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第八章 闇の囁き

王都の夜は、まるで私の心を映すかのように静かで、しかしどこか不穏な気配を孕んでいた。

ルチアーノの嫉妬に満ちた視線と、ヴィットリオが伝えた彼の密談の噂は、私の胸に冷たい影を落としていた。

自室の窓辺に立ち、月光に照らされたフィオレンティアの街並みを眺めながら、私は聖女の力を感じていた。

その力は、温かく脈打つ一方で、まるで警告のように私の心に疼きを伝えた。

何か、大きな闇が王都の裏で蠢いている。

ルチアーノの企みが、私の光を曇らせようとしているのだ。


「ルチアーノ…あなたはまだ私を貶めようとするのね。」


私は呟き、拳を握った。

彼の裏切りは、私を聖女の道へと導いた。

だが、その嫉妬は、新たな試練を呼び起こしている。

私は目を閉じ、胸の力を呼び起こした。

金色の光が私の内に広がり、心の不安を静かに溶かした。

私は聖女、クラウディア・ヴィタリア。

どんな陰謀も、神々の加護の前では無力なのだ。


翌朝、私は王宮の回廊を歩き、神官長ジュゼッペ・マッシモに相談するため神殿へと向かった。

回廊の石壁には、フィオレンティアの歴史を刻むレリーフが並び、朝陽がその彫刻に柔らかな影を落としていた。

私の白いローブは風に揺れ、金の刺繍が光を反射して輝いた。

通り過ぎる貴族たちが一礼し、敬意の視線を送ってくる。

だが、その中に、僅かな嫉妬や猜疑の色を感じた。

私の成功は、民の希望であると同時に、貴族社会の均衡を揺さぶっていた。


神殿に到着すると、ジュゼッペは聖なる間の星の水晶の前に立っていた。

彼の白いローブは月光に照らされ、まるで神々の使者そのもののようだった。

私は一礼し、静かに口を開いた。


「神官長様、ルチアーノ・グリマルディが貴族たちと密談しているとの噂を聞きました。

私の聖女としての立場を脅かそうとしているのかもしれません。」


ジュゼッペは目を細め、私をじっと見つめた。

その視線は、まるで私の魂の奥まで見透かすようだった。


「クラウディア、汝の光はフィオレンティアに希望をもたらした。

だが、光が強ければ強いほど、影もまた濃くなる。

ルチアーノの嫉妬は、単なる人間の感情ではないかもしれない。」


私は眉をひそめ、彼の言葉を反芻した。


「どういう意味ですか?

彼の背後に、何かがあると?」


ジュゼッペは水晶に手を置き、静かに答えた。


「古の書に記されている。

聖女の光が輝く時、闇の使者がそれを曇らせようと動く。

ルチアーノの心は、嫉妬によって闇に染められている可能性がある。

汝の試練は、魔物や疫病だけではない。

人間の心に巣食う闇とも戦わねばならぬ。」


その言葉に、私は息を呑んだ。

ルチアーノの冷たい笑顔、ベアトリーチェを道具のように扱う姿が頭に浮かんだ。

彼の心が、闇に操られている?

そんなことがあり得るのだろうか。

だが、ヴェルトゥス荒野や北部の井戸で感じた魔王の欠片の力が、頭をよぎった。

あの闇は、単なる魔物以上のものだった。


「神官長様、もしルチアーノが闇に染まっているなら、私はどうすればいいのですか?」


ジュゼッペは静かに微笑み、答えた。


「汝の光は、闇を浄化する力を持つ。

だが、ルチアーノを救うか、打ち砕くかは、汝の心にかかっている。

聖女として、汝の使命はフィオレンティアを守ること。

されど、かつて愛した者を裁く時、汝の心は揺れるだろう。」


私は目を閉じ、ルチアーノとの思い出を思い出した。

薔薇の庭での誓い、彼の温かな手。

あのすべてが偽りだったとわかっていても、心の奥で疼く傷は消えなかった。

だが、私は目を閉じ、決意を新たにした。


「ありがとう、神官長様。

私の心が揺れても、私は聖女として進みます。

ルチアーノが闇に染まっているなら、私はその闇を浄化するわ。」


ジュゼッペは頷き、私に聖典を手渡した。


「これを持ちなさい。

聖女の力が揺らぐ時、この言葉が汝を導く。」


私は聖典を受け取り、胸に抱いた。

その重みが、まるで私の使命の重さを象徴しているようだった。


神殿を後にし、王宮に戻る途中、私はアレッサンドロ・モンテフェルトロと出会った。

彼は騎士団の訓練場で剣を手にしていたが、私を見つけると微笑みを浮かべ、近づいてきた。

彼の黒い髪は汗に濡れ、紫の瞳は朝陽に輝いていた。


「クラウディア、こんな朝早くに神殿へ?

何か用事か?」


私は微笑み、彼の率直さに心を和ませた。


「ええ、アレッサンドロ。

神官長に相談しに行ったの。

ルチアーノの動きが気になるわ。」


アレッサンドロの顔が一瞬曇り、彼は剣を鞘に収めた。


「グリマルディ侯爵か。

彼の嫉妬は、王都の貴族たちの間でも噂になっている。

一部の貴族が、彼に同調して聖女の力を疑う声を上げ始めている。」


その言葉に、私は拳を握った。


「ルチアーノが貴族たちを扇動しているのね。

私の光を曇らせようとしている。」


アレッサンドロは私の肩に手を置き、静かに言った。


「クラウディア、君の光は誰にも曇らせられない。

だが、俺は君の盾だ。

グリマルディが何を企もうと、俺が君を守る。」


その言葉に、私の心は温かな波に包まれた。

私は彼の手を握り、感謝の意を込めた。


「ありがとう、アレッサンドロ。

あなたの支えがあるから、私は恐れずに戦えるわ。」


その夜、王都で開かれた貴族の集会に、私は招待されていた。

ルチアーノの企みを確かめるため、私はその場に出席することを決めた。

淡い青のドレスに身を包み、エメラルドの瞳を引き立てる銀の髪飾りを付けた。

ヴィットリオとアレッサンドロが護衛として同行し、私は広間に足を踏み入れた。

シャンデリアの光が大理石の床に虹色の影を落とし、貴族たちの笑い声が響き合う。

だが、その華やかさの裏に、陰謀の匂いを感じた。


「聖女様、ご到着です!」


司会者の声に、貴族たちの視線が一斉に私に集まった。

私は微笑みを浮かべ、堂々と歩みを進めた。

だが、広間の隅で、ルチアーノが貴族たちと密談している姿が見えた。

彼の青い瞳が私を捉え、まるで毒蛇のような冷たさで私を睨んだ。

ベアトリーチェは彼の傍にいたが、彼女の顔は青ざめ、まるで幽霊のようだった。


「クラウディア、気をつけろ。」


アレッサンドロが私の耳元で囁いた。

私は頷き、ルチアーノに近づいた。

彼は冷笑を浮かべ、私を迎えた。


「聖女様、随分とご盛況だな。

だが、この輝きも、いつまで続くかな?」


彼の声は、まるで毒を滴らせるようだった。

私は微笑みを崩さず、答えた。


「ルチアーノ様、私の光は神々の加護そのもの。

あなたの嫉妬では、決して曇らないわ。」


その言葉に、ルチアーノの顔が歪んだ。

彼は一歩踏み出し、低く囁いた。


「ふん、神々の加護だと?

お前が聖女だという証拠は、ただの奇跡のまやかしだ。

貴族たちは、すでにそれを疑い始めている。」


その言葉に、私は胸の力を感じた。

私は右手を上げ、金色の光を放った。

光は広間を照らし、貴族たちの驚嘆の声を誘った。


「これが、まやかし?

ルチアーノ、あなたの心が闇に染まっているから、私の光が見えないのよ。」


ルチアーノは一瞬怯み、だがすぐに冷笑を浮かべた。


「いいだろう、クラウディア。

だが、貴族社会はそう簡単にはいかない。

お前の光が、どれだけ持つか見てやる。」


彼はベアトリーチェを連れ、広間を去った。

貴族たちのざわめきが嵐のように巻き起こり、私はアレッサンドロとヴィットリオに視線を向けた。

アレッサンドロが静かに頷き、ヴィットリオが聖典を握りしめた。


その夜、私は自室に戻り、聖典を開いた。

そこには、神々の言葉が記されていた。

「光は闇を打ち砕く。

されど、心の闇に気をつけなさい。」

私は目を閉じ、ルチアーノの顔を思い出した。

彼の嫉妬は、単なる感情ではない。

ジュゼッペの言葉通り、闇の使者が彼を操っているのかもしれない。


翌日、王宮に急報が届いた。

王都の地下で、魔物の気配が確認されたという。

聖女の力が疼き、まるで警告のように私の心を締め付けた。

私はアレッサンドロとヴィットリオを連れ、地下へと向かった。

そこには、黒い水晶が輝いていた。

ヴェルトゥス荒野、北部の井戸と同じ、魔王の欠片だ。


「ルチアーノ…あなたは、この闇に手を貸したのね。」


私は呟き、水晶に手を伸ばした。

その瞬間、闇の声が私の心に響いた。


「聖女よ、汝の光は無力だ。

ルチアーノの嫉妬は、我が力を増す!」


私は拳を握り、聖女の力を爆発させた。

金色の光が水晶を包み、闇の声を焼き尽くした。

水晶は砕け散り、地下は静寂に包まれた。

だが、私は知っていた。

ルチアーノの企みは、これで終わらない。

彼の嫉妬は、さらに大きな闇を呼び起こすだろう。




















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