大野浩子の場合
友人の誕生日。
その日、急に私の主になった彼女。
急に手渡され驚く君。
内心わけがわからないだろうなと思う私。
ふふっと笑いながらも主の顔を見る。
この方が私の主。
これから時を共に刻む相手。
主ができたことに喜ぶ秒針の音。
今。私の歯車は歓喜の声をあげている。
やっと、やっと出会えた主。
これから主の生きる時間を共にする私。
私は主の役に立つことができるのだろうか。
今まで歯車と秒針の音に耳を傾けていた私には、主の役に立つことがよくわからない。
でも、主は私を喜んでくれると思う。
あくまで憶測ですが。
主は博識高い方だ。
きっと重宝してくださるだろう。
もし、重宝してくださらなくても私は気にしない。
だって、主のそばにいることができれば他はどうでもいいのだから。
でも、どうか私を使ってほしい。
私は時計だから使ってもらわなければ、役に立つどころか邪魔になるだけ。
主を困らせるのは不本意だから。
どうか、使ってください。
私は時を刻むことで主の役に立ちましょう。
それが私の役割です。
主の役に立つ。
それこそが私が主の元に届けられた理由。
これからの時を刻み、記憶を覚える。
それが私の仕事であり、誇り。
それを大切にして主に尽くす。
それが懐中時計の私。
主の懐中時計。
ふふふ。
きっと主は私がこんなことを想っているとは露にも思わないだろう。
それでも、言葉が届かなくても、私はこれからも主に語りかけ続けるだろう。
私はこれからの未来に心を躍らせる。
楽しき未来があることを願い、暖かき未来が来ることを祈る。
私は主の幸福を、主の未来を、壊れゆくまで願い続ける。
私は毎日、主の時を刻む。
ああ、主。
どうか、幸せな時をいつまでも。
どうか、楽しき記憶を永久に。
主のそばで私は見守り、時を紡ごう。
それこそが主のため。
『幸せなときをあなたとともに』
私は祈ろう。
我が主の幸福と未来を。