しいかもな
「ごめんなさい」案外素直だ
温泉から上がって僕らは旅館にある浴衣に着替えた
部屋に戻り泊りの準備のため荷物を取り出し始めた
「えーっと PSP 黒子 iPad Pc・・・」
「遊ぶ気まんまんだなおい!!」
「遊ばないと退屈だろ常考 あっプレイボーイあるけど いる?」
「いらねーよ!!はぁ・・・僕は風景をスケッチするから邪魔しないでね」
「え?唄ってもだめ?」
「だめだ!!」まったく油断ならない男である
「ん・・・そろそろ7時だな 飯食いに行こうぜ」
「あぁ そうだな 夢中するとついに時間を忘れてしまうな」
「俺もりんを攻略し終えて みおちんを攻略中だったぜ」
「リトバスかよ!!!」だからあんなに静かだったのか
「なんだ 知ってるのか ちなみにエクスタシーだぜ」
「くそ あとやらせろ!!!」
・・・・断じてなにかのイベントシーンを見ようとしているわけではないぞ
階段から降り 廊下を渡り 食堂を目指す途中だった
ラウンジからあの喪服を着た不気味な男が現れた
近くて見ると背は高く
服の上からでもわかるようにガッチリとした体格である
不気味さより威圧感を感じてしまう
「なんだびびってんのか ゲンジ」
「ガタガタガタガタガタガタガタガタ」
「しょうがないな・・・
あの 俺たちは旅してる学生で俺はリョウでこいつはゲンジロウですけど」
と僕がこの男にびびりまくってるところにリョウが率先して話かけた
「ん?あぁすまない 考え事して歩いていた 俺はカレナリだ よろしく」
低くて渋い声だ しかしどこかが量り知れない
「はい 短い滞在ですが よろ・・よろしくお願いします」
どうにか声を出せたが震えている
「うん」とカレナリさんは頷いて食堂へ向かった
「おい 怖がりすぎだろ 大丈夫か?」
「はは 君に心配されるとはな 大丈夫だ さあ行こう」
「だといいがな」
しかし なんだろうこの不安は
これからここになにかが起きような気がする
ただの杞憂だろうか・・・
食堂に入ると 濃厚なシチューのにおいが漂ってきた
オーナーが作っているのだろうか これはなかなかの腕前と言える
かなり期待できそうだ
周りを見てみると
もう既にテーブルにハルカさんとカレナリさんが着いていた
ハルカさんに至ってはもうワインを仰いでいる
「あれ? ツルちゃんいないな」
「あとはカズマさんだね」
カズマ・・あのおじさんか ツルちゃんもそうだが なにをしてるんだ
僕とリョウは積に座るとオーナーは厨房から出てきた
両手それぞれにトレイがあって そのうえにシチューやコップが乗っている
「お待たせしました 自家製のビーフシチューでございます」
と言いながらテーブルに敷いてあるクロスの上に置いた
その後 何回か厨房に出入りを繰り返し シチュー6人分をテーブルに置いた
6人分 つまり全員ここで食事するはずだ
2人がいないのはなぜだ
「カレナリさんワインは飲まないのかしら なかなかおいしい赤ですわよ」
「いや ここでは酔いたくないんだ すまない」
ハルカさんとカレナリさんはなぜか普通に雑談をしている
ハルカさん 旦那が来てないことになにも思わないのか
時計を見ると7時10分 10分も過ぎている
胸に不安が募る一方だ
「すいません オーナー」
オーナーが飲み物を注いでいる
「はい なんでしょうか」
「ツルちゃ・・ツルミさんを知りませんか?
オーナーの手伝いをしていたはずだと思いますが」
「えぇ その件ですけど 遅れて申し上げてすいませんが
実は私が調理をしているころ 取りたいものがあると言い
2階のほうへ行かれたと思いますがなかなか帰ってきません
私もここで調理をしていて忙しくて見にいけませんでした
一体なにをしているのでしょうね いまから私様子見にいきますね」
「いえ 僕が行ってきますよ
オーナーはここで食事の準備を続けてください」
「そうですか では お言葉に甘えてお願いします」
会話を終え 食堂から出ようとした時
「俺も行くよ 二人のほうがいいだろう」とリョウがついてきた
「まあ いいだろう」
と二人で食堂から出た途端
「あっ」
僕らの前にツルちゃんが立っていた
「え?どうしたの 二人とも私の顔をじっと見て」
「いや ごめん これからツルちゃんを探しに行こうと思ったけど
こんなにあっさりに見つけて なんだか拍子抜けっていうか」
「ツルミさん浴衣素敵ですね」
しっかり見ると確かにツルちゃん浴衣だ
「ありがとうね リョウさん」
「あーそうか 2階行ったあと温泉行ったんだね ツルちゃん」
だから浴衣で少し遅れたんだ
「まあ そうね」
気のせいだろうか なんだかツルちゃん元気がない
「よし ツルちゃん見つけたしディナーと行くか」
「いや待てよ ツルミさんだけじゃないだろ」
なんと リョウにつっこまれてしまうとは・・・まあ わかってるけどね
「カズマさんね 部屋どこだっけ?」
「2階の手前の01号室だったはずだ」
「なぜわかった!?」
「向かい側の部屋にオオジって紙がはってたぞ」
まったく気づいてなかったぜ ってことは僕のもか!!
「まあ とにかく行こう ツルちゃんは先に食堂に入ってて」
「あ うん わかった」
俺たちはツルちゃんと別れ 2階にあるカズマさんの部屋へ向った
「なあ ツルミさん どこか調子悪いかな 元気なさそうだったな」
階段に昇ってる途中 リョウが話かけてきた
「まあ 湯浸かりすぎてのぼせただろ」
「そうか ならいいけど」
リョウはめずらしく考え込んでいる
部屋の前についた 僕はドアにノックし
「カズマさん いますか?もう夕飯の時間ですよ」と言った
しかし返事はおろかが 物音すらしない
「この旅館 防音壁なのか?」
「いやどう考えても そんな高価なものは設置してないと思うよ」
と僕はつっこみつつ ドアノブに手をかけた
「開いてる・・・」「まさか・・・な」
僕は息を目いっぱい吸い込んでドアを開けた
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「なんなんだ これ」
「あー うそだろ」
僕はいま腰を抜かして泣き面になっているに違いない
あのムードブレイカーのリョウでさえ絶望のような顔をしている
首から大量に噴出したであろう血が少し黒く固まり
誰がどう見てる 死んでいる としか見えないだろう
・・・・・・
さぁ この夜の初めての犠牲者の
オオジ カズマ だ・・・