金属製の兵士
巨人が屠られる瞬間は生体レーダーで観測されていた。
「変わり種1体の反応、消失しました。エリートと交戦していたものです」
CP内部では、誰もが「予想通りだよ」とでも言い出しそうな表情で事実を受け止めていた。
「こちらの部隊は?」
「レーフェル隊は一般部隊と交戦、24体を撃破、被撃墜は無し。弾薬消耗率は12パーセント。オブリデアノ隊は変わり種と交戦中。被撃墜2、パイロットは離脱しました」
副隊長は芳しくない状況だ、と思う。
小隊は4機編成。2個小隊だから、こちらの戦力は残り6機。
レーフェル隊がほぼ無傷なのが救いか、と思うものの、楽観はできない。
――――何せ、敵は怪しげな技術を持った、謎の部隊なのだ。
その所属も、目的も、技術の出所も、何もかもが不明。
突然現れたかと思えば、何の躊躇もなしに街を破壊する暴力主義者どもだ。
敵戦力は仮面を被った『一般』、規格外の力を備えた『エリート』、そして、地球上の生命体か疑わせるような外見の『変わり種』。この3種類だ。
なぜエリートだけ外国語を用いるのだろう? という疑問は部隊内部でも後を絶たないが、そう決められてしまった以上仕方のないことだ。それに、別にそれで実害が出るワケでもない。
「オブリデアノ隊、変わり種を撃破しました。被撃墜2、中破1、撤退申請が出ています」
「申請を受理。撤退させろ。レーフェル隊は?」
「一般と交戦中のようです。27を撃破、被撃墜無し」
「下がらせろ。オブリデアノ隊のケツを守ってやれ」
「了解、下がらせます」
「エリートへの砲撃再開はもう必要ない。準備している部隊に通達しろ」
「了解」
指示を出し終えるのを見計らって、副隊長が声をかける。
「新型の感想は? 評価出さないといけないだろう?」
「ダメだな。あんなモノではエリートに敵うまい」
無茶な注文だ、と副隊長は思う。
だが、その注文を満たすモノを配備してもらえなければ、自分たちは遠からず死んでしまうということも、彼は分かっているつもりだった。
「今回は仲間割れに助けられたが、本来ならレーフェル隊は壊滅だぞ?」
▼
「――――っはあぁぁあああ…………!」
僕は大きく息を吐いた。
脚と、左腕だけになってしまった、巨人だったものを一瞬見やる。
音はなく、ただ静かに、地面に血を吸われていた。
「よくできたね。でも、まだまだこれからだよ」
ナクアは、うれしそうに、笑みを浮かべながら、僕の頭を撫でてくれる。
子ども扱いされてるみたいだったけれど、不思議と嫌ではなかった。
「レイトはこれから、もっともっと、もっともーっと、強くなってくれないと」
彼女のにこやかな笑顔は、およそ、これから底なしの戦いに出向く者とは思えないような笑みだった。
しばらくして、僕が落ち着くのを見計らって、彼女は言葉を紡ぐ。
「そのためにはとりあえず、支給品の使い方、知っとかないとね」
Gr‐Tとかいうもの以外にも、まだまだあるらしい。
「……説明は後回しでもでいっか。実践する相手には困らないし、使ってみよ」
ナクアが振り向く。
その先には、仮面を被った一団と、巨大な…………トラ? ライオン? とにかくネコ科らしき姿をしたものが、規格外のサイズをもって迫って来ていた。
「Gr‐Tは遠方の雑魚を一掃するには充分だけど、距離を置いた『ミュータント』には効かないわ」
ミュータント、と言うのが、例の巨大な連中の総称なんだろう。
「じゃ、どうするの?」
「Gr‐T装備状態の腕を突きだして」
言われるがまま、僕は右腕を突きだす。
「何でもいいわ、遠距離を攻撃できそうなものをイメージして」
何とはなしに、僕は長大な機関銃を想像していた。
《呼び出しを確認。Dn‐S通常起動》
どうやら成功らしい。
何かが組み上がるあの感覚が、成功したというあの実感が、再び身体を駆け巡る。
そこには、僕が想像したモノとは少し違うデザインの機関銃が、二脚をたわませながら、僕の掌にグリップを握らせていた。
「成功ね。使ってみれば、威力も分かるわ。やってみて」
僕は、迫りくる一団に照準を合わせ、引鉄を落とした…………。