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14-1 重い責任【side:アベル】

「あの男を絶対に殺す」


 エリサが部屋を出る間際、アベルは静かにつぶやいた。思い出せば怒りで全身が沸騰していた。

 ほどなくしてウィルフレッドが部屋に戻ってくる。


「アベル、気持ちは分かるが今回はやりすぎだ。それにここまで彼女を泳がせていたのは君だろう。最初から部屋を封じてエリサ様を出られなくしておけばよかったじゃないか」


「ウィル、それ本気で言ってるのか?」


「本気じゃないよ。でも、君の行動にも問題がある。彼女の裏稼業を知ってて知らぬフリして、見守るなんて生優しいことを言って、結局は嫌われたくないだけなんだ」


 そう一息に言うとウィルフレッドはため息をつき、頭を掻いた。


「それで突然激怒して魔力が暴走する。挙句、もっと最悪な状況になった。最初からもっと彼女に分かるよう言って聞かせたらよかったんだ。非効率的だろ」


 ウィルフレッドに言わせれば、エリサの行動は確かに問題だが、すべてはアベルの行動が招いたことだ。

 そして魔力が暴走したら、誰彼構わずその強すぎる魔力で人や町を脅かす。執事としても友人としても、面倒なことこの上ないのだ。


 ウィルフレッドの言いたいことはよくわかり、アベルはなんとも言い返せなかった。


「エリサ様のあの怯えた顔……君、ちゃんと見たのか?」


 その言葉にアベルは苦々しく顔を歪ませるだけで、やはり答えずにいた。ウィルフレッドの呆れた声が続く。


「君も自覚したほうがいい。自分には巨大で忌まわしい呪いの魔力が宿っていることを。感情に任せて制御できず、大事な人を傷つけ死に至らしめる寸前だった」


 確かに魔力のせいでエリサの腕にあざができていた。

 青炎の魔力を持つ者は、負の感情が強いと周囲に影響を及ぼす。とはいえ、エリサについたあざに大した魔力は注いでなかった。しばらくすれば消えるはずだが、エリサの心に深い傷を負わせたかもしれないことは変えようのない事実だ。


 ウィルフレッドの説教に、アベルはだんだん冷静さを取り戻してきた。

 体にまとっていた魔力がだんだん収縮していくとウィルフレッドは話を変えた。


「あのクラレンスという男、水晶からうまく隠れてたな」


 彼の言うとおり、クラレンスは町を監視する魔導水晶に映らないところでエリサと会っているようだった。

 いつものようにエリサが町に向かったあと、しばらくエリサの姿が見えなかったので探したのだが、どうも領内から外れた森付近にいたらしい。ただ、姿が見えなくなったらウィルフレッドを使って町を探すよう命じたのだった。

 それでもなかなか見つからなかったのがこの数日のことである。


 アベルがルーウェンとして変装し、町に出たのをウィルフレッドが追いかけて、それをイヴリンが見たというのが今回の経緯だ。イヴリンもまさかアベルが変装して町に出ていたなどとは思っておらず、単純にウィルフレッドを見たのでエリサに警告しに行ったのだった。


 アベルはエリサとクラレンスが親しげにしている現場を物陰から見ていた。

 そして、クラレンスから漂うエリサへの恋慕も感じた。あの場に躍り出て、クラレンスを殺さなかっただけ自制していたつもりだったが、それよりもエリサへの失望が強かった。


「俺は、エリサを愛してる」


 アベルは無意識につぶやいた。


「エリサにここを出ていかれたら、俺はきっと壊れてしまう。だから、なんとか彼女の自由を飲み込んできたんだ」


「それはそうだけど、なんでもかんでも許していては今日みたいなことが起きるだろ。それに、なぜ君がエリサ様を屋敷から出したがらないのか、具体的な理由をちゃんと説明すべきだ」


「分かってる。でも、彼女を前にすると感情が先走る」


「それは知ってる。でもいい大人なんだからさ」


「お前には分からないよ。俺の気持ちなんて」


 拗ねてるようにしか聞こえないだろう。ウィルフレッドは苛立たしげに息をついた。

 しかし、アベル自身もうまく言葉にできない。


 エリサを慕う気持ちは深く、強いものだが彼女を見ていたら感情が一度に押し寄せ、言葉が出なくなる。頭が働かなくなる。大事にしたい思いは大きく、それでいて彼女を壊したいくらい抱きしめたい衝動に駆られる。言葉なんて煩わしいほどに。


「彼女のあの怯えた顔……忘れられないな」


 脳裏に焼き付くのはエリサの恐怖に満ちた顔。

 自分があんな顔をさせてしまったことを自覚し、やるせなくなったアベルは窓ガラスに額を押し付け、目を伏せた。


 いつだって怖がられる。そんな人生だ。

 生まれてすぐ、魔法の才が開花し、それを恐れた母が出奔した。

 記憶の中にいる母は、いつだって怯えた顔をしていた。


『近づかないで!』


 拒絶の言葉が深く刻み込まれ、他人との関わりが苦手になった。

 使用人もよそよそしい。父はいつだって無愛想で、また忙しい人だったから一緒に過ごした時間は皆無と言っていい。


 外に出ると危険だと言われ、部屋に閉じ籠る生活だった。

 成長するにつれ、魔力も膨大になった。しかし、幼い頃は制御ができず、使用人を傷つけたことがしばしばあった。

 外に出ると危険だという意味がわかる。それは、自分の存在自体が危険で、周囲に影響を及ぼすからなのだと。


「……だから、嫌われたくないのに。どうしてうまくいかない」

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