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世界のだれかが紡いだもの  作者: 新巻鮭
4章・鏡の中身
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悩む者たち

「…………で、レーフェル隊の損害は大破1、小破2、死亡者ゼロ、ってところだよ」


 閑静な事務室に書類が放られる音が響く。

 機体の被害はあったものの、レーフェル隊は結局全員が帰還した。


 そのことに不満があるワケではない。だが…………。


「今回襲撃があった街は、君の実家があるところだったな」


「まあ――――ね」


 そう、今回襲撃されたのは、他でもない、彼自身の実家の所在地だ。

 他人ごとではすまされないところがあったはずだ。


「無事は確認済みだから、どっちかって言うと住むとこの確保が大変だよ」


「そうか。ならいい宿を紹介してやってもいいぞ?」


 このセリフを以前にも一度聞いたことがあったのを、副隊長は思い出す。

 その時は実家ではなく、彼の兄弟の家が使えなくなった時だった。


 そして、その紹介された宿と言うのは―――――。


「ノーサンキュー、と答えておくよ」


「そうか? 遠慮しなくてもいいだろう。前にも1度あったじゃないか?」


 ――――前で経験してるから言ってるんだよ!

 という言葉は副隊長の喉元まで出かかったが、どうにか止まった。


「宿の方はこっちでどうにかするから、気にしなくていいよ。そんなことより、補給物資の確認とか、いろいろ仕事があるだろう?」


「……………………面倒だな」


「ぼやかないでくれよ。『隊長殿』?」


 俺は技術畑の人間だー。と喚く上司を何とかなだめて、机に向かわせる。


「(…………しかし、どうしたものかな? 宿)」


 後顧の憂いを断った副隊長は安心して私的な悩み事に没頭する権利を得ていた……。


   ▼


「…………このままじゃいけない」


 僕はナクアの家に戻り、1人自室にこもってそう呟いた。


 あの砲撃の直撃に関して、ナクアは「気にしていないよ」とほほ笑みながら、言っていた。

 だけれど、そういう問題じゃない。


 あれがただの携行型電磁波砲だからよかったものの、据え置き型の大型投射砲だったら?

 突き詰めて言ってしまえば、Rp‐Tを投げつけられていたら?


 ――――彼女は死んでいたかもしれないのだ。僕のミスで。


 一瞬先に世界が無数に枝分かれしていようと、生きとし生けるものが選べる未来はいついかなる時もただひとつ。ただひとつだ。


 そして――――過去は変えられない。


 世界を主観で語るなら直線だ。

 捻じれようが、螺旋を描こうが、結局世界は過去現在未来の一方通行でしかない。


 今回は大丈夫だった。それはいい。その過去が変わることはない。

 だが、次は?


 ――――次もまた同じようなミスを犯したら?


 ナクアは無事ではないかもしれない。

 そして、その事実が刻まれた瞬間、僕がナクアを救うことはできなくなる。


 僕が救えるかもしれないのは、未来のナクアだ。

 僕が殺すかもしれないのも、未来のナクアだ。

 過去のナクアじゃない。


 力が欲しい。

 未来のナクアを助けられるだけの力が。

 そうでなくても、最低限、足を引っ張らないくらいの実力は必要だ。


「…………このままじゃいけない」


 もう1度呟いた。


 僕は固有兵装が使えない。

 だから、自分の力でできることを見つけなきゃいけない。


「僕に使えるものは――――何だ?」

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