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9/13

16:00〜16:30

 姫の占いが終わると、その足で我がクラスのプラネタリウムに行った。プラネタリウムはそこそこ盛況していたのか、割と客が入っていたが、半分くらいは行き場とやる気を失くしたうちのクラスの連中がたむろしているような状態だった。それは客が引いてしまうからやめたほうがいいと思うぞ。


 戸塚姉妹が中へ入っていくのを見送ると、俺は隣の展示のほうへ向かった。プラネタリウムにはあまり興味がない。やはり星を見るときは実際の夜空がいい。たとえ周りが明るくとも、作り物より本物のほうがいい。簡易なものとはいえ、プラネタリウム作りに参加した俺がそんなことを言ってもいいのか、と思わなくはなかったけど、別段気にしないことにする。とりあえず、展示会場となっている自分のクラスに向かった。すると、


「あ、成瀬さん!」


 クラスの前の廊下に、なぜだか岩崎がいた。こりゃ奇遇だな。


「どうしたんですか?展示を見に来たわけではないのでしょう」


 むろん、そんなわけない。しかし、それは俺のほうにも言える。


「あんたこそ、何でここにいるんだ?プラネタリウムは昼一で見に来たんだろ?」

「ええ、真嶋さんと二人で来ました。ですが、それはあくまでお客として来たまでです」

「じゃあ今は客として来たわけではないのか?」

「クラス委員として、ですかね」


 苦笑気味に笑う岩崎。相変わらずだな。ただでさえ忙しいだろうに、自分の責任感のせいで余計な仕事を増やしているようだ。俺も思わず苦笑を返す。


「忙しいんじゃなかったのか?」


 俺は岩崎の隣に、並ぶように壁にもたれる。


「え、ええ。まあ忙しいですけど……」

「けど、何だよ」

「ええと、まあこれも予定の一つなんで。それより成瀬さんがここに来るほうが意外です」


 そうかね。俺は一応帰属意識を持っているつもりだが。ま、帰属意識でここに来たわけではないのは確かだな。


「戸塚の付き添いでここに来たんだ」


 なので、意外と言われるのは道理なのかもしれない。つまり誰かの付き添いじゃないとここには来ない。当たっている。しかし、見事正解をたたき出した岩崎は、顔をしかめている。


「戸塚さんとずいぶん仲良しになったんですね」


 おいおい。なぜそんなに不機嫌そうな声を出しやがる。クラスメートと仲良くなって、いったい何が問題なのだろう。ま、仲良くなったわけではないので、それ以前の問題なのだが。


「別に仲良くなったわけじゃない」


 いろいろあって、な。と言おうとして、すんでのところで思いとどまった。こんなことを言ってしまったら、岩崎は全てを放り出してでも、俺たちに協力するに違いない。それこそ俺たち以上に全力で。もう手に取るようにはっきりと想像することができる。


 今日が平時ならばそれでも構わないだろう。岩崎は人の事情に首を突っ込むのが好きだし、おそらく岩崎が関わったほうがうまくいく気がする。しかし、今日は文化祭だ。岩崎はクラス委員であり、それ以上に私事の仕事を抱えている。こちらの手伝いをすれば、岩崎がこの日のために全力を挙げていた準備が無駄になってしまうし、一緒に関わっていた周りの人間に迷惑をかけることになってしまう。こいつには黙っておくのが無難だろう。


「仲良くもないのに、文化祭を一緒に回ったりしませんよ。別に仲良くなること自体は悪いことではないですけどね。成瀬さんに悪意がなければ」


 俺に悪意があると確信している言い方だな。一言言ってやりたいが、この話は深く追求しないほうがいい。話を変えよう。


「ところで文化祭の七不思議のことは調べているのか?」

「はい?特に積極的に調べてはいませんが……」


 きょとんとした表情になる岩崎。俺がこんなことを言い出すとは思わなかったのだろう。それはまさしく、意表を突かれた表情だった。さらに意表をついてやるとするか。


「俺はあと一つでコンプリートだぞ。一応六つまで知っている」

「は?」


 今度は唖然とした。うむ、相手の意表を突くのはなかなか楽しいものだな。岩崎のこういう表情は滅多に拝めるものではない。


「あ、あの成瀬さん。どうしたんですか?成瀬さんが七不思議なんて曖昧なものに興味を持つなんて珍しいですね」


 ひとしきり楽しんだし、ここで種明かしをしてやろう。


「別に興味を持ったわけでも、積極的に話を集めていたわけでもない。話しかけると、相手が勝手に七不思議の話をし始めるんだ」


 そこでようやく納得の顔を見せる岩崎。


「あー、なるほど。言われてみれば、今日は特に七不思議の話題が多いですね。みなさん、何かにつけて七不思議の話題を持ち出そうとするわけですね」


 俺には信じられない話だが。中でも、俺にその話題を振ってくる連中の気がしれないね。俺が七不思議なんてものに興味を持つわけないだろう。俺のことを少しでも知っている連中なら絶対に知っているはずだ。しかし、あろうことか、その話題を振ってくる連中は、結構俺のことを知っている連中ばかりなのだ。これは嫌がらせなのだろうか。


「どうです?何かお気に召したものはありましたか?」

「俺が知っているのは、どれもクオリティの低いものばかりだ。気に入るどころか、苦言を呈したいものばかりだ。作り話としても質が低すぎる。信じるなんて、言語道断だな」

「ずいぶんな酷評ですね。作った人に同情してしまいます」


 苦笑する岩崎。言葉とは裏腹に、ずいぶんと楽しそうだった。


「あんたはどうだ?気に入ったのはあったのか?」

「私は結構どれも好きです。どれも作った人の思いを感じることができますし、素敵だと思います」


 意外にも岩崎は、どれも作り話だと理解していたようだった。その上で素敵だと言う。


「あの完成度の低さでか?」


 俺の酷評に対して、またしても苦笑。


「まあ確かに質は低いですし、雑な感じもしますが、それでも思いは伝わりますよ。『あー、こんなことあったらいいな』とか『こうだったら素敵だろうな』って気持ちはよく分かります」


 俺と向かい合っていた岩崎は、ふと体の向きを変え、窓の外を眺めた。


「七不思議って、とても都合のいい話ばかりですよね」


 そのとおりだ。だからとてもじゃないが、信じる気にならないのだ。


「楽しいこと、素敵なことを望むのは、人の真理です。中にはよくないものもありますけど、裏を返せば、そうなりたくない、と望む人が作った、と言えます。嫌なことが起こりませんように、楽しいことが起こりますように。その願いがそのまま七不思議になったのです。そう考えると、」


 言って、岩崎は俺のほうに向き直る。そして、


「みなさん、よほど文化祭を楽しみたいんだな、って思いませんか?だって、文化祭限定の七不思議ですよ?これでもか、っていうくらい素晴らしい楽しみ方だと思いませんか!」



 飛び切りの笑顔を見せる岩崎。こいつの顔を見て、俺は、


「なるほど」


 と思わず、同意してしまった。なぜなら、目の前にいるこいつが誰より楽しそうで、嬉しそうな顔をしているのだ。その笑顔を見ていると、こいつがなぜいくつも仕事を掛け持ちして、いくつも有志のパフォーマンスをこなしているのか、ということが分かったような気がした。ただ、楽しみたかったのだ。誰より楽しみたかったのだ。普通の生徒が二つの有志に参加しているとすると、四つも五つも掛け持ちしている岩崎は、普通の倍以上文化祭を楽しんでいることになる。満喫していることになる。むろん単純にそうとは言えない。楽しみ方は人それぞれだ。俺は有志に参加したいと思わないし、仕事は少ないほうがいいと思っている。しかし、岩崎を見ていると、岩崎の楽しみ方が正しくて、俺はかなり損をしているような気がしてきた。もちろんただの気のせいだろう。ただ、一瞬でもそう感じさせた岩崎は、やはりとんでもない奴なのだ。改めて感心した。


「そう考えると、成瀬さんも文化祭を楽しんでいるみたいですね」

「俺が?」

「だって七不思議調べているんでしょ?」

「調べてない。向こうから勝手にやって来るんだ」

「向こうから勝手に?うらやましいですね。成瀬さんはまるで文化祭の申し子ですね」


 意味不明にもほどがあるな。どうでもいいが、俺は嬉しくないし、楽しんでいるつもりもないぞ。


「ところで、戸塚さんと二人で文化祭を回っているんですか?」


 岩崎は急激に話を戻した。どうしてもそこが気になるらしい。


「二人じゃないし、悪意もないぞ」

「二人じゃないんですか?ではどなたと?」


 これは言っても大丈夫だろう。


「戸塚の妹だ。姉の高校生活を覗きに来たらしい」

「へえ。ずいぶん仲のいい姉妹なんですね」


 もう姉妹というか親友という感じだな。お互い名前で呼び合っているし。それでも、結衣のほうは姉という自覚があるらしく、どこかしこで妹をたしなめるような言動をすることがある。彩衣のほうもどことなく甘えている様子がある。親友のような関係だが、それでもやはり姉妹だな。理想的、という言葉が冠につくのは間違いない。


「成瀬さん、無理矢理間に入って二人の関係を壊してしまってはダメですよ。文化祭でケンカすると、取り返しがつきませんからね」

「その話は知っている」


 七不思議ネタかよ。俺は七不思議など信じていないし、二人の間に無理矢理入るつもりもないし、二人の関係を壊すつもりもない。というか、なぜいきなりこいつに説教をされなければいけないのだろうか。しかも、ありもしないことで。


「あと、文化祭において、恋愛がらみの騒動に足を突っ込まないほうがいいですよ」


 そんなもの文化祭じゃなくたって、関わりたくないね。恋愛がらみだって?間違いなくこじれるに決まっているじゃないか。とばっちりを食らうのが目に見えている。


「この話は聞いたことがありますか?」


 言って、話し始めたのは、紛れもなく文化祭の七不思議の話だった。


「文化祭で他人の恋愛事情に関わると、その後一生他人の恋愛に振り回される人生を歩むことになるらしいですよ。何でもその昔、友人の恋愛に面白半分に付き合っていたら、その友人から逆恨みを買って、卒業後もいろいろ迷惑をかけられた女子生徒がいたらしいです。その女子生徒は、ことあるごとに恋愛相談を受けては迷惑をこうむり、自分はまともに恋愛をできずに不運で不幸な人生を送ったそうです。死後、彼女はきっかけとなった文化祭に出没して、自分と同じ運命をたどる仲間を探しているんだとか」

「それは大変な話だが、そんな話をなぜ俺にするんだ?」


 俺の意見としては、どちらかというとその毛があるのは岩崎のほうだと思うね。


「成瀬さんはお人好しのヘタレですから、真剣に頼まれたら断れないでしょう。だからその時の切り札にするといいですよ。断る言い訳にでも使ってください」


 そんな紹介いらないぞ。それにしても、と思う。


「文化祭の七不思議は、人間関係、もっと言うと恋愛がらみの話が多いな」


 ついにコンプリートしてしまった俺は、全部の話を思い出す。三原、日向、姫、そして岩崎。この四人から聞いた話は全て恋愛がらみで、天野の話はいじめの話。高校生とはいえ、人間関係の難しさはついて回るらしい。


「それだけみんな恋愛に苦労しているということです。特に恋する女子高生はすごいです。恋に命を懸けていると言っても過言ではないでしょう」

「恋に、命ねえ」


 にわかに信じられないが、女子ならあるような気がする。俺たち男子とは思考回路が違う。優先順位など、違って当たり前なのかもしれない。


「なので、女子の恋愛事情は黒いですよ。女子間の恋愛事情はある程度筒抜けですから、当然ライバルも知っています。思い人が付き合っているなら、別れさせて寝取る、なんて当たり前ですよ」

「聞きたくない話だな」


 恋愛は美しいもの。友情は永遠。と、心から信じているわけではないが、こうもあからさまに公言されると、さすがにもの悲しさがある。恋愛に興味のない俺がこうなのだから、女子に夢や希望を抱いている一般男子どもはさぞかし心苦しい話だろう。


「ま、少し大げさに表現しているのは否めませんが、それでもきれいなものばかりでないのは本当です。七不思議を利用して、カップルを別れさせる、なんていう過激派の人たちもいますからね」


 過激派、という派閥があるかどうかは置いといて、七不思議を利用して?それはどういうことだ?


「先ほども言いましたが、文化祭でケンカをすると……という話があるじゃないですか。あれを利用して、わざとカップルにケンカさせるんです。それも集団で仕組むんです。術中にはまったカップルはケンカしてしまう。文化祭中にケンカをすると、二度と復縁できない。愚かにも信じてしまった人たちは、自ら可能性を絶ってしまうわけです。策士たちはその哀れな背中を優しくなでながら、こういうわけです。『かわいそうに。私だったらこんないい人、絶対に手放さないのにな』」

「そうやってまんまと寝取るわけか」


 返事をせずにうなずくと、『あぁ無情』とばかりに首を左右に振る。


「はっきり言って信じがたい話だな。なぜ付き合っていた相手より、七不思議を信じるんだ?」

「人の心はそんなに強くできていないのですよ。人は不安に押しつぶされてしまいます。そんな時にもっともらしい話をされると、コロッと信じてしまうわけです」


 岩崎の話は胡散臭かったし、俺ならばバカバカしいと吐き捨てると思うが、信じてしまうものもいるというのは、事実なのだ。


「成瀬さんも、恋する女子を敵に回さないほうがいいですよ。彼女たちは手段を選びません。下手に首を突っ込むとやけどじゃすまない大けがを負いますよ。彼女たちにとって、他人の不幸など、落ち葉みたいなものです。そこにあったら掃いて捨てるだけなんですよ」


 いったい何の話か分からなくなってしまっている。確か、恋する女子の話だったと思うが、岩崎の口ぶりだと過激派のテロリストのように聞こえてしまう。岩崎の話をまるっと信じると、恋する女子たちは前科の一つや二つは当たり前、人を殺めていてもおかしくない。ま、俺は全て信じるつもりはないが、多少は信じる。岩崎の話を多少信じると、一つの可能性が見えてくる。信じがたい話ではあるが、筋は通る。


「それで、あんたはどうなんだ?」

「はい?どう、とはどういう意味なんだ?」

「あんたもよく自分のことを、恋する乙女、と称するだろう。あんたも前科の一つや二つはあるのか?」

「ぜ、前科なんてないですよ!私は他人を陥れてまで、幸せになりたいとは思いません。わ、私の好きな人も、そんなこと許すはずありませんから」


 案外まともな答えが返ってきてほっとした。


「そうかい。そりゃよかった」

「それはそうと、成瀬さん」


 唐突に話を変える岩崎。その表情は、先ほど以上に真剣だった。


「私に、何か言うことがありませんか」


 一体何の話かと思ったが、岩崎の目を見て思い当たる。


 岩崎は何かを待っていた。その目は確信に満ちていた。おそらく、俺が今何か事件に巻き込まれていることを確信している。だが、それを言わずにいる。これが何を意味するか。


「言うこと、ねえ」


 岩崎は今朝、何かあったら連絡してくれ、と言っていた。忙しいが、何か手伝えることがあるだろう、と言っていた。俺はそれに、必要があれば、と答えた。


 岩崎は待っているのだ。俺が手伝ってくれ、助けてくれ、と頼むのを。おそらく、何かあった、と確信している。しかし、それを俺に言わないのは、俺の口から言うのを待っている。ならば、俺の言うべき言葉は決まっているだろう。


「ああ。何もないな。今日一日で特筆すべきことは何もない。麻生が財布を盗まれたぐらいだ」

「そう、ですか。麻生さんのおサイフは見つかったんですか?」

「ああ。すぐに見つかった。犯人も特定できている。捕まるのも時間の問題だ」

「そうですか。それはよかったです」


 全然よくなさそうな顔で言うな。全く世話の焼けるやつだ。別にあんたを必要としていないわけじゃないぞ。あんたの手を煩わせるほどのことでもないんだ。あんたはあんたの文化祭を楽しめばいい。それだけなのだが、どうせ言っても聞きやしないだろう。仕方ない。結局俺が気を遣わなければいけないんだ。こうなることは分かっていたよ。


「そういえば、クラスの打ち上げは明日になったんだってな」

「え?ええ、みなさん疲れていると思いますし、どうせ明日も部活動はありませんので。それがどうかしましたか?」

「じゃあ今日の放課後は空いているわけだな」

「はい。ですから、それがどうか?」

「今日はうちに来い」

「え?」

「今日はTCCの打ち上げをしよう」


 こうして、俺は身体を張るわけだ。なぜ俺がここまで身体を張らねばならないのだろうか。今回の文化祭で俺は人一倍頑張ったはずだ。今日だって他人のために奔走している。しかし、それでも他人はまだ俺を認めてくれないらしい。どう考えてもひどい話なのだが、偶然だろう。そう思わなければ、やっていけない。


「あんたは全員に連絡してくれ。誰を招集するは任せる」

「は、はい。あの、でもいいんですか?」


 俺が言い出したのだ。いいに決まっている。


「覚悟はできているよ」


 あんたがそんな顔じゃ、周りが心配するだろう。どうせ俺のせいにされるんだ。だから、これでいいんだ。おそらくな。


「分かりました。ありがとうございます。それと、すみません」


 謝るくらいなら、もうしないでもらいたいね。


「あ、あの、成瀬君……」


 俺と岩崎の間に微妙な空気が流れ始めたころ、ようやくプラネタリウムから戸塚姉妹が出てきた。


「お待たせしました」


 そんなに待っていないぞ。そんな恐縮されると俺が困るし、他人からの視線が痛いから勘弁してくれ。


「戸塚さん、プラネタリウムはいかがでしたか?」


 岩崎が戸塚結衣に話しかける。すると、


「ま、作り物、って感じだったね。文化祭にしては結構まともだったけど」


 答えたのは彩衣のほうだった。どちらも戸塚さん、だからどちらが答えてもいいのだが、姉妹本当に似てないな。彩衣は前に出るタイプで、結衣は後ろに控えるタイプだ。どちらがいいとは言わないが、両極端と言えよう。


「そうですか。一応誉めてくださっているのですよね?」

「彩衣ちゃん、ダメだよ!」


 苦笑する岩崎。戒める戸塚結衣。そんな二人をお構いなしに、彩衣は、


「ねえ、あなた誰?成瀬君の彼女?」

「わ、私ですか?彼女?」


 おかしなくらい取り乱した岩崎を無視して、


「彼女じゃないぞ。ただの腐れ縁だ」

「く、腐れ縁とはなんですか!そもそも使い方が間違っています。腐れ縁とは、嫌々ながら続いてしまうような関係のことを意味する言葉です。たかだか二年同じクラスになっただけで使うような言葉ではありません!」


 確かに使い方が間違っていたような気もするが、そこまで否定するということは、しっくりくる別の言葉があるのか?


「腐れ縁でなければ、何だ?」

「な、何だ、と言われましても……。私には決断しにくいと申しますか……」


 何なんだ、いったい。俺は口ごもる岩崎を見て、頭に疑問符を浮かべるだけだったが、


「なるほど、そういう関係かぁ!」


 一人得心の彩衣。俺と岩崎を交互に見ると、最後に姉を見て、


「いいね。結衣ちゃんの学校は楽しそうで!」


 言われても、ピンとこない。何を見て、そう感じたのだろうか。この漫才みたいなやり取りでそう思ったなら、勘違いも甚だしいね。


「さて、そろそろ俺たちは行くぞ」


 適当でくだらない話がひとしきり盛り上がったところで、俺は岩崎に向って終了宣言をする。あまりこうしていてもしょうがないし、プラネタリウムと展示に迷惑がかかる。


「そうですか。私もそろそろ次の仕事に向おうと思います」

「そうか。適当に頑張れよ」

「はい。成瀬さんも、頑張ってください」


 俺が何を頑張るって?事件はもう解決していると言っているだろうが。


「戸塚さんも楽しんできてください。文化祭は今日で終わりですからね。目いっぱい楽しむといいですよ!彩衣ちゃんもね」

「はい。岩崎さんもお仕事頑張ってね」

「ありがとう。岩崎さん」


 こうして、俺たちは岩崎と別れた。


「あの、成瀬君。次はどこに?」


 しばらく廊下を歩いていると、戸塚結衣が訪ねてきた。そういえば、まだ言っていなかったな。


「とりあえず麻生と連絡とって合流する」

「それから?」

「それから、」


 発端が七不思議で、主人公が演劇部っていうのが、また面白いな。俺から見たら茶番でしかないんだが、それでも舞台は舞台だな。


「この陰謀劇を終わらせて、フィナーレを迎える」


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