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16-3 緊急事態発生

「皆の者! 領主の命を受け、迅速な働き実に見事だった! これよりアンベール公爵夫人より、回復薬を支給する!」


 メイド長が代表して声を張り上げる。他のメイドたちは連携し、回復薬の瓶をせっせと運び、人々に渡した。その動きに町の人々はどよめく。


「公爵夫人様が回復薬を?」

「これは助かります! ありがとうございます!」


 そんな声があちこちから上がり、エリサは前に進み出て皆に一礼した。


「皆様、わたくしがアンベール公爵の妻、エリサです。この夜更けにもかかわらず大変な仕事を任せて申し訳ありません。どうか我が領主のため、国王陛下、ひいては国民のためにお力をお貸しくださいませ」

「おおー!」


 エリサの言葉に町人たちはやる気を出し、看病を再開した。

 中にはフリーダとリックの親子もおり、エリサの回復薬を運んでいる。その姿を見かけたエリサは、一瞬だけ安堵した。二人とも変わりないようで何よりだ。

 また、クラレンスも人々の中に混ざって、患者に回復薬を飲ませている。


「エリサ様! 回復薬が足りません!」


 誰かが声をかけてきた。


「誰か、回復の薬草を持ってきて! 荷車に積んでるから! そして煮沸消毒した瓶をたくさんちょうだい!」


 声を張り上げて指示を出し、メイドや町の女性たちがせっせと準備する。男性たちが運び、準備が整うとエリサはその場で回復薬を生成した。


「すごい」

「まるでエリーのようだ」


 そんな声がヒソヒソと聞こえてきたが、エリサは気にせず次々に回復薬を作っては、みんなに配る。


「エリサ様! 隣町に運ぶ回復薬を!」

「わかってるわ!」


 現場はまるで戦場のようだった。いっときも気が休まらない。次から次へと回復薬の手配があり、エリサはそのたびにスキルを使った。


 患者は皆、皮膚のところどころに黒いシミが浮き出ており、嘔吐や熱の症状がある。症状は現代世界でいうところの食中毒に似ていたが、黒いシミが謎だ。患者は皆一様に他の症状のほか、黒いシミの部分に痛みを感じており、苦しんでいた。


 回復薬を飲ませると、まず黒いシミが薄くなっていく。それから熱や嘔吐が引き、呼吸もだんだん正常になっていった。


「原因はこの黒いシミ……きっと魔力が宿ってるんだわ」


 エリサは現代知識を記憶の片っ端から探ったが、理解不能かつ回復薬の効果で症状が回復するのは魔法や魔獣が関係しているのだと推測する。

 急激に広まった流行病の正体がわからないのは不穏だが、回復薬が効果的なら案ずることはない。


「謎の流行病はおもに動物や衛生管理不足からくるわ。きっと根元がどこかにあるはず。このままじゃ埒が明かない」


 しかし考えているよりも、今は運び込まれる患者の治療が最優先だ。エリサは一生懸命看病した。


 やがて、夜明けがくるころになって患者たちは落ち着きを取り戻した。

 寝ずに看病していた者たちも疲労が祟って倒れていくので、回復薬を渡して休ませた。


「朝がくるわ……」


 エリサは水平線の向こうから朝陽が昇るのを見て、感嘆した。

 辺りは道端でぐったりする者や、交代で食事の用意をする者がおり、夜中の戦場よりはいくらか静かだった。


「みんな、よく頑張ったわね……」


 労おうと立ち上がると、ふらりとめまいがした。


「エリサ様、しっかり!」


 そう言って支えてくれたのはフリーダだった。


「フリーダ……ごめんなさいね」


 急激に頭が重くなり、意識が朦朧としていく。フリーダは驚いた顔をして、エリサの体を支えた。


「まさか公爵夫人様から名を呼ばれるなんて。それよりも、誰か! エリサ様が!」

「エリサ様!」


 リックも心配そうに顔を覗き込んでくる。


 彼らはエリサが、あのエリーだとは思っていない。それを確認し、エリサはホッと安堵して意識を手放した。

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