破城槌
司令部のひとつを潰したせいか、人類戦線側に混乱が生じてるらしい。
「ナクア、そっちは?」
《ミュータント4つ倒したところ。レイトは?》
「そっちに向かってるとこ」
このまま連中の思い通りになるのはいただけない。
邪魔してやる。
目の前に現れたノーマルに助走をつけた蹴りを叩き込む。
仮面が、頭蓋が砕け散り、靴が赤く染まる。
勢いは殺されぬまま、僕はノーマルの遥か後方に着地する。
血で染まった右足にぬめった感触が伝わる。
人を殺したことを気にしてはいられない。
まだ周りには無数の敵がいるのだ。
建物の陰から3人が姿を現す。
僕は腰から拳銃を抜いた。
こんなところで支給品など使っていられないからだ。
攻撃は向こうの方が早かった。
僕は反射的にスウェーして躱していた。
次の瞬間、小銃から放たれた弾丸は、今さっきまで僕のいたところを正確に撃ち貫く。
僕は引鉄を引いた。
1人の胴体に命中。そいつはうずくまって動かなくなるが、残りの2人は健在。
小銃で牽制射撃を加えつつこちらへと向かってくる。
ここで一方が大きく迂回する動きを見せた。
挟み撃ちにするつもりらしい。
一瞬、迂回した方に気を取られそうになるが、充分な距離を離されている。
Dn‐Sならともかく、この銃でこの距離では動体目標に当てるのは難しい。
おそらく、それを織り込み済みでのこの作戦だろう。
僕は正面で牽制を続けているヤツに2点射を叩き込む。
連携作戦が狂ってしまい、途方に暮れている残った方は格闘で仕留めた。
――――背後に生体反応。
まだ品切れには程遠いらしい。
どうやらかなりの大所帯。
見つからないとでも思っているのか、そこから動こうとしない。
構うのも面倒だ。僕は全速力でナクアのいる方向へ駆け出した。
▼
《くそったれ、わざわざ応援しに来てやったってのに、何だこの仕打ちは!》
レーフェル3が一向に返答をよこさないCPに悪態をつく。
全員言葉にこそ出さないが、彼と同じことを考えているであろうことは容易に想像できる。
《生体反応が接近中です。数18。音響センサーによると、変わり種はいません》
レーフェル2からの報告に、レーフェル1は顔をしかめるしかなかった。
戦場全体の状況が全く伝わっていないのだ。
迎撃に出向いたら敵に囲まれていました。では話にもならない。
それよりも深刻な問題もあった。
敵の正体が分からないのだ。
この18の反応の内1体でもエリートが含まれていれば、小隊など瞬間的に壊滅だ。
「前進はするな。待ち伏せる」
とにかく、指示があるまではこの場で待機するしかない。
判断したレーフェル1は部下に指示を飛ばす。
そう、いついかなる時でも、最低限の自衛以外で指示された以外の行動を取ることは許されない。
どんな時でも――――。
たとえ、空が焼け落ちようとも。
たとえ、大地が腐り果てようとも。
たとえ、海が干上がろうとも。
指示を待つしかない。
そう、待つしかない、待つしかない――――ただ待つしかないのだ。
それが軍人だ、異存はない。
《生体反応が間もなく視界内に入ります》
トリガーにかかる指に力が入る。
ロックを解除していないので、砲弾が飛び出したりはしない。
「全機、離昇。一般の場合、先制攻撃をかける。それ以外の場合は逃げるぞ!」
砂埃を巻き上げ、脚部ホバーが起動する。
だが、敵が現れるまで、動くことはできない。
我慢比べに敗れ、かりそめの活路を求めた先には、死あるのみ。
これが待ち伏せの大原則。破るわけにはいかない。
《捉えました。全て一般です!》
「よし! 全兵装の使用を許可する! いくぞ!」