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18-1 ヤンデレの執着愛が止まらない

 どれくらい眠っていたのだろう。まるで三日徹夜して寝た時のような深い眠りだった。

 少し眠れば体も動けるだろう。そう思って目を開けると、粗末な小屋の天井が見えた。外はすでに昼のようだが、森の中なので薄暗い。


 エリサは体を動かし、身を捩った。すると両手がなぜか縛られている。


「え、何これ……」


 手だけじゃなく、足首までガッチリと縄で縛られている。

 混乱のあまり、体を揺らしてもがくも、ベッドから落ちそうになって慌てて踏ん張った。


「はぁ……何? 何? どういうこと? 私、なんでこんな」


「目覚めたかい、エリサ」


 その声が外から聞こえ、エリサは首を回して見た。扉を開けて入ってきたのはクラレンスだった。


「どういうこと!?」

「僕はエリサを迎えにきたミシェーラ国の王子さ」

「ミシェーラ……って、隣国の? まさかあなた、スパイだったの!?」


 エリサは驚いて声を上げた。

 扉を閉め、エリサの前に跪くクラレンス。その顔はいつも見ていた好青年のものではなく、目元にクマを浮かべて薄ら笑う不気味な男そのもの。


「あれ? なんだか僕のことをよく知ってるような言い方だね。あぁ、そうか、あなたはエリサ・アルヴィナ・アンベール夫人でもあり、彼女でもあるわけだ。そうだろ、エリー?」


 クラレンスはエリサの耳元でそっと囁いた。


「エリーとエリサは同一人物。町の者は騙せても、僕の目は騙せないよ」

「なんでそんなこと……!」

「もちろん、ずっと目をつけていたからに決まってるじゃないか」


 クラレンスは立ち上がると、エリサを抱きしめるようにして起こした。

 エリサは彼に触れられるたびに怖気が走り、震えた。


「僕はこのロズヴィータ国に潜伏していた。それこそ、アベル・アンベール公爵が妻を娶ったという報せを受けてね。我がミシェーラ国は、憎きアベル・アンベール公爵を討ち、ロズヴィータ国を侵略することを常に考えていたんだ」


 クラレンスはエリサの前に椅子を置き、座ってニコニコと笑った。


「しかし、ただアンベール公爵の夫人をさらい、人質にしてもアンベール公爵の動き次第となる。アンベール公爵は冷徹非道な青炎の死神。愛する妻でさえ、犠牲にできるだろうと……でも、エリサ、君は素晴らしい能力を持っている。これが我が国にとっての最高のカードとなったんだ」


「最高のカード? 私が? 魔力も持たない無能なのに?」


 エリサは心底理解できず、彼を睨みながら首をかしげた。

 するとクラレンスは腹を抱えて笑った。


「ははは! 何を言うやら。君は我がミシェーラ国に伝わる、古の聖女様なんだよ」


 クラレンスは堂々と言い切った。その顔は期待に満ちている。

 しかし、エリサは要領を得ず「は?」と聞き返した。


「私が、なんですって?」

「だから、聖女様なんだよ。君は我がミシェーラ国の聖女様!」

「だからその聖女ってなんなのよ!」

「まだわからないかい? まったく、このロズヴィータはミシェーラ国の神話すら眼中にない! あぁ、恨めしい!」


 クラレンスは嘆くように頭を抱えた。そのオーバーリアクションに、エリサはだんだん腹が立ってくる。


(こいつ、どうかしてるんじゃないの……)


「その聖女って、なんでわかったのよ? 私、別にあなたに対して聖女っぽいことしたかしら?」


 そう言いながら、エリサは記憶をたどる。

 森に倒れていたクラレンス。それを助けるため回復薬を飲ませた。そのとき、彼が口走ったのは『聖女様』だった。


「思い出してくれた? 僕は君が聖なる回復薬の生成を行う姿を見て、聖女様なのだと確信したんだ」


「や……あれは、別に……ただの役に立たないスキルなだけ」


「いーや! 君の能力は聖女様のものだ! 普通は存在しない能力なんだよ! 魔法使いがどんどん増えて栄えるロズヴィータ国では重宝されないかもしれないけど!」


「悪かったわね、我が国の目が節穴で」


「まったくそのとおりだ!」


 クラレンスはくわっと圧迫感のある顔を見せる。目が血走っている。正気じゃない。

 そんな彼は急に啜り泣きはじめた。


「あぁ、恨めしいなぁ! 我が国では君をそんな扱いしないのに!」

「じゃあ縄を解きなさいよ」

「それはまだダメ」


 ケロッと即答され、エリサは憤慨した。


「なんでよ!」

「君がまだロズヴィータ国民であることを捨てられないのと、アンベール公爵の妻だからさ」

「はぁ? それがなんだっていうのよ」

「我が国へ赴き、ロズヴィータ国と夫を捨ててから、真のミシェーラ国民へとなれるんだ! そして洗礼を受ける前なきゃ。それまではダメ」

「意味わかんない!」


 エリサは無理やり縄をほどこうとした。腕が痛むが関係ない。とにかくクラレンスの態度といい、状況といい、危険だ。


「そもそも、今は緊急事態よ! 領民たちも国民もみんな疲弊してるわ! 謎の流行病のせいで!」

「君の力でだいたいの人間が回復したよ。僕としては大変不服だけど。この奇跡をミシェーラ国にも知らしめるため、騒動を起こしたまでだ」


 クラレンスは顔を歪めながら言った。その言葉に、エリサはハッとする。


「まさか、あなたが流行病を運んだの……?」


 すると、クラレンスは笑い顔をスッと消した。

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