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世界のだれかが紡いだもの  作者: 新巻鮭
2章・現実の重石
14/54

野生の国の扉よ開け、いざ勝負の時?

 転移が完全に終了してから理解する。

 ここが、ナクアの家なのだと。


「今日は疲れたね」


 ナクアは僕から離れると、ひとつ伸びをし、そう言った。


「そうだね」


 僕はそれを肯定する。

 今日は本当にいろんなことがあった。


 記憶を失って、殺されそうになって、かわいい女の子に会ったかと思えば、家に招待されて…………。


 ここまで思い立った時点でようやく思い出した。

 ここはナクアの家で、つまりは女の子の家で…………。


「どしたの? 顔真っ赤」


「わぁあっ!」


 気がつけばナクアの顔が至近距離にあった。

 あわてて顔を背ける。


 頭の中で、思考にもならない思考がぐるぐると回り――回る。


「えっと…………レイト?」


 どうやら、彼女の方も僕の奇行についてこれてないらしい。

 まあ、当たり前だろうけど。


 とりあえず落ち着くために深呼吸をする。

 そのままの体勢で。


「すー、はー。すー、はー」


 傍から見たら女の子の部屋の臭い嗅いでる変態になるんじゃない?

 とか思ってももう遅い。


 その辺はナクアも気にしなかったようで――気になってても、もう聞けない空気だったし――何も言わない。


 とにかく、落ち着いたので、顔を上げて、彼女に向き合う。

 うん、僕、大丈夫だ。


「え、と――――この家の中、説明しようと思ってたんだけど、いるよね? 説明」


 もちろんだとも。


「うん、お願いしていいかな」


 彼女も、僕が落ち着いたことを分かってくれたのか、割と安心した様子で家の中を案内してくれた。


「へえ、結構広いんだ」


 まず驚いたのが、マンションとか、アパートとか、集合住宅の類じゃないこと。

 1階建てだったけれど、彼女の立場からして、これは正直驚いた。


 それに、結構な広さがある。

 家具が少ないのもあるだろうけど、1人で住むには広すぎるくらいだ。


「正直、1人じゃ持て余してたから、レイトが来てくれてちょうどいいかも」


 彼女は戸棚の中から予備のマグカップを引っ張り出すと、それを僕へと手渡して言う。


「はい、レイトのカップ。使う前に洗ってね」


「うん」


「それじゃ、私、シャワー浴びてくるね。レイトも来る?」


「ブフッ!?」


 思わず吹き出してしまった。

 彼女は――――アレか? 僕を男と認識してないのか?


 それなら、今までの行為にも納得がいく…………。

 まったくだしぬけに、僕はあの町で交わした、口づけの感触を思い出した。


 ――――ううん、彼女は、僕を男と認識してないんじゃない。


 ただ単に、警戒心が無いだけだ。

 僕に対してだけかどうかまでは分かんないけど。


「来るの?」


「いやいやいや」


 据え膳くわぬは男の恥、とか言う(らしい)けど、この場合、まずいだろう。

 彼女とは今日会ったばっかりなんだから。


 ――――キスしてる時点で説得力無いよぉ!


「? 先使うね」


 床を悶えながら転がりまわる僕を後目に、ナクアはお風呂場に消えた。


 結論から言ってしまおう。

 お風呂にいっしょに入ろうなんて提案、まったくもって、問題じゃなかった。


 目の前には、ベッドが1つ。

 布団の予備は無い。


「せっかくだから一緒に寝よ?」


 目の前におわします、パジャマ姿の美少女はこのようにのたまっていらっしゃるのですが……。

 いやいや、彼女が変な意味で言ってるワケじゃないことは、僕もよく分かってるつもりだ。


 だけど、その……あれですよ。

 男女が閨を共にするって言うのは…………。


「どーしてもだめ?」


「いや、ダメでしょ」


 僕の記憶、と言うか、社会常識では、その日に初めて会った人にすることじゃないって言うか、責任が生じるっていうか…………とにかくまずいでしょ!


「…………レイトのいじわる」


 やめて! そんな目で僕を見ないで!



 …………。

 ……………………。

 …………………………………………。



 再び結論から言ってしまおう。

 今、すごいヤバいです。


 結局根負けした僕が一緒のベッドで寝ることになったのだけれど。


「ん…………」


 隣の眠り姫は僕の腕に絡み付いて、その豊満なふくらみを、これでもかと言うくらい僕の肘に堪能させる。

 傍から見れば天国か。こんな美少女が、僕の隣で無防備に眠っているのだから。


 けれど、それは間違いなく地獄だ。

 例えるならそう、眠らせないために、一定間隔で水滴を対象の頭に落とす拷問器具とかだ。

 例えて何だけど、僕の社会常識にはこんなものまで含まれてるのかよ、と頭の中で突っ込む。

 で、今当たってる先は僕の頭じゃなくって肘、当たってるものは、ふにゅふにゅと形を変える魔性の物体。

 おかげさまで、僕の心臓は早鐘を打ちっぱなしで、落ち着くなんてとんでもない状況だ。


「……………………」


 僕の頭の中の悪魔がささやいた。

 ――少しぐらいの役得、いいじゃないか――と


 僕の頭の中の天使がささやいた。

 ――いやいや、こらえろよ、紳士なら――と


 この状況、反対側の手で、パジャマのボタンぐらい、簡単に外せる。

 すべては僕の采配しだい。

 僕が決定し、僕がその決定に責任を持つ。


 もう後は僕の勇気だけさ。

 さあ野生の国の扉よ開け、いざ勝負の時。


 ――――なんてこと、考えてませんよ?


 いや、ホントに。























 結局何もなかったから何だってんだちくしょー。

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