懊悩する従妹
シルフィー・ケルセリアスは驚いた。
そして、落ち着こうとした。次に理解しようとした。
『エリオン・ディスデーター』に会った。
まず彼女は、見間違いか、と思った。
しかし、彼女の目は正常だった。
何度も見直して確かめた彼女自身、よくわかっている。
次に、人違いか、と思った。
この確率が一番高い。
連れていた女の子――凄い量の荷物を軽々運ぶ怪り……もとい、力持ちな女の子、すごい美人――は、彼のことを『レイト』と呼んでいた。
それに、彼女が知るエリオンと言う人間は半物棒を軽々ひしゃげさせるような怪力の持ち主ではなかった。
そして、彼女の思考は『人違い』という認識でその仕事を放棄した。
「……はぁ………………」
彼は目の前で、彼女を庇った。
その直後に退避機が作動した。
そして、避難所に辿り着いたのは彼女だけだった。
退避機が作動しなかった時点で、もはや助けようがなかった。
治療が受けられないし、そもそも常識的に考えて、砲弾で腹に大穴を開けていた時点で、即死だ。
楽しい誕生日になるはずだった。
エリオンとゆっくり過ごし、彼の叔父と叔母も到着した時点で、もっと盛り上がるはずだった。
続くはずだったその楽しい時間が、ただの一瞬で砕け散ってしまった。
それは彼女にとって、あまりにも理不尽な、運命の仕打ちだった。
彼女は、しばらくの間、目に映るもの全てを呪った。
肉親との再会を果たせた一家、その幸せを呪った。
ペットが見つからないとわめき回る淑女、その悲壮な声を呪った
友達が殺されたと嘆く学生、その不幸を呪った。
床に寝転がって、寝息を立て始めている者、その怠惰を呪った。
自分を見つけて喜ぶ母親、その視野の狭さを呪った。
連絡だけよこした父親、その淡白さを呪った。
そして、丸1日置いて、ようやく外面だけは取り繕えるようになった。
買い出しを頼まれて、出て行った矢先、先程の一団と出会った。
彼女は呪った。この場にエリオンがいない、その事実を。
エリオンが居れば、彼女は1人で出かけることもなく、こんな状況にもならなかっただろう。
そして、驚くべき事態が発生した。
エリオンと瓜二つの人物が、彼女を助けたのだ。
しかし、彼ではない、シルフィーはそう認識した。
だから彼女は呪った。神の采配を。
なぜ、このような複雑怪奇な運命に、私を巡り合わすのか、と。