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12:00~13:00

 ようやく午前の部が終わり、昼休みになった。かばんは部室においてある。なので、必然的に部室で昼食をとる。たとえかばんが教室にあったとしても、俺は部室で昼食をとっていたと思うが。


 俺が部室に向かうと、道中で岩崎と真嶋に出会った。


「あ、成瀬さん。部室でお昼ですか?」

「ああ。かばんが部室にあるからな」

「我々もご一緒してよろしいですか?」


 別に確認なんていらない。あの部室は俺だけの物じゃないしな。もちろん俺はオーケーだ。岩崎も当然オーケーなのだろう。さて、もう一人はどうだろうか。


「真嶋がよければ、な」


 俺の言葉に、真嶋が視線を上げる。睨みつけてくるが、迫力はまるでないな。しかし、そんなに恥ずかしかったのだろうか。なんと真嶋は、俺と会った瞬間から、顔が真っ赤だった。


「真嶋さん、どうかなさったんですか?」

「別に、何でもない」


 何でもあるような答え方だった。当然岩崎は、俺に疑いのまなざしを向けてくる。仕方ない、俺から言うとしよう。


「午前中、真嶋のダンスを見たんだ」

「それだけ、ですか?」


 岩崎の疑問はもっともだろう。俺も、それだけか、と問われれば、たぶん、としか答えようがない。なぜなら、他に心当たりがないからだ。


「その辺は本人に聞いてくれ」


 俺と岩崎は真嶋を見る。すると、


「だって、まさか成瀬に見られるとは思わなかったんだもん……」


 そんなこと言われてもな。俺とて見る気などなかったし、真嶋がいつどこで何をやるか、全く知らなかったのだ。全ては天野のせいだ。ま、天野がいなくとも、おそらく俺は真嶋のダンスを見ることになっただろう。しかし、真嶋に気づかれることはなかっただろう。そういう意味では、真嶋の中で、見られた、という意識は芽生えない。ということで、やはり全て天野のせいなのだ。


「…………」


 恥ずかしそうに顔から火を噴いている真嶋を見て、岩崎は何やら思案していた。そして、


「成瀬さん。私も午後にいくつかパフォーマンスに参加するんですけど」

「そうか」

「私も午後にいくつかパフォーマンスに参加するんですけど!」


 何なんだ、こいつは。何をアピールしているんだか。そんなに見てもらいたいのか。真嶋とは正反対のリアクションだな。ま、こいつはハードルが高いほうが燃えるタイプだからな。


「分かった。見に行ってやるから、時間と場所を教えろ」

「はい!約束ですよ」




 ようやく部室にたどり着いた俺達三人は、席に着くや否や、弁当の包みを解いた。


「成瀬さんは午前中、何をしていたんですか?」

「俺は展示の受付。そのあとは適当にぶらついていた」

「そうですか。どうです?少しは楽しんでいますか?」


 どうだろうか。会う奴会う奴に、もっと楽しめ、と言われたせいで、何となく気が重くなっているような気がする。


「そういうあんたはどうだ?午前中何をしていたんだ?」

「私は、最初来校者の皆さんの案内をしていましたね。そのあとは少し自由なじかんがあったので、いろいろ見て回りました。泉さんの占いにも行きましたよ」


 そういや、姫は久しぶりに占い少女に戻っているんだったな。今ではただの生意気な小娘になっているが、最初はそんな肩書だった。


「真嶋さんはいかがですか?何か面白いものはありました?」

「え?そうだなぁ……。あたしはやっぱりみんなのパフォーマンス見ているのが一番楽しいかな。あと、まだうちのクラスのプラネタリウム見てないから、午後はそっちに行こうかな」

「あぁ、そういえば私もまだプラネタリウム見てないです。一緒に行きませんか?」

「うん。いいよ。何時ごろ?」

「そうですねぇ、昼休みが終わった直後でどうですか?」

「うん。いいよ」


 いいね、行きたいところがたくさんあるやつらは。こうして予定がどんどん埋まっていくからな。かといって、うらやましいわけでもないが。


「成瀬さんはいかがですか?一緒にプラネタリウム行きませんか?」


 とても魅力的なお誘いで、その心遣い痛み入るが、残念だな。


「午後一でまた受付だ」


 なぜだか俺はまたしても展示の受付を任されてしまっているのだ。確かに俺は暇だし、昨日はまるで手伝うことができなかったが、この扱いは納得できない。


「あ、そうでしたね。ご苦労様です!」


 労われても嬉しくないぞ。


「今度の相方は誰ですか?」

「戸塚だ」


 一日二度受付をやる。しかも、相方が同じ。なかなかない偶然だよな。おそらく戸塚も暇なんだろう。友人のパフォーマンス巡りくらいしか予定がないようだしな。


「あれ?確か、午前中も戸塚さんと一緒じゃなかった?」


 今まで黙り込んでいた真嶋がようやく復活した。それほど恥ずかしかったのだろうか。まだ、顔の赤さは取れていない。


「よく知っているな。午前中は戸塚の他に三原もいたが」

「…………」


 今度は深刻そうな顔をして黙り込んだ。一体何なんだ?情緒不安定にもほどがあるぞ。


「…………」


 隣で岩崎も黙り込んで、何か考え事をしているような顔をしている。どういうことだよ。


「どうした?」


 俺が岩崎に話しかける。この二人が、俺が感知できない電波を受信したのかと思っていたのだが、


「あ、えーっと……。そ、そうです!今年の文化祭は、いろいろな噂があります!」


 とりあえず急激に話題を変えてきた。よく分からないのだが、どうやら俺が触れてはいけない話題だったようだ。変なやつらだな。


 えー、それで、岩崎は何と言った?今年の文化祭でいろいろな噂?あー、嫌な予感がするな。そんなことを言われて思い浮かぶのは、一つしか、あ、いや、三つほどあるな。


「えー、成瀬さんは『文化祭の七不思議』って知ってますか?」

「…………」


 やはり来たか。どいつもこいつも、同じことばかり言いやがって。何がそんなに面白くて、七不思議なんぞに現をぬかしてやがるんだ?今日が文化祭だからって、頭の中までフェスティバルになってしまっているのだろうか。


「……それで、その『文化祭の七不思議』とやらがどうかしたのか?」

「ええ。文化祭当日に大切なモノを失くしてしまうと、その後の人生において、さらに大切なモノを失くしてしまう、という話なのですが、」

「そいつは大変だな」


 もうこの状況に慣れてしまった俺は、適当に相槌を打つ。


「そうなんです。でも、文化祭のうちに失せ物が見つかると、その後の人生でもう二度と大切なモノを失くすことはない、らしいですよ。何でも、その昔、文化祭で財布を失くした双子の女生徒がいまして、片方は一生懸命探してその日のうちに見つけ出し、もう片方はどうでもいい、と適当に探して結局見つけることはできなかったそうです。すると、今まで似たような人生を送っていた二人だったのですが、その日を境に、全く違う人生になってしまったようです。それ以来、二人の女子生徒の霊が文化祭に出没し、自分と同じ未来を歩む生徒を探しているとか」


 ため息。この話を聞いた俺の感想は、この一言だね。もういい加減にしてもらいたい。これで四つ目か。みんなこの程度のクオリティーの作り話に振り回されているのだろうか。にわかに信じがたいが、どうやら噂として蔓延し始めているらしい。悲しいな。


「そうなんだ、あたしも気を付けないと!」

「ええ。昨日も盗難や紛失物がいくつかあったそうなのですが、その中にはまだ見つかっていないものもあるようですよ」

「そっか!それって盗難も含まれるんだ。なおさら気を付けないといけないね」


 俺を差し置いて、何故か盛り上がる二人。この場合、おかしいのは俺のほうなのだろうか。


「それにしても、」


 ひとしきり盛り上がると、俺に話を振ってきた。


「成瀬が七不思議を知っているとは思わなかったよ」

「この手の噂からは一番縁遠い人ですからね」


 確かにな。先ほどは天野から専門、などという迷惑極まりない勘違いをされていたのだが、二人は正しい評価をしていたらしい。もしかすると、俺は周りの人間から占いだの都市伝説だのに詳しい人だと思われているのかもしれない、と思ったが、そうでもないらしい。


「で、誰から聞いたんですか?」


 俺はすでに七不思議のうち、四つ知っているのだ。なので、誰から、と問われば、四人の名前が上がるのだが、七不思議、というものの存在を知ったのは三原との会話がきっかけだった。いや、待てよ。


「きっかけは、あんたたちとの会話だな」

「え?」

「朝、昨日誰かと長い間一緒にいたか、という話をしただろう」


 思い出したのだろう。二人の表情が凍りついた。


「三原に同じ質問をされてな。理由を聞いたとき、七不思議の存在を教えてもらった」

「あ、あぁ、そうですか」

「へ、へぇ」


 何だ、こいつら。やはり何か企んでいたのだろうか。


「確か、文化祭の三分の二以上を同じ人と過ごすと親密になれる、だっけ?どうせ俺は誰とも親密になれないだろうよ」

「あ、別にそういうことが言いたかったわけではないのですが……」

「じゃあどういうことだよ」

「そ、それは……」


 言い淀んでいる時点で怪しいことこの上ないのだが。ま、この調子でいけば、今日も誰かと三分の二以上行動を共にすることはないだろう。この手の噂で、俺が関係ありそうなものなど、ほとんどないと言っていい。それは残念がるところなのだろうか。


「そんなに拗ねないで下さい!所詮眉唾物の噂話ですよ。適当に面白がって、笑い話にすれば十分です」


 それをあんたが言うのか?朝、岩崎と真嶋はかなり真剣な表情で聞いてきたじゃないか。まさか、あれは俺を騙すための演技だったのか?つまらないことに演技力を使うな。


 まあ、それはそれとして。


「七不思議というからには、その噂は当然七つあるんだよな?」

「え?ええ、おそらくあるんだと思いますよ」


 おそらく、とは曖昧な答えだな。


「あんたも全てを知っているわけじゃないのか?」

「はい。まあ噂なんで、ちゃんと定義されているわけじゃありませんし、口頭のみで伝えられているので、同じ噂でも微妙に差異が発生しちゃったりしているものもあります」


 もとは七つだったようだが、どうやら枝分かれしてしまっているらしい。


「私が知っているものは、一応四つだけですね」


 なんと、俺と同じ数ではないか。


「あたしは三つだけ」


 そして、俺のほうが真嶋より多い。これは喜ぶべきか否か。俺は全く興味ないのだが、案外世の中というものはそういう風にできているのかもしれないな。本当に欲している者は得られず、大して欲していない者が手に入れる。いや、このたとえはおかしいな。岩崎や真嶋だってそこまで真面目に収集しているわけではなさそうだし。


 それにしても、七不思議ね。すでに四つ知ってしまっている。興味ないと言いつつも、だ。どうやらまことしやかに噂は広まりつつあるようだし、中には振り回されている連中もいるかもしれない。そう考えると、何か起きてもおかしくないのかもしれない。俺のあずかり知らないところで何が起こっても知らぬ存ぜぬで通すことはできるのだが、噂が勝手に俺の下に集まっているこの状況をかんがみるに、心中穏やかではいられない。俺が思うことは一つだ。


「何か、嫌な予感がするな」


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