誉田亜耶香の場合
弟妹たちはみな良き主に巡り合えただろうか。
本来作られるべき懐中時計は四つ。
それの試作品として作られたのがこの私。
弟妹たちと比べ、私は刻むことができる時が短い。
弟妹たちは壊れることがなければ、永遠に刻むことができる。
だが、私は人ひとり分の時を刻むことができるのかさえ怪しい。
私はいずれ破棄される存在。
せめて、弟妹たちの旅立ちを見届けてからこの命を終わらせたい。
そう思っていたら、私を作った時計屋が叶えてくれた。
弟妹たちが旅立てば消える。
それが、私に課された宿命だった。
・・・はずだった。
だが、彼女が、弟妹たちを買いに来た彼女が私を手に取った。
そして、彼女は私を、消えるはずだった命を救った。
彼女は友人の誕生日の贈り物を買いに来たという。
普通の人間は物に、懐中時計に話しかけたりはしない。
それなのに、彼女は話しかけてくる。
そして、彼女はなぜか懐かしい感じがする。
この感覚は・・・そう、私たちを作った時計屋のもの。
彼女は、時計屋と一体どんな関係なのだろう。
すると、彼女は答える。
私は時計屋の孫、と。
だから、友人たちを連れてきたのだ、と。
ああ。
彼女は全てを知っている。
弟妹たち懐中時計を持つべきものが誰なのかを。
私の宿命も。
だから、彼女は私を買った。
私の宿命を知っているからこそ、私を手に取った。
もしかしたら、時計屋はそれを知っていたのかもしれない。
四人の少女たちを繋ぐために作られた弟妹たち。
その四人の友人でもある彼女。
彼女の時を紡ぐ時計はない。
ああ。
だから、私がいるのか。
四人の少女の時を紡ぐのは弟妹たち。
彼女の時を紡ぐのは、私。
試作品であり、失敗作である私。
時計屋の孫であるならば、何度壊れようとも直せるということか。
だったら・・・
『あなたと共に、朽ちゆくまで時を刻もう・・・』
たとえ、壊れてもあなたが直してくれるなら、刻み続けることができる。
あなたの時を刻むことが、私の生きる糧。