破壊者
ナクアは対峙した。
レイトを吹き飛ばした相手に。
「レイトをどうしたの?」
知っているが、一応訊ねてやる。
さあ答えろ。答えた瞬間からお前の死への転落劇が始まる。
「俺が《呼び出しを確認。Gr‐T高出力状態で起動》
回答の全容を聞き取る必要も、義理もない。
衝撃力場を叩きつける。
遠慮容赦なし、全力のGr‐T高出力起動だ。
予想通り、放物線と言わず一直線に吹っ飛ぶ敵。
ビルを打ち貫き、打ち貫き、破壊し、家屋を倒壊させ、粉砕し、それでもなお勢いは衰えない。
だが私は知っている。この程度でエリートは死んだりしない。
《呼び出しを確認。Dn‐S高出力状態で起動》
私はまず自分に衝撃力場をぶつけ、一気に加速、先ほどエリートが通った経路で追いすがる。
いかにエリートと言えど、自分の認識できる領域にとらえなければ、攻撃は不可能だからだ。
そして今、とらえた。
無数の建物、その名残である瓦礫の山を豪奢な敷物にしていたエリートは、彼女の眼前で、砂埃を払いながら今、立ち上がろうとしていた。
のんきなことだ、とナクアは思う。
人類を相手にし続けたエリートによくある傾向だ。
自分が一番強いと勘違いし、無意識に動きに無駄を取り入れてしまう。
――――何でこんなのに、レイトが負けなきゃいけないの!?
恐らく、固有武装を使ったのだろう。
なるほど固有武装を持たないレイトにしてみれば、脅威以外の何者でもない。
だが、発動しなければ、どんなに強力でも、武装はただの装飾でしかない。
そのことを教え忘れていた。
エリートには、一気に畳み掛け、攻撃の隙も与えず、倒すのがセオリーだ。と。
おそらく、そのことを知らないレイトは、自分が到着するまでの持久戦と考えていたのだろう。
すなわち、レイトが負けたのは自分のせいだ。
レイトを探して、謝らなければならない。
そのためにも早く、早く目の前の敵を倒さなければならない。
ナクアは自分の腕に力場をかけた。
Dn‐Sの長い銃身の先端、銃口がエリートの鼻っ面を殴りつけた。
ナクアはそのまま前のめりに倒れ込み、エリートを押し倒し、下敷きにする。
彼女が持つ運動エネルギーは凄まじく、そのままの勢いで2人は滑り続ける。
下にされたエリートの背中側、装甲服と地面が摩擦で火花を上げているのが、ナクアの目に映った。
だが、エリートは腐ってもエリートだ。
ナクアの目に、エリートがGr‐Tを展開するのが見えた。
力場で吹き飛ばすなり、捻り潰すなり、痛打を与えることをあきらめていないのだろう。
しかし、ナクアは思う。
――――すでに勝負はついている。と。
Dn‐Sの銃口は、エリートの頭部を正確にとらえている。
ゼロ距離。外すはずがない。
こんな形での機関砲の使用は、どんな軍事教本にも書いていないことだろう。
だが、銃口の前に敵がいるとき、引鉄を引くのに躊躇はしない。
それが、ナクアと言う人間だった。
高出力状態のDn‐Sから放たれた砲弾は、エリートの強靭な皮膚を突き破り、頭蓋を破壊し、爆発した。
脳漿が飛び散り、濃厚な死の臭いが立ち込める。
脳と血の入り混じった赤線を路面に残しつつ、しばらくして、2人は止まった。
――――レイト、レイトを迎えに行かないと。
正面の死体に目もくれず、彼女はおぼつかない足取りで立ち上がり、歩きだした。
自分のたった1人のパートナーを探すために…………。