私は味方、彼は敵、敵は敵
スレーヴァは、解せなかった。
進化した者であるはずの、あまつさえエリートが自分たちに反旗を翻すことに。
人類を殺すことに、何の疑問点があるのか、彼には理解できなかった。
人類を殺し尽くし、進化した者のみで治められる世界を作る。
そのことへの疑問が、齟齬が、なぜ生じたのか。
スレーヴァは考えた。
彼は、『教育』が不完全だったのではないか、と。
何らかの手違いで知識が充分に入れられていなかったから、このようになっているのではないか、と。
「『排除』が必要だな」
捕獲し、送還し、再教育するのは手間がかかる。
『排除』がスレーヴァの中で採用された。
だが今彼の手にRp-Tは無い。
今頃、地中奥深くに潜航していることだろう。
回収は困難。使用限界を待って自動回収を待つしかない。
100万℃の刃を持つRp-Tは事実上最強の支給品。
ドロドロと溶けてゆく暇などなく、どんなものでも一瞬で断ち切ってしまう。
もっとも、100万℃でも固体状態を保っていられるこの刃と言う唯一の矛盾はあるが…………。
どのような技術で成し遂げられているかは、スレーヴァの興味の外だった。
今の彼の興味は、目の前の、先ほどまで自分の仲間だった男。
ただそれだけに向けられていた。
彼の手はRp‐Tを執っていた。
接近戦になればスレーヴァが不利なのは、火を見るより明らかだ。
「…………そうとも限らないか」
思わず漏れた呟きは、誰の耳に届くことも無く、霧散した。
呟き終えると、スレーヴァは一歩踏み出した。
前へ、敵へ。
探るように、試すように。
敵は、迷いのためにスレーヴァを排除しようとしていた。
迷いこそが、彼の信念だ。
それが晴れることが無ければ、彼に真の信念は持てない。
――――自分は違う。
スレーヴァはそう考えていた。
自分は、確たる理念、確たる大義を持っていた。
スレーヴァはこのような精神論は好きではなかったが、実力がほぼ同等なのであれば、後はコンディションだと考えていた。
迷いは、コンディションを低下させる。
彼は迷っている。自分は迷っていない。
この考えが確かなら、排除されるのは自分ではない。
《Rp‐T使用限界到達。強制武装解除》
Rp‐Tが戻ってくる。
だが、スレーヴァはすぐに展開するわけにはいかなかった。
使用限界に到達した支給品をすぐに再展開しても、満足な性能が発揮できないからだ。
それに、彼は、仮に使える状態まで回復していたとしても、Rp‐Tを使うつもりはなかった。
《呼び出しを確認。固有兵装―――――を起動、限界稼働時間まで――》
これは手加減をするつもりであるということを意味しない。
あくまで彼は本気であった。
相手が動いたことを、スレーヴァは確認する。
Rp‐Tを正眼に構え、ゆっくりと一歩を踏み出してくる。
その余裕ある動作は、排除と言うより、決闘を意識したものであった。
愚かしい、とスレーヴァは思う。
ここにきて遅れた者たちの真似事か、と。
戦いを望むのか、と。
スレーヴァは失望を隠せなかった。
付き合う気はもとより無い。
スレーヴァは障害の排除に取り掛かった。