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3-3 呪い公爵の正体

 目の前のアベルは顔を赤らめて片手で顔を押さえている。

 その様子を見るウィルフレッドは肩を震わせて噴き出すのをこらえていた。

 それはさきほど廊下で見せていた彼のしかめっつらに似ており、あのときもおそらく笑いを堪えていたのだと察した。


 そこまで状況が読めるようになるまで、エリサの脳内は落ち着きをとりもどしている。


「アベル、落ち着いたら、ちゃんとエリサ様に謝るんだぞ」

「うるさい! おまえはさっきからなんだ? 俺の母親か!?」

「あははっ、ちゃんと毎夜唱えてるエリサ様への愛を囁いたらいい。そうすれば、エリサ様も分かってくれるはずさ」

「おまっ! それをバラすな!」


「毎夜、愛を囁く……?」


 エリサはわけがわからず首をかしげた。とにかく、いつでも逃げられるように扉だけは死守する。

 アベルはエリサをチラリと見て、すぐそらす。迷うように目を閉じ、立ち上がった。


「エリサ」

「待ってください」


 エリサは両手を突き出し、アベルを制した。立ち止まる彼はその場で固まった。


「あの、私のことを本当に愛してらっしゃるんですか?」


 確かめなくては納得できない。


「もちろんだ」

「や、でも……分かりません。私を殺しそうな目で見てたり、監禁しようとしたり、さっきも魔法が暴走してたし、とても信じられないんですが」


 するとアベルは大きく目を見開いた。


「なぜ信じられないんだ?」


 慌てたように近づき、エリサの目の前に迫る。


「さっき言ったとおりですけど!? 言動すべて怖いんですよ!」


 エリサは正直に言った。

 するとアベルは「え、怖い……? なぜ?」と心底理解できてないようだった。

 早口でブツブツと話し始める。


「俺は君に贈り物をした。たくさん贈った。君の動向を見るためにペンダント型魔道具も贈って、毎日君を四六時中見守ってるのに。ずっと君だけを思って、君が成人するまで待っていたし、アルヴィナ家にも多額の支援をした。それで、何が足りないっていうんだ? 俺の愛はまだ伝わらないのか?」


「いやいや! 足りないわけじゃないですし、それが愛情とは思えませんし、家から出るなとか言って脅したじゃないですか!」


「脅してない!」


「脅しました! 威圧感があります! 怖いんです!」


 勢いよく言い放つエリサは、ふとアベルの言葉を思い返した。


「ちょっと待ってください……え? さっきなんて言いました? 毎日四六時中見守ってる?」

「あぁ、言った。何度も言わせるな。恥ずかしいだろ」

「知りませんよ、そんなこと。じゃなくて! 毎日四六時中ってなんですか? まさかアベル様が監視してるってことですか?」


 エリサは自分でも恐ろしい思案だと考えた。

 どうかその予想は当たるなと願わずにいられないが、そんな間もなくアベルはあっさりと「当然だ」とふんぞり返った。


 アベルは今や、エリサの目と鼻の先まで迫っていたが、指一本触れない。触れたそうに指を震わせているが我慢している。

 そしてその様子をずっと見ているウィルフレッドは床に這いつくばって、どうにか笑いをこらえようともがいている。


「信じられない……! だからずっと私が何をしているか知って……まさか、着替えもずっと見てたんですか?」


 そう言った手前、エリサの脳で理性が働いた。


(夫婦なんだから別に着替えを見られても問題ないわ……)


「いやでも! 違う! なんか違うなぁ! その場で見られるのと勝手に覗かれるのは違う!」


 頭を抱えて自分の理性とケンカする。混乱を極めるエリサに、アベルはなぜか赤面している。


「さすがにそれは見てない! 見られるわけがないだろ!」

「見てない!? 見なさいよ! いや違う、そうじゃないけど……!」

「君はさっきから俺にどうしてほしいんだ? 俺が君を深く愛してることがなぜわからない?」


 そう言って、彼は苛立たしげに扉に手をつけた。扉に穴が空くのではと心配したが、そんなことを考えてる場合ではない。美しい彼の顔がとても近い。

 アベルはエリサをじっくり見つめ、震える指でエリサの髪に触れた。しかし、すぐに指を引っ込める。


「あぁ、ダメだ。近くで見るととても可愛い」

「えっ」

「可愛すぎる。ありえない。こんな愛しく可愛い人が俺の妻だなんて、いまだに信じられない」


(んんっ!? 何!? 何が起きてる!?)


 耳元で甘く囁く美声に、エリサは息を止めた。


「本当はずっとそばにいたい。でも一緒にいると思いが抑えきれなくなるんだ。式のときも感情を抑えるのに精一杯で、顔も満足に見られなかった。でも、君を一目見た瞬間、一生添い遂げようと誓ったんだ」


 それまでの勢いはなく、かすれた優しい声音がアベルの口から繰り出される。


「あぁ、エリサ。妖精と見紛うほど美しい銀髪、白い肌……抱きしめたら絶対折れそうな体……淡く優しいラズベリーの瞳。全部好きだ。愛してる」


(ちょっと待って! 急にどうした!?)


 エリサはこういった状況に慣れていない。素直に赤面し俯く。するとアベルは焦れたようにエリサの顎を持ち上げた。


「下を向かないでくれ。もっと君の顔が見たい」


(いや~~~~~! ちょっとこの状況耐えらんないんですけど~~~っ!)


 自分の感情が嬉しいのか、嫌なのか判断がつかない。


(やだ、キスしそうな雰囲気じゃん~~~! でもダメ、私、人前ではキスできないの! やだやだ! ウィルフレッドのバカ野郎! 席外しなさいよ! 何見てんのよ! こっち見るなぁあああ!)


 アベルの背後を見れば、ウィルフレッドが静かにじっと見ていたのでエリサは目を閉じた。


「………」

「……?」


 しかし、一向にキスの気配がない。

 薄くそっと目を開けると、アベルは瞳孔を開かせ、まばたきひとつせず見つめていた。


「あぁ、やっぱりダメだ。エリサを誰の目にも触れさせたくない。部屋に監禁するだけじゃダメだな。男と話してるだけで虫唾が走る。いっそ全員殺すか」


(こっっっわ!)


 エリサはその場で固まった。


「あぁ、殺したい。もう殺そうか。エリサと口をきいた男は全員まとめて」

「アベル、さすがにそれは悪党が過ぎるし、エリサ様ドン引きしてるから」


 ウィルフレッドが冷静にツッコミを入れる。


「それに、エリサ様と口をきいた者なら、僕も含まれるんだけど」

「当然、お前も殺す。そこは平等だ」

「そんな平等いらないなぁ……」


 そう言ってウィルフレッドは苦笑し、アベルの肩を掴んだ。


「ほら、また暴走するから」

「あぁ、うん……」


 そうして、アベルはエリサから離れ、その場にしゃがんだ。


「ダメだ、心臓が爆発しそう」

「それはもう病気なのでは」


 エリサはおそるおそるつぶやいた。するとアベルはフッと笑みを浮かべた。


「すなわち、エリサ病だな」

「違いますよ。ただのヤンデレです」


 すかさず冷たく言い放ち、エリサは彼を見下ろした。

 そして、胸元に光るペンダントを見つめる。ここまでの彼の醜態をなかったことにし、強引に話を元に戻した。


「これで監視していたんですね。アベル様、見損ないました」

「なっ、見損なった!? どういう意味だ?」

「だって普通に嫌です。監視して行動制限して、私と接した男性を殺したいだなんて、その理由が私を愛してるからって。そんなの横暴ですわ。傲慢で最低です」


 エリサはペンダントをちぎった。言葉にすると怒りが湧き上がる。


「やはり離縁しましょう、アベル様」

「嫌だ!」


 アベルは飛び上がる勢いで拒否した。震える指でエリサの手を握り、懇願してくる。


「それだけは嫌だ! 絶対に! 君を迎えるまでに準備を整えて、あれこれした努力が水の泡だ!」

「いや、それは知りませんけど」

「知らなくていいけど! でも、俺は君を手にいれるならなんだってやった! そしてやっと手に入れたんだ! お願いだ、エリサ……そうつれないことを言うな。どうしたらいい? 君の願いならなんでも聞くから」


(必死だなぁ……)


 今にも泣き出しそうな目をするアベルは、キラキラと美しいオーラをまとっている。

 それがあまりにも哀れで、エリサの怒りゲージがゆっくり下がる。


(いや、ダメよ、私。ここで絆されたらまたダメ男に振り回される)


 脳内の理性が語りかけるが、アベルは今や片膝をついてエリサの手を握り続けている。祈るように俯いており、冷たい指はしきりに震えている。これ以上冷たく突き放すことはできなかった。


「……アベル様」


 呼ぶと、彼は顔を上げて潤んだ瞳を見せてきた。その美しさが眩しい。


「分かりました。離縁しません」

「ほんとか!」

「ただし! 監視も監禁も束縛もやめてください」

「それは承服しかねる……いや、そんな目で見るな。怒った顔も可愛いが……」


 そう誤魔化すアベルだが、どんどん冷ややかになっていくエリサの目を見て「ゴホンッ!」と大きく咳払いした。


「愛しい君が譲歩してくれただけでも十分だ。分かった。監視、監禁はやめる」

「あと、男性と話しても殺さないでください。そして束縛が抜けてます」

「殺したらダメか」

「ダメに決まってます! もし殺したら離縁しますからね!」

「わ、分かった!」


 アベルは「離縁」と聞いただけで具合が悪くなるようで、青ざめていた。

 慌てて承諾する夫の情けなさに、エリサは額を揉んでため息をついた。


「では、これをお返しします」


 ペンダントをアベルに押し付け、エリサはくるりと踵を返すと一瞥もせずに部屋を出ていった。

 扉に背をつけ、大きく息をつく。すると、目の前で待機していたイヴリンがすぐに駆け寄った。


「奥様、ご無事ですか?」

「無事よ。なんとか……うん」

「大変お疲れのようですね。お部屋で休みましょう」

「そうするわぁ」


 エリサはヨロヨロしながら私室まで向かった。その道すがら、悶々と考える。


(あーもう、私のバカ~~~~! なんでいつも絆されちゃうのよ!)


 実際、束縛クズ男と付き合っていた時も似たような場面があった。

 帰りが遅くなると言ったにも関わらず、鬼電してくる男だった。それにうんざりし喧嘩して『別れる』と言ったら泣きついて謝ってきた。

 しかし、数日経てばまた同じように鬼電、怒って威圧し、浮気を疑われたり、職場に突撃されたり散々だった。


 アベルは典型的な束縛家だ。元彼と同類だと感じる。


「いくらイケメンでイケボで金持ちでも、ヤンデレ束縛家はダメ! 私の身がもたない! 絶対無理だからぁ!」


 突然部屋の前で叫ぶエリサに、イヴリンが「ひっ!」と小さく悲鳴をあげた。

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