夢/現
なんで、僕は、まだ生きている?
腹……いや、胸か。
胴体でいいや、に大穴空けて、何で生きてんだよ…………。
空を見上げてみる。
曇った空だ。夕日も沈みかけて、立派な闇色に染まっている。
貧相な風景だ――――。
貧相ではあるが、どこかで見たことがあるような気がする。
ひどく懐かしい感じがした。
バカなことを考えているな、と思う。
記憶を失う前の時間はそれこそ10何年とあるのだ。
空を見上げた記憶も1度や2度ではないに決まっている。
だが、この空模様は、何か特別な意味を持っていたような…………そんな気がする。
それが何なのかは思い出せず、思い出す必要もないであろうことは分かる。
けれど、思い出したいと思える、不思議な魅力があった。
――――思い出そうか?
そう思うものの、思い出し方が分かるはずなどない。
早々に諦めてしまう。
戦況はどうなっているだろう?
ナクアが負けるとは思えないけど、彼女の手助けをしなければ。
情報素子のディスプレイを展開。
周囲の生体情報を検索する。
うぇ…………たくさんいる。
こちらは左腕が無く、支給品もまともに作動するのはDn‐Tくらいのものだ。
ああ、あとZs‐Iも動くな。
装甲服の仕込みはほとんど使い切ってしまった。
さてどうしたものか……。
せめて、左腕くらいはまともにあればなあ…………。
僕は元あった傷の無い腕をイメージしてみた。
《呼び出しを確認。S/N:000014580の復元開始》
――――ッ!?
体から力が抜けた。
いや――――違う。僕が、身体を動かせなくなった……?
身体を動かせなくなっている僕を僕とするなら、カギカッコつきの『僕』が身体を奪い取った。そんな感じ。憑依された、という表現が正しいかもしれない。
胸から何かが引きずり出される感触。
いや、引きずり出されてるんじゃない、僕が引き抜いてるんだ。
筆舌に尽くしがたい強烈な痛みに意識が飛びそうになるが、忌々しいことにエリートの強靭な体はこれほどの痛みにも一瞬で慣れてみせた。
そして、引き抜いた瞬間、僕は視界をよぎる一瞬だけ、『それ』を見た。
やはり、透明な刃だ。
透明ではあったが、血にまみれたおかげで視認が可能だ。
形状はナイフのようであったが、大きさが半端じゃなく大きい。
大形のサバイバルナイフよりも大きいだろう。
どうやって投擲してきたのかは分からなかったが、なるほどこんなものが刺されば痛いだろう。
分析をしている間にとめどなく流れ出していた血は止まっていた。
左手で触って確かめても、血こそ残っているものの、傷口らしいものは全く残っておらず、痛みもない。
「…………あれ、左手?」
いつの間にか自分の身体が動くようになって、左腕まで再生していることに気づく。
全身血まみれなのを除けば、身体機能は完全に正常だ。
――――エリートの機能のひとつ、なのかな?
これほどの再生能力があるなら、脳でも潰されない限りはまず死なないだろう。
しかし…………ナクアと合流するために無数のノーマルを限界ギリギリのGr‐TとDn‐Tで踏み越えなきゃならない。あまり思わしくない状況だ。
跳躍してしまえばすぐだが、再生したばかりの身体にあまり負荷はかけたくない。
何か装備が欲しい。
そう、目的地まで安全かつスピーディにたどり着ける…………。
「あ、いいの見っけ」