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世界のだれかが紡いだもの  作者: 新巻鮭
1章・記憶の枷
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沈む屍の街

「じゃあ、レイト、さっきの話だけど」


 ナクアは、手ごろな高さの瓦礫のほこりを払い、そこに腰かけながら言う。


「さっきの話?」


 訊ねてから思い当たった。

 なぜこの街に人がいないのか、だった。


「どうしてこの街に人がいないのか、でしょ? 答えはとっても簡単」


 彼女は一瞬空を仰ぎ見て、視線を戻す。

 彼女が一瞬見た先を、僕もつられて仰ぎ見た。

 すでに相当遠くに行って小さくなった、アーセラーナ・フォマルティアが見えた。

 そして彼女はそれを指さして、言う。


「アレがみんなを殺しに来たから、みんな逃げたの」


「な…………?」


 何が何か、分からなかった。

 アーセラーナ・フォマルティアが街を破壊したなんて話は聞いたことが無い。

 いや、記憶を失ってるから当然なんだけれども、僕の社会常識の中に、それは含まれていなかった。


 ――アーセラーナ・フォマルティアは人を襲う――


 この概念は僕の中に無かった。


「えっと……正確には、アレが直接攻撃をかけたわけじゃないわ」


「そうなの?」


「うん、正確に言うと、適当な人間を捕まえて、洗脳して、地上に下ろすの」


 何が何だかわからない…………。

 そもそも……。


「空間限界は? 人間は高度3000メートルまでしか登れないはずでしょ?」


 空間限界とは、この世界における現象の1つで、生物にはそれに応じた空間が与えられており、それを越えた範囲で活動することはできない。


 越えようとすると、見えない壁に押し戻されてしまい、機械を使って無理やり越えようとすれば、潰れてしまう。

 この空間限界、無生物には働かないため、機械類には何の外傷も無いのに、中の人間はひき肉になっていた。という実験結果がデータに残されている。

 ちなみに、人間の空間限界はおよそ高度3000メートルまで、地中は場所にもよるため不明。

 そして横幅は『世界の中心』と呼ばれる場所から半径8000キロメートル。


 これが人類の『限界』である。アーセラーナ・フォマルティアには永遠にたどり着けない。


「関係ないわ。そもそも空間限界なんて、アレが創ってるんだもの」


 長年の研究者たちの謎に、この目の前の少女はあっさりと回答を提示してみせた。

 この少女は、どうしてそんなことを知っているのだろう?


「話を戻すね。フォマルティアは、洗脳した人を使って、この街を破壊したの」


「どうして? 目的は?」


「わからない、けど、間違いなく言えるのは、アレが人類を抹殺しようとしてること」


「じんるいを、まっさつ…………」


 これには何か、聞き覚えがあった。

 そうだ、あれは、高いところから落ちる前……。


 ―――全ては、全人類の消滅のために―――


 そんなことを聞いていたような気がする……。

 あの場所が、アーセラーナ・フォマルティアだったとすると、辻褄はあう。


 でも、どうして彼女はそんなことを知っている?

 いや、そもそも、彼女みたいな女の子が、みんなが逃げ出して、殺人鬼が跋扈する街にいること自体おかしいじゃないか。


「君は……どうしてそんなことまで知ってるの?」


 もしかしたら――――。


「私は、フォマルティアのせいで、身体の改造された」


 想像通りの答えが返ってきた。


 言葉自体はスラスラと出していたが、彼女の表情は苦々しげだった。

 聞いてから、しまった、と思ってももう遅い。


「あ、でも、人を殺したり、レイトを攻撃するつもりは、ないよ」


 分かってる。

 そもそも洗脳されてたらこんなことまでしゃべってくれないだろう。


「それは、レイトも同じでしょ? ケースは違うみたいだけど」


「落ちてくるところから、見てたもの」と言う彼女に、僕は困った顔をするしかない。

 改造された記憶も、人類を抹殺するよう洗脳された覚えも、ないのだから


「分からないよ……」


 何も分からないまま、「お前はこういうヤツだ」と言われても、実感なんて湧きやしない。 


「だって―――何も思い出せないんだ」

「…………そう、なんだ」


 彼女もある程度見当はついていたのだろう。驚いた様子は無い。

 ただ、反応には困っているらしい。


「えっと、その…………そういえばさ、君はどうしてこんなところに?」

「ん、それはね」


 彼女は瓦礫の椅子から立ち上がると、足元にあった手のひらサイズのコンクリート片を手に取る。


「こういうことしてたから、だ、よ!」


 ナクアの手からコンクリート片が離れる。

 すさまじい勢いで、僕の隣を通り過ぎ――――僕の背後で銃を構えていた仮面の集団のうち1人に命中した。


 そして、彼女はその仮面の集団に突っ込んでゆく。


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