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世界のだれかが紡いだもの  作者: 新巻鮭
2章・現実の重石
19/54

夕闇に溶ける

「そう言えば君、他の人にも同じように接してるの?」


 まあ、不本意と思ったものの、一緒に帰るなら帰るで構わない。

 話し相手ができて、手持無沙汰にならなくてむしろいいかも、と思えばいいし。


「まさかあ、ちゃんとお客は選んでるですヨ」


「それはそれで問題ありだと思うのは、僕だけだろうか?」


「えー、それでリアりん怒られたこと無いですよ」


 この人、なかなかに自由奔放な人みたいだからなあ。

 怒られてても流してそうだ。


「そう言えば、さっきから気になってたけど、『リアりん』って何?」


「はえ? ああ、そんなことかあ。私の名前が『エ()ーネ』だから、『リアりん』なのですヨ」


 なるほど、真ん中だけを読むワケだ。

 いや、問題はそんなことじゃなくって。


「で、君、どこまで着いてくるつもり?」


「わー、いきなり話変わったねー。ま、いいや。少なくとも駅までは着いてくよ。その先は知らないけど」


 そんなことだろうと思った。


「あのさ、さっきから私のことばっかりしゃべってて何だか不公平な気がするなー。

 キミも自分のことについて喋ってくれたまえよ。とりあえず自己紹介から、はい!」


 え、アレ? 何この流れ?


「私はちゃんと名乗ったぞー。ファーストネームだけでいいからちゃんと喋れ―」


「わ、分かったよ」


 リアの勢いに押されて、自己紹介する羽目になってしまった。


「レイトだよ。レイト」


「『レイト』かあ。呼びやすい名前だね」


 まあ少なくとも、略さないと呼びづらくて仕方のない名前よりは、呼びやすいこと間違いなしだ。


「太陽、だいぶ傾いてきたね」


 そして、何の脈絡もなく、天気の話へとシフトチェンジした。


「そうだね、この時期は特に、早く日が沈むからね」


「もうすぐに夕方かあ…………ね、レイトは夕方って好き?」


 いきなり訊かれても困ってしまう。

 好きだろうか…………うん、少なくとも嫌いじゃない。


 それに、この空気、好きって答えた方がいいような気がする。


「そうだね、好きかも」


「そう――――私は嫌い」


「え…………?」


 予想外の返答。僕は戸惑う。


「だってさ、一歩間違えたら闇に沈んでしまいそう、そんな気分にならない?」


 そう言って、彼女は、まだ短い自分の影を指さして、言う。


 ――――きっと、夕方に嫌な思い出でもあるんだろうなあ。

 そんなことを考えながら、肩を並べて僕らは歩く。


「ああ、もう駅かあ、じゃ、縁があったらまた会おうね」


 切符を改札に通し、別れる…………はずが。


「…………何でついてくるのさ」


 リアと僕は同方向へ向かっていた。


「だって私、家こっちだし」


 まあ、いいや。どうせ降りる駅は違うだろう。


 ――――と、思ってた時期が、僕にもありました。


「やー、まさか駅まで一緒とは、私も予想してなかったですヨ」


 とは、リアの談である。


「ほんとにね…………」


 なんだか疲れた僕は、足取り重く、家へと向かおうとする。


「これならまた会うこともあるかもだねー。うれしい?」


「べ、別に」


 正直、同年代の友達の顔なんて誰も覚えてないから、顔見知りが増えるのはすごい嬉しいんだけど。

 それに、と、彼女の姿を見てみる。


 肌は色白だけれども少々黄色がかっている。有色系の人らしい。

 サイドテールに結った長い髪は黒、と言うにはかなり色素が薄く、茶色がかっている。赤茶色、と言えばしっくりくる色合いだ。

 顔立ちは整っており、ナクア程じゃないけど、美少女と言える容姿だ。

 腰も引き締まっていて、スレンダーな体型だけれど、主張するところはしっかり主張している。

 また、スカートからのびる脚は…………って、何で僕、美少女鑑定なんてやってんだろう?

 

 とにかく、可愛らしい女の子とお近づきになれてうれしくない男はいないだろう。


「またまたあ。リアりんにはオミトオシですぞー。レイトって、友達少なそうだし」


「…………うぐぬぅ」


 言い返せない。

 事実ゼロから始めてるワケだし、記憶が無いから前の僕がどんなだったかも思い出せないし。


「仕方ないなあ。リアりんがお友達になってあげよう」


 何だか知らないけど、負けた気分。

 けど、不思議と不快感は少ない。


 こうして、僕は友達が1人できたのである…………。

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