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8/13

15:00~16:00

遅くなりました。申し訳ないです。

 十五時になると、麻生はいつも通りのにやけ面で、


「じゃあ、捜査よろしく。俺は俺のほうで情報を集めておくぜ」

「集めるったって、お前は店番だろう。どうするんだよ」


 麻生はこともなげに、


「演劇部の連中に話を聞いてみるよ。世間話の延長でな」


 うむ。こいつ、ずいぶん簡単に言いやがる。俺では到底できないことだ。明るく気さくな人間は、それだけで得をしていると思うね。これは社会性のない人間の僻みだと思ってくれ。


「なんか分かったら教えてくれ。捜査も楽しいが、事実関係も気になるんだ。なんてったって、俺は被害者だからな」


 ずいぶん楽しそうな被害者がいたもんだな。


「お前も何か分かったら、教えてくれ」

「むろんだ。ワトソン君」


 何になりきっているのか、丸分かりだな。俺は医者でもお前の助手でもないぞ、と突っ込みたい気持ちは山々だが、麻生のほうは時間もなさそうだし、適当に頷いてこの会話を終わらせた。


「あー、俺のサイフは引き続きお前が持っててくれ。どうせこの時間は使わないし、もう盗まれたくないからな」

「ああ。分かった」


 店番が終わった後、また集合することを約束すると、俺たちは別れた。


 さて。これから何をしようか。正直乗り気ではないし、一番乗り気だった人間もいなくなってしまったので、かなり手持無沙汰になってしまっている。とりあえずこの場にいる同朋に尋ねてみるとしよう。


「これからどうする?」

「え?わ、私ですか?」


 同朋その一。戸塚結衣。


「私は、別に……。でも少しだけおサイフ盗んだ人のことが気になるかな。あ、でも、成瀬君がいやだっていうなら、全然いいんだけど……」


 意見なのか提案なのか、それとも単なる独り言なのか。一応願望らしき発言をしたのだが、いまいちその真意が分からなかった。ま、慎み深い戸塚のことだ。自分の願望らしき発言をできただけでも十分だろう。いつもならば、『みんなに合わせる』的な発言をしていたところだ。


 戸塚結衣の意見(願望)は理解した。では、もう一人の同朋の意見はどうだろうか。


 同朋その二。戸塚彩衣。


「うーん、犯人探しもいいけど、あたしはもっと文化祭を見て回りたいな。まだ全然見てないし。せっかく結衣ちゃんの高校に来たんだから、結衣ちゃんの友達にも会いたいな」


 もっともな意見だ。戸塚彩衣はうちの高校の文化祭に来たのだ。何も犯人探しに付き合う必要はない。ま、その文化祭に来て事件を起こした張本人であるのだが、形の上では事件は解決し、被害者も彩衣を恨んだりしてはいない。こいつは解放してやってもいいかもしれないな。とはいえ、こいつだけ解放しても、かわいそうかもな。彩衣は、姉である結衣を追ってきたのだ。そして、その目的は結衣の高校を見ることと、その高校生活を垣間見ることだ。となると、彩衣のサポート役兼案内役を結衣に任せるのが最善かもしれないな。


「じゃあこのあとは別行動、二手に分かれることにしようか」


 二手とは、当然俺と戸塚姉妹、の二手である。


「犯人探しは基本的に俺が引き受けるから、戸塚は妹を案内してやれ」

「え?あの……?」


 突然の宣言に、混乱したように言葉を詰まらせる戸塚姉。一応言っておくか。


「犯人探しがしたいなら、案内しながらすればいい。探すって言ったって、どうせ聞き込みくらいしかできない。文化祭をぶらぶらしながら、知り合いに声をかければいい」

「そう、ですね……」


 結衣が発した言葉は、表面だけとらえれば納得、了承したように聞こえた。しかし、表情・声色・雰囲気を鑑みれば、一目瞭然。明らかに不満がありそうだった。


「一応言っておくが、これは間違っても命令じゃない。何か不満があるなら言ってくれ」


 俺の発言に対して、反射的に顔を上げ、何か言おうとした結衣だったが、言葉が出てこず、結局黙り込んで俯いてしまった。なんだろうな、俺が悪いのか?


 俺はどうしたらいいのか、判断できずにいた。一応反論異論はない。なので、決定を下して、別行動をとることはできる。しかし、どう見ても心の中に反論を抱えているらしき戸塚結衣を目の前にして、俺はそんな決定を下せるほど心が強くない。


 さて、どうしたものか。こうしている時間ほど無駄なものはないわけなのだが。


「じゃあさ、」


 口を開き、この空気を打開したのは、この場における最年少戸塚彩衣だ。


「成瀬君が言ったことを三人でやればいいんじゃない?結衣ちゃんはあたしを案内して、成瀬君は聞き込みをやる。これって、別行動じゃなくてもできるよね?」


 言われるまでもなく、もちろんその通りだ。しかし、俺としては、何も効率だけを考えていたわけではなく、仲睦まじい戸塚姉妹の間に、俺が割って入るような状況を回避する意味も込めて別行動を提案したのだ。


 と、俺の考えを改めて表明しようとしたのだが、


「そ、そうだね!それがいいよ!そうしよう!」


 結衣の、無駄に元気で大げさな同意を聞いたら、そんな心遣いは無用だという結論に至った。しかし、なんだってそんな大げさな同意をしたのだろうか。ほら見ろ。おかげで、戸塚の声を聴きつけた連中が、何事かと色めきだっているじゃないか。


「ご、ごめんなさい……」


 周りの視線気が付いた結衣は、いつものように小さくなってしまい、同時に、興奮して大きな声を出してしまった自分を、今更ながら恥じたように、顔を真っ赤にして俯いた。


 無駄に目立ってしまったことはさておき、結衣の発言によって俺たちのスケジュールが決まった。


「じゃあ適当にぶらつくとしよう。戸塚妹はどこに行きたいんだ?」

「え?いいの?」


 この発言は彩衣の物で間違いないのだが、隣で結衣も同様の質問を口にしたそうな表情で俺を見ている。俺は、そこまで驚かれるような発言をした覚えはないぞ。考え方もいたってシンプルだ。いいの、と聞かれれば、即座に首肯する。


 先ほども言ったが、結衣は俺が知っている中でもトップクラスに慎み深い。他人に対して、自分の意見を押し付けることは絶対にしない。自分の意思を表明することも滅多にない。そんな結衣が、俺に進言したのだ。そうしよう、と。その行動にどれほどの決意があるのか。俺には計り知れない。


「俺もまだ文化祭を楽しんでないんだ。できれば、誰かに案内を乞いたいところだったんだ」

「なるほど。じゃあ結衣ちゃん、案内役よろしくね」


 しばし呆然としていた結衣だったが、意味を理解すると、


「う、うん!分かった!」


 と、またしても元気よくうなずいた。


 指針が決まったところで、まず最初の行先を決める。


「成瀬君は、どこか行きたいところある?」

「特にないな」


 即答した俺に対して、結衣は少し困ったような表情を作った。俺の意見など、適当に捨て置いてもらいたいね。それより文化祭を満喫したいという願望を語った、実妹の意見を聞いてやってくれ。


「あたしはプラネタリウム見たいな。これって、結衣ちゃんたちが作ったんでしょ?さっきは展示しか見れなかったし、とりあえずそこ案内してよ」

「うん。分かった。あの、成瀬君もそれでいいかな?」

「構わんよ」


 俺は最初から何でもいいのだ。犯人探しだって、正直どうでもいい。


 そうして、我々奇妙な三人組は、我がクラスに向かった。




 目的地に到着するまでにも、戸塚彩衣は文化祭を楽しんでいた。道中の発表・展示にことごとく興味を持ち、その度に寄り道をしていた。


 すでにいくつかの展示やら発表やらを見て回ったのだが、飽きずにまた新たに一つ、どうやら興味を持ったようだ。その教室には大きく『占い館』と書かれていた。


「ねえ、ここ見ていきたいんだけど」


 今更とやかく言わない。好きなだけ寄り道すればいい。どうせプラネタリウムは逃げやしないからな。というか、完全に道が違うから、もう目的地なんてあってないようなものだ。俺がここにいる理由もあってないようなものだな。


 しかし、


「…………」


 占い、ねえ。あまりいい思い出がないな。俺は信じていないというのに、なぜこれほどまでにさまざまな思い出があるのだろうか。今年度の初めにやたら振り回された思い出があるな。あれは大変だった。もう二度と、占いなんかに関わりたくない。


 と、そういえば……。


「あら、あんたがこんなところにいるなんて、まだ懲りていないのかしら。それとも、快心でもしたのかしら。だとしたら、もう一度考え直したほうがいいわよ」


 会った途端になんてこと言いやがる。俺が自ら占いに近づくことはないね。俺の意志でなくとも、近づきたくないね。懲りてないだと?冗談言うな。もうこりごりだ。


「考え直すも何も、占いに興味はない。今までも、今も、これからもな」

「あ、そ。安心したわ。とうとう気が狂ったのかと思った」


 口が悪いにもほどがあるな、この娘。とうとうとはどういう意味だ?気が狂う兆しがあったということか?ならば、少しは気を遣ってもらいたいね。


 そこに現れたのは、TCCの唯一の一年。岩崎以上に歯に衣着せないこの女は、泉紗織で間違いない。TCCが誇る、占い少女だ。半年ほど、占い少女であることをすっかり忘れていたが、この度めでたく復活したらしい。有志で行っているこの占い館の一員である。


「よく見れば、また違う女を連れているわね。全くいいご身分だこと」

「何かとんでもない誤解をしているようだから言っておくが、ただのクラスメートとその妹だ」

「こ、こんにちは」

「どーも!」


 俺が紹介したと勘違いした戸塚姉妹は、自己紹介を始める。


「あの、成瀬君のクラスメートをやらせていただいています、戸塚結衣と申します。成瀬君にはことあるごとにお世話になっており、今も、あの、姉妹ともどもご迷惑を……」


 恥ずかしいからやめてもらいたい。やらせていただいている、ってなんだ。戸塚に迷惑をかけられたことはあまりないぞ。確かにコミュニケーションがとりにくいとは思っているが、それに関しては俺のほうにも問題はあるわけで……。とにかく意味不明な持ち上げ方はやめてもらいたいね。どう考えても誤解を生みそうだ。戸塚は俺のことを、神か何かと勘違いしているんじゃないだろうな。


「あはは。妹の彩衣でーす」


 姉とは一転、かなり能天気な感じで名乗る彩衣。いや、本来ならこんな感じで十分なのだ。そもそも自己紹介なんて必要ない。ただ、ばったり会っただけなのだから。


「ふーん……」


 戸塚姉妹の紹介を聞き、じっくり観察した後、姫は意味深な感じでうなずいた。なんだ、嫌な感じがするな。こいつ、絶対あらぬ誤解をしているに違いない。


「ま、いいわ。あんたがどんな知り合いと付き合おうと、私に被害がなければ好きにするといいわ。で、占いに来たんでしょ。私でよければ占ってあげるけど」


 自分勝手な娘だ。自分から言い出したくせに、一方的に会話を打ち切りやがって。

姫はTCCの中では、俺の次に常識人である。言っていることはたいてい的を射ているし、突飛な発言をしたりもしない。ただ、わがままで口が悪い。姫は一年で、最年少だ。にもかかわらず、誰に対しても敬語を使ったりしないし、俺や麻生に至っては~先輩とも呼ばれない。


 俺や麻生は上下関係にうるさくないからいいものの、将来はもっと年長者に対して気を遣えるようになったほうがいいぞ。


 姫は先頭切って占い館に入っていく。俺たちもそれに続く。中はよくある占い館のイメージなのか、若干照明を落としてある。暗幕カーテンを使って外からの光を遮断し、蛍光灯にも、セロファンで明かりの色を調整している。実際とは違うのだが、ま、万人受けするイメージということなのだろう。


 机や段ボールなどで仕切られた一つの小部屋に案内された俺たちは、置いてあったイスに腰かけた。その対面に占い師であるところの姫が座る。


「じゃあさっそく、と言いたいところだけど、」

「何かあるのか?」


 何かと思ったら、姫は怪しく微笑んだ。ヘンゼルとグレーテルを見つけた魔女のようだ。どう見ても楽しいことにはならないような気がする。


「あのさ、さっきこいつに現在進行形で迷惑かけているって言ってたけど、何かあったの?」


 姫が話しかけたのは俺ではなく、戸塚結衣のほうだった。


「何で、それをお前に話さなければいけない」

「あんたに聞いてないでしょ。戸塚先輩に聞いているのよ。ねえ、教えてくれない?」

「え?あの……」


 戸塚は困惑し、俺を横目でちらりと見た。俺の許可が必要だとでも思っているのだろうか。そういう態度はやめてもらいたいね。戸塚自身に悪気がないのは分かっている。しかし、どうにも体裁が悪い。何か俺が威圧しているように見えるではないか。クラスメートはどう思っているのか、せいぜい気になるところだ。


「戸塚の妹がサイフを拾ったんだ。それを戸塚妹がネコババしようとしていたから、阻止して文化祭本部へ持っていったんだ。そしたらそのサイフが盗まれた麻生のものでな。今、情報を集めているんだ」


 あんたに聞いていない、と言われたにもかかわらず、俺が話したので、何か嫌味を言われるだろうと思っていたのだが、姫はさらにいやらしい笑みを深くして、


「へえ。それで、そのサイフは?あんたが麻生に渡したの?」

「いや、まだ俺が預かっているが」


 俺が答えると、途端にがっかりした表情になる姫。そして、


「何だ、面白くない」


 何で麻生にサイフを返していたら、お前が面白い気分になるんだ。全く理由が分からないぞ。


「こんな話知っている?」


 嫌な感じで切り出した姫。あー、これはいろいろ聞き覚えのあるフレーズだな。


「文化祭の七不思議って知ってる?」

「よく知っている」


 残念ながら、大当たりだ。


「へえ。なら話は早いわ。文化祭の最中に大事な物を失くした人に、その失くした物を届けてあげると、とても親密になれるみたいよ。何でもその昔、文化祭の最中に大量の現金が入ったサイフを失くした女性がいたらしいの。結局とある男性がそのサイフを届けてくれたらしいんだけど、その男性は盗むことはおろか、謝礼も請求せず、名前も明かさずに立ち去ろうとしたの。その男性の紳士な姿を見た女性は一目で恋に落ちてしまったらしいわ」


 ふむ。今回の作り話はなかなかのクオリティだな。まず間違いなく、今までで一番まともな話だろう。それで、なぜ姫が『面白くない』と表現したかというと、


「もし、あんたが麻生にサイフを渡していたら、とても親密になれたのに、残念ね」


 別に残念でも何でもない。これ以上麻生と親密になってどうするんだ。現状で十分だ。それに、姫はいったい何を期待しているんだ。いや、分かっている。先ほど戸塚姉妹に言ったセリフからも、一目瞭然だ。こいつは俺が困っている姿を見たいだけなのだ。全く、いい性格だな。


「へえ。それは、いい話だね」

「うん。七不思議はいい話が多いね」


 姫の下らない冗談など、全く聞こえていなかったとばかりに、戸塚姉妹は仲良く雑談している。よく考えたら、サイフを拾ったのは俺ではなく、彩衣だぞ。だから麻生と親密になるのは、彩衣のはずだ。


 それを姫に言うと、


「大事な物を拾ってあげると、とは言ってないわ。届けてあげると、と言ったのよ。だから、あんたの手から麻生に渡れば、親密になるのはあんたなの」


 それは屁理屈なのではないのか。考えたのが誰だか分からないが、それを意図して、届ければ、という言い回しを使ったかどうか怪しいことこの上ないね。


「さ、くだらない話はここまでにして、占いを始めましょ。どっちが受けるの?」


 これまた言い出したのは姫だったのだが、先ほど同様勝手に話を切り上げて、本題に戻った。本当に自分勝手なやつだ。しかし、姫の勝手に不満を感じていたのは俺だけだったようで、


「はーい!あたしが受けます!」


 元気よく彩衣が手を上げる。


「そ。じゃあ私の正面に座ってくれる。で、手を出してくれる」

「はーい」


 彩衣は言われた通り、姫の正面に座り、手を差し出した。どうやら姫は手相占いをするようだ。


「手相占いか。あたし、占いってあまり信じないんだけど、手相だと結構信憑性あるような気がするんだよね」


 見てもらいながら、姉に話しかける彩衣。ま、自分の身体的特徴から読み取る占いだからな。血液型や星座占いよりは信憑性があるような気がするのは、俺も理解できるところだ。だが、結局占いの域を出ない。科学的な根拠がつけられるようなものなのだ。絶対はない。当然だろう。


「結局占いは絶対じゃないのよ。占いっていうのは、『当たるも八卦、当たらぬも八卦』と昔から言われるように、初めから、必ず当たるっていうものじゃないの。だから当たる当たらないで文句を言うのはおかしいの」


 今年度の初めに、占いをもとにいろいろやっていた姫だが、とある計画の道具として占いを選んだわけではなく、最初から占いに興味を持っていたのだろう。


「占いの歴史は古く、深い。王や貴族たちより権力を持っていた時期もある。それはなぜか。人間は漠然とした不安を嫌うから。それは現代でも一緒。だから今では占いが溢れているし、かなり身近になってきているでしょ。要は当たる当たらないというより、その人の不安が拭えればいいのよ」


 ずいぶん身勝手なこと言っているな。占いを受ける人間がそう思っているのはいい。しかし、占いをする側の人間が言っていたら、お前の占いは適当なんじゃないか、っていう不安で押しつぶされそうになるね。占い師が新たな不安を呼んでどうする。ただ、言わんとしていることは、的を射ている。


「確かにそうかも。だって占いの結果って、その時盛り上がるだけで結局忘れちゃうしね」

「そうだね。信じるのも、よかった内容だけだもん」


 普通はそうだろうな。占い結果を頭から全て信じる人は少ないだろう。


「元来占いは災いを避けるためにやっていたことなのよ。だから本来なら悪い占いほど、信じたほうがいいの。その災いを避けるためにね」

「ああ、そうだね!いいことだったら、先に知らないほうが嬉しいし」

「でも、そうやって人の弱みに付け込んで、災いを回避するためにこの壺を買ってください、とかっていう詐欺が横行しているんじゃないのかな」


 それもあるんだ。人の心は弱くもろい。何を信じるか、疑うか。正常な状態ならば、容易に判断できることも、時にはころっと騙されてしまう。


「ま、あまり深く考えなくてもいいわ。あなたたちのように適当に付き合えばいいのよ。占いに求めるものが変わっているのに、何で未だに占いが愛されているか。それは自分自身や将来に不安を感じている人が多いってことよ。その不安を拭うために占いは存在しているのよ」

「そっか!じゃあ今までどおり、いいことだけ信じいていればいいんだね」


 何かものすごく遠回りをしたが、結局元の場所に戻ってきたな。不安を拭うために存在している、ねえ。


「ということは、やはり占いはただの気休めなのか?」


 穿った見方をすれば、ただの出来レースである。


『私は将来が不安です』

『あなたの将来は希望に満ちています。何も心配いりません』

『そうですか、ありがとうございます』


 という会話を求めて、占いをしているということになる。なんだか、とても無駄なことをしているような気がするのだが。


「ま、言ってしまえばそうね。でも、気休めでも不安やストレスを解消してあげなきゃ、大変なことが起きるかもしれないわ。窮鼠猫を噛む、っていうでしょ」


 追い詰められた人間は何をするか分からない、ということか。確かに、不安で押しつぶされそうな人間に対して、残酷な真実を告げてしまったら、もう救いはないだろう。本人がそう自覚してしまったら、正常に生きることは難しい。心が壊れてしまえば、人間はたやすく壊れてしまうのだから。


「さ、難しい話は終わり。そろそろ占いましょうかね。ねえ、戸塚先輩もどうかしら。何なら、あんたも見てやってもいいけど」


 何がそんなに楽しいのか。急に上機嫌になった姫は、戸塚結衣を占いに誘い、あろうことか俺までも誘った。その後、完全に出来レースと化した占いをやって、適当に笑い合うと、雰囲気の明るい占い館を後にした。




占いに関しての言及は、作者の独断と偏見です。

世間的な意見ではないので、

誤解なさらぬよう、よろしくお願いいたします。

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