鏡面
「…………こんなものか」
とても簡単だった。とスレーヴァは思った。
エリートと言っても、コイツは人間と何も変わらなかった。
固有兵装の一発でさえ、受け止められなかった。
ほぼ万全な状態であったにもかかわらず、だ。
――――弱い、弱すぎる。
Gr‐Tで、頭蓋を握り潰し、とどめをさす。
くだらない時間だった。とスレーヴァは思った。
こんなくだらない時間は、いつまで続くのだろう。
戯れに神を呪ってみる。返答などあるはずがない。
まったくだしぬけに、ある人間がこんなことを言っていたのを思い出した。
――――いつか天罰が下るぞ。
天罰が何なのか、スレーヴァは知っている。
だが、いまだかつてそれらしい出来事に遭遇したことは無い。
――――天罰とやらを見せてくれよ。
神がスレーヴァの願いを聞き届けたのか、はたまた、ただの偶然か。
スレーヴァの正面に誰かが立っていた。
しかも、顔が自分と瓜二つの。
「…………へえ」
神様も粋な計らいをするものだ。とスレーヴァは冗談混じりに思う。
事前の顔合わせの際、あんなそっくりのエリートを見かけた記憶は無い。
つまるところ―――――。
「お前は敵だな」
スレーヴァは展開したままのGr‐Tで軽く空を殴りつけた。
人間ならひき肉になるぐらいの出力だ。
「何すんだ……よっ!」
しかし、その者はひき肉になるどころか、元気に反撃までしてきていた。
飛来する弾丸をとっさに躱すスレーヴァ。
着弾地点が爆発。爆風に煽られ、思わずのけぞる。
そこへすかさず次弾が叩き込まれる。
Gr‐Tで防ぐ。
ここにきてスレーヴァは思い至る。
「…………お前、エリートだな!」
今射かけてきたのはDn‐Sに違いない、とスレーヴァは判断する。
「ああ、そうだ。僕は、お前を殺すエリートだ」
真っ向からの抹殺宣言。
スレーヴァは実感する。敵だ。
勝負する。戦うべき。敵だ。
くっくっく、とスレーヴァは笑う。
今さっきの裏切り者などとは比べ物にならない。
面白い。面白すぎる。
スレーヴァは乾ききった喉に、水がしみこむような、そんな気分になる。
自分の渇望してやまなかったもの。
退屈を吹き飛ばすものは、今目の前にある。
スレーヴァは実感する。
人間が戦いを止めない理由を。曲解して、理解した。
ああ、戦う前からのこの昂揚感。
これで戦い始めたら、どんな心地がするのだろう。
――――神様、アンタサイコーだ!
これが天罰? いや、天の恵み、干天の慈雨だった。
世界広しと言えど、自分とそっくりな者を殺すものはそうはいまい。
『自分とそっくりな者を殺そうとする者』を殺そうと思う者もそうはいるまい。
かつてない昂揚感を噛みしめながら、スレーヴァは戦いへと、身を投じた。