金属製の手
《レーフェル1よりCP。敵の様子が変だ》
通信が入ったのは、変わり種と交戦していたレーフェル小隊からだ。
「こちらCP。どうした?」
《いや、その……仲間割れ、か? エリートと、変わり種が戦闘を始めた》
通信を受け取った通信士は何だそれは、と思う。
だが、この通信士以上に、現場にいるレーフェル小隊は困惑していた。
《どちらを攻撃すればいい? 指示を》
「どうした? 何かあったのかい?」
通信士の異常に気付いた副隊長が通信士に問う。
通信士は先ほどの会話を説明した。
「さて、こういうのは参謀殿に聞くのが早い。どうされるのかな?」
副隊長は、責任を丸投げするように、背後の上司に話を振る。
「退避だ退避。無駄に消耗するな」
その上司の指示は迅速だった。
その指示に従う通信士の仕事もまた、迅速だった。
「CPよりレーフェル1、後退しろ、それに関わるな」
《了解、後退する!》
通信が一旦途切れた。
「どう見る? あの状況」
「連中の考えなんぞ分かるものか。ただ、願ってもないチャンスだ、としか言いようはない。
連中が仲間割れ――――うまくいけばこの作戦、ずっと楽になるぞ」
▼
拳同士がぶつかり合い、拮抗。
数秒でお互い拳を引く。
「力は五分みたいね。レイト、『支給品』の使い方は分かる?」
「何それ?」
続いて2撃目。今度は叩き潰そうと、拳が振り下ろされる。
そう何度もさっきのように受けてはいられない。そんな義理もない。
僕らはバックステップで躱す。
ただでさえ着地の衝撃で陥没していた地面が、さらに陥没する。
「やっぱり覚えてないか……じゃ、教えるね。『拳に金属製のグローブがある状態』をイメージしてみて」
僕らが着地する頃、3撃目が放たれていた。
1撃目と同様の、右ストレートだ。
「分かった!」
金属製のグローブ――――。
僕は、さっきナクアが使ったあの拳を想像した。
あれなら鮮明に覚えている。
《呼び出しを確認。Gr‐T通常起動》
何かが右腕で組み上がる感覚、そして、使えた、という実感。
僕の手に鋼色のグローブが装着される。
拳と拳の衝突。だが、今回は拮抗しない。
―――僕の拳は巨人の拳を破壊する。
そして、その拳を破壊しただけでは飽き足らず、その腕を破壊し、その肩までをも粉砕した。
血と肉、そして砕けた骨が散乱する。
そして、力の余波が巨人そのものを吹き飛ばした。
巨人は地面を転がっている間も、静止してからも、何が起こったのかを理解できていない様子だったが、しばらくしてから、今更のように、すさまじい痛みに悶え、のたうちまわり始めた。
巨人の大きさは2階建ての家くらいだ。
そんな巨体が大暴れし始めたものだから、そこらじゅうの建物――もう使い物にならないであろう建物が大半だけれど――が破壊される。
舞い上がる瓦礫、吹っ飛ぶ鉄骨、非常に迷惑だ。
「レイト、もう一発。止めを」
僕はナクアの指示通り、装着されたままの金属の拳を構え、そして――――放つ。
巨人の首に、僕の必殺の右拳が極まる。
まず頭が原形も残さぬほどぐちゃぐちゃになり、吹き飛んだ。
次に、胴体の肉が、骨が、崩壊を始めた。
残っていた左腕、その肩から先が弾かれるように吹き飛び、胴体に入った亀裂から臓物が溢れ出す。
溢れ出した臓物はGr‐Tの衝撃により、ミキサーにかけられたように、赤い液体へと成り果てる。
すでに片腕を失っていた巨人は、全てが終わるまでに、その機能を停止していた…………。