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15-2 公爵夫人、反省する

(好きにすればいいって、何よ……私が不貞を働いたってアベル様も本気で思ってるの?)


 エリサはアベルの言葉を真剣に受け止めていたが、どうしても彼の想いの根源がわからず、戸惑っていた。


(でも、『愛してる』って言ってるし、今回も私が怒ってるって思ってるのかも……そう言われても、私はあなたの愛がわからないのよ。なんで私のことが好きなの? 本当に好きなの?)


 安心するための材料が欲しい。でも、彼はきっと応えてくれない。

 だから不安になる。信じられない。過去が邪魔をする。


 男性からの言葉を間に受けて、いつも許してきた。

 それは前世の記憶で、こういうときに限っていくつもの過去が思い出される。


 好きになる人は決まって優しい人だった。最初は高校生のとき。一緒に居酒屋でアルバイトしていた大学生の先輩。優しく丁寧に教えてくれて、失敗したときは励ましてくれた。『大丈夫だよ。君ならすぐにできるようになる』『俺に任せて』そう言われてすぐ好きになった。


 彼は当時、同じ大学の女性から振られたばかりだったから、仕事中とプライベートでの差が激しかった。そのギャップに萌えたのは否めず、逆に自分が励ましていくうちに好きになった。向こうもだんだんこっちを見てくれた。そうして付き合うようになって、彼は四六時中連絡するようになった。


 今にして思えば、彼も恋愛のトラウマを抱えた矢先だったからだろう。

 不安になっては『今何してる?』『会いたい』『返事すぐ返してよ』とメッセージを寄越していた。それがかわいくて、ついつい言う通りにしてしまう。それがいけなかったのだろうか。だんだんエスカレートしていき、メッセージは数分置きになった。


 高校を卒業し、大学生になってからは彼の家に入り浸っていた。でも、薬剤師になるのが夢だったから大学生活は結構忙しかった。それが彼の逆鱗に触れたのか、ある日突然、部屋から追い出された。『すぐに返事しない罰だよ』と言われた。自分が悪いのだと本気でそう思った。実家に戻ったら『どこにいるの』と連絡がくる。


 面倒になってきたが、全部自分が彼を不安にさせているのが悪いのだと思いこんだ。彼を愛してるのだから、彼を支えなきゃいけないと思っていた。

 だって、彼は一緒にいるときはとても優しい。『愛してる。だからどこにも行かないで』と何度も何度も泣いて言われ、それが彼の本当の姿なのだと信じていた。浮気されるまでは。


(私もバカだった。でもいつもそういう言葉に惑わされるのよ)


 次の恋愛も、その次の恋愛も失敗した。だんだん男はみんなクズなのだと極端に考えて自暴自棄になった。

 でも、今度こそはと夢を見る。今度こそはうまくやれるようにと、彼好みの女になってみたりする。全部失敗した。


「だからって、アベル様がそうだとは限らないよね……でもなぁ! でもなぁ……今回ばかりは」


 頭を抱えて悩む。


「アベル様はどうして私のことが好きなの?」


 聞きたいけど聞けない。どうして愛してくれるのか。

 この世界で、貴族として生まれ、現代日本と異世界では恋愛の価値観も違う。それがわかっていても、彼の奥深くにある核へ触れるのが怖い。


「私は……怖いのかな?」


 次の恋愛をするのが、ただただ怖いだけなのかもしれない。

 いっときの感情で恋してると錯覚して、こちらが歩み寄れば彼らは安心して豹変する。自分の所有物として扱い、平気でこちらの情を弄ぶ。そうして最後には捨てるのだ。

 またあの彼の怒りは、その片鱗ではないか。つけられた痕がうっすら残る腕を見る。


「捨てられるのが、怖いだけ……?」


 エリサはやっと自分の気持ちを理解した。もう二度と誰にも翻弄されず、誰のためにも生きず、自分の人生だけを見て生きたい。


 しかし、アベルがもし本気でエリサのことを一途に想ってくれているのなら、自分の行いはかつてのクズ男たちと同じ振る舞いをしているのではないかとも思えた。


(自分が嫌になってくるな……)


 悪評は報いなのだ。償えるとしたら、彼の思いに応えないことだろう。これ以上、彼を振り回してはいけない。


(これで償えるとは思ってないけど、アベル様への誠意として、やっぱり私はこの屋敷から出たほうがいいわね)

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