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世界のだれかが紡いだもの  作者: 新巻鮭
3章・底無し沼の中の片足
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あらがう者たち

 市街全域の調査が終了した。

 報告内容は、一般が258、エリートが3、変わり種が12。

 バカげた量だな、とレーフェル1は思う。


 前回はエリートが味方で、一般も、変わり種もその3分の1程度しかいなかった。

 その上、エリートの内1体が、自分の方に向け接近中にもかかわらず、CPからの指示が無い。


 勝てるワケがない。


 自分で自分の敗北を思い描く。

 勝利から遠ざかる方法のひとつだ、と自嘲する。


 しかし、どれだけ勝利から遠かろうが、自分は負けるワケにはいかない。

 勝ち戦にならなくとも、生き延びている間は負けじゃない。レーフェル1はそう思っていた。

 自分が生き続ける限り、決着はつかない。だから勝ちでないことは負けではないのだ。


《こちら、第22機甲パトロール部隊。これより、貴部隊の指揮下に入る》


 どうやら心もとない援軍がCPの方に到着したらしい、とレーフェル1は思う。


 エリートが1人いれば、その程度の部隊、それこそあっという間に食われてしまうだろう。

 そもそも、こちらに到着するより早くにエリートが来るだろう。

 完璧に無駄な援軍だ、と思う。


 ――――そして、そのエリートが目の前に出現した。


「噂をすれば何とやら、ってか!」


 噂をしていたのは彼の心の中だけだが。


 とにかく、このまま座して死を待つつもりはない。

 それがレーフェル隊全員の共通見解だった。


「レーフェル1よりCP、敵と遭遇した。独自判断で攻撃に移る」


 返答は期待していなかったので、言うだけ言うと回線を切った。


 レーフェル隊の全機が脚部ホバーを起動させた。

 路面に積もっていた砂埃が巻き上げられ、小規模な砂嵐が発生する。

 そして、間髪入れずに蛇行前進。

 機動装甲が用いる回避突撃だ。


 回避突撃を開始するまでの間に、レーフェル1はいくつかのことを並行して行っていた。

 戦場では1つのことしかできないような不器用な奴から死んでいく。レーフェル1はそう考えていた。


 まず、敵の確認。

 これは容易に行えた。

 機動装甲のカメラは、仮面でなく、明らかに素顔を晒している人間を捉えていた。

 表情までは分からないが、エリートであるという、CPのレーダー情報は確かだった。


 次に、敵の目標。

 これは分からなかった。

 エリートは、自分たちのことに興味も持っていなかったらしい。

 回避突撃を開始してようやく気づいた、と言ったところだ。


 最後に、周囲の敵の確認。

 これは皆無だった。

 残りのエリートも、変わり種も、遥か遠方だ。

 増援を憂う必要はない。


 回避突撃を行いながらも、レーフェル1は不審に思う。

 敵にやる気が感じられないのだ。


 ――――こちらを舐めてるのか? 何か裏でもあるのか?


 だが、照準器の中に敵がいる。

 獲物を前に指をくわえていいのは、残弾が無いヤツか、四流以下の兵だけだ。

 レーフェル1が引鉄を落とす。


 機動装甲が持つ37ミリ機関砲から砲弾がマズルフラッシュの梱包を解かれ、次々と飛び出してゆく。

 飛び出した砲弾はエリートへ向け一直線に迫ってゆく。


「お、公務員の方か。はりきってるねー」


 着弾を確認。しかし、命中弾はなかった。


 なぜ、とレーフェル1は思う。


 その回答はすぐ目の前にあった。

 回避突撃をしていた機動装甲、その胸部装甲の上部、コクピットハッチの上にエリートが立っていたのだ。


 なぜ、とレーフェル1は思う。


 接近する軌道を取っていたとはいえ、まだまだエリートは遥か遠方だった。

 瞬間的に距離を詰めるにしても慣性の法則がある。超スピードだったなら、何の衝撃もなくコクピット上部に取りつくなど不可能だ。


 ならばテレポートか?

 これも望み薄だ。回避突撃を敢行する機動装甲、そのコクピット上部に受信機など無い。

 受信機無し、しかもピンポイントで座標設定ができるテレポート装置と言うのは、レーフェル1が知る限り、建物サイズにもなる大型のものしかない。


 別系統の技術は?

 瞬間的に対象を移動させるテレポート以外の技術を、レーフェル1は知らなかった。

 現行技術でそんなものを聞いたことはなかった。

 正体不明の技術。何だか目の前にいる人の皮を被った化け物にはおあつらえ向きの装備だな、とレーフェル1は思う。


 レーフェル1は判断する。

 現状技術の延長線上にしろ、別系統の技術にしろ、この敵が持つ技術は、自分たちの国の技術を軽く超えている。


「でも悲しいかな。ちょいとばかし、スペックが低かったみたいだ」


 レーフェル1は頭部カメラ正面の物体に目を戻す。

 ほぼエリートの姿で埋め尽くされている。


 ――――男の大写しなんか、見たく無いもんだな。


 なかなかの美男だった。

 歳は20代前半と言ったところだろうか。

 若いな、とレーフェル1は思う。


 そして、自分はこの若造に殺されるのだろう、とも思った。


「来世からやりなおしなぁ!」


 エリートが拳を振りかぶる。

 次の瞬間、その手が鋼色に包まれた。


 さらにその次の瞬間――――レーフェル1の隣のビルが轟音と共に崩れた。

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