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世界のだれかが紡いだもの  作者: 新巻鮭
2章・現実の重石
18/54

すばらしい何か

 駅構内のレストランで食事を終えると、僕らは各々の道へと向かう。


「じゃ、レイト。またあとでね」


 ナクアが手を振って僕にしばしの別れを告げる。

 僕もそれに応えて、手を振り返す。


 目の前にあるテレポート装置は、外套型と違い、ゲート型と呼ばれる類のものだ。

 お互いに座標を合わせた、1対のテレポート装置からなり、まるで門をくぐる感覚でワープができる。

 また、駅のテレポート装置は常時起動しているため、向こうの景色までバッチリ見える親切設計だ。


「よぅし」


 決意を新たに、僕はゲートをくぐった。

 きっと、いい家具を見つけてやるぞ。


 記憶を失ってから初めての1人歩き。どうなることやら。

 …………記憶失う前の知り合いとかに会ったらどうしよう?


 すでに先程会っていたことにも気づかず、僕は家具屋へと歩を進めた。


 …………。

 ……………………。

 …………………………………………。


 到着したのは、大手の家具屋。

 ここなら、ハズレは無いはずだ。値段も結構安いし。


「…………けっこうあるなあ」


 ベッドひとつとっても、すごい数が用意されていた。

 これじゃあ、どれを買えばいいのか、分かったもんじゃない。


 しばらく右往左往し、同じエリアを徘徊していたら、見かねたのか、店員さんが声をかけてくる。


「何かお困りかな~?」


 随分フランクな口調で話しかけてくれる女性店員さんだ。

 歳は僕と同じくらいかな。


「ベッド探してるんですけど……どれ買えばいいのか分かんなくって」


「あー。この数じゃ迷うよねえ」


 目の前のベッドの群れを眺めながら、店員さんと2人、ため息を吐く。


「ま、嘆いてても仕方ないね。削れるところから削っちゃおう。お客さん身長は?」


「え…………?」


 そう言えば、覚えてない。

 大体、170か、それぐらいだと思うんだけど…………。


「よっ!」


 悩んでると、店員さんが近づき、背伸びして僕の頭頂部に触れる。


 この時、僕らの距離はほぼゼロ。

 見る人が見たら抱き合ってたりとか、キスしてたりのように見えることだろう。


「な、何?」


 うろたえる僕をよそに、店員さんは自分の手の感触を確かめていた。


「ふむふむ、大体171……と」


 何その数字? もしかして僕の身長?


「平均的なベッドでいいんじゃないかな? とりあえず、目についたこれとか」


 そう言って、本当に無作為に選びだしたベッドを僕に勧めてくれる。


「もうちょっと、判断基準とか無いの?」


「えー、あるワケないじゃん、そんなの。ぶっちゃけどれでも一緒だよ」


 ぶっちゃけたよこの店員! 社内教育されてるのか!?


「それにリアりんはバイトで、本来ならもう帰ってる時間なのだよ。タダ働きしてやってるだけありがたく思うのだね」


 な、なんて自己中心的なバイトだ。

 なんでこんなのが採用されたんだ?


「それに、こういうのは直感が重要なのですヨ。『これなら安眠できる』って思えること。これに尽きるね」


 たしかに、区別がほとんどつかないとき、重要なのは、理屈より直感だ。

 でも、いい加減に決めた物で、後々後悔したくはない。


「難しいなあ……」


「ま、すごくいいのが欲しかったら金を出すんだね」


 結局そこに行きつくのか。でも金は無い。


「お、これなんていいんじゃない?」


 …………直感で行こうか。このままじゃ店員に勝手に決められてしまう。


 …………。

 ……………………。

 …………………………………………。


「まいどありー。じゃ、配達しようか? それとも持って帰る?」


「配達には別途送料がかかるんだっけ?」


「ううん。高い買い物したからこれは免除だね。ただ、今日中には到着しないよ」


 論外だ。昨日のような事態が2日も続いたら、僕は睡眠不足になってしまう。


「持って帰るよ」


「おっけ、じゃあこれがあのベッドのパーツ一式ね」


 そう言って、渡された箱は、およそ女の子が軽々と持ち運べる重さじゃなかった。

 なんとなく、この娘が採用された理由が分かったような気がする。


「あと、組み立てはセルフサービスになるよ?」


「うん、それは大丈夫。何とかするよ」


 正確には、『するしかない』んだけどね。


「ふぃー、やっと終わったよ。であであ、リアりん、帰りますよー」


 帰る宣言をしたこの不良店員と、不本意ながら一緒に店を出る羽目になりそうだ。

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