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13-1 ライバル出現【side:アベル】

 エリサがクラレンスを助けていた裏で、アベルはぼんやりと考え事をしていた。


 今まではエリサのことを考えながらでも仕事をさばけていたのに、このところ身が入らない。

 それも、エリサと近づき、夜伽へ持ち込もうとしたあの夜以来からだった。


(そもそも、ウィルが悪いんだ! あいつが変なことを言うから!)


 しかし、ウィルフレッドは良かれと思ってか、アベルに助言したのだった。


「何が、そろそろ世継ぎのことをだ! 執事らしいこと言いやがって! 国王も同じだ! 俺には俺のペースがあるのに!」

「うん、全部筒抜けなんだよね……だから、ごめんって言っただろ」


 部屋に風が巻き起こり、棚から書類の束が舞い上がる。

 それをウィルフレッドが集めながら、誠意のない謝罪をした。


「もういい頃だと思ったんだよ。まさか君がそんな腑抜けとは思わなくて」

「貴様! 幼馴染だからって調子に乗るなよ! 主人に対してその発言はいただけない!」


 怒鳴ってみてもウィルフレッドはどこ吹く風。

 そんな親友にあしらわれ、アベルは「もういい」と拗ねて椅子の背にもたれた。


「……俺は、なんでこうなんだ」

「かわいそうに。まぁ、エリサ様一筋で他の女性と関係を持ってこなかったもんな。いっそ練習として誰かと付き合ってみればよかったのに」

「そんなこと、できるわけないだろ!」


 ウィルフレッドは悪びれない。アベルも疲れたように額を揉んだ。いちいち感情が上下するのも嫌になってくる。

 冷静になろうと、引き出しに入れていた角砂糖を取って口に放り込んだ。


「だいたいな、公爵たるものみだらに女性へ手出ししていいもんじゃないだろ。それに、俺は呪い公爵『青炎の死神』。誰も近寄ってこないさ」


 自嘲気味に言うと、ウィルフレッドはじっとりとした目を向けた。


「いや、君、意外と裏ではモテてたよ」

「え?」

「学園時代でも夜会でも」

「は?」

「でも、君が怖くて近づけないから、僕にアプローチしてくるんだよね。僕の近くにいれば、見目麗しい君を拝めるとかなんとか」

「それは……なんだ? つまり、俺はどういう?」

「偶像、かなぁ」


 ウィルフレッドは宙を見上げ、思案げに言った。


「だから君のルックスは申し分ないんだ。あと声も一部のお嬢様方に人気だったよ。めったに喋らなかったけどね」

「そうなのか……」

「そうだよ! だから、エリサ様にはもっと強引にアプローチしてもいいんじゃないかな。意外と簡単に落ちるかもよ」


 慰められるような言い方をされ、アベルはまだ釈然としなかったがひとまず頷いた。


「自信は持っていいってことか?」

「そう! 君に足りないのは自信だ! エリサ様に嫌われたくないって思うんじゃなく、もっとガツンといこう」

「でも、あまりガツンといくと、気まずくなりそうなんだが」

「そうなの? この前、なんて言ったんだい?」


 訊かれてアベルは真顔になり、真剣に言った。


「エリサに似た娘が五人くらいほしいって言ったら、あしらわれた」

「それはエリサ様もドン引きだ……」


 ウィルフレッドのげんなりした顔を見ても、アベルは何がどうまずかったのか、まったく分からなかった。


「ともかく、俺は反省しているんだ。あれからエリサの顔がまともに見られない」

「それはいつものことだよ」

「呆れられたら嫌だなぁ……違う男に乗り換えられたら、そいつ殺して俺も死ぬ」


 アベルは嘆くように言い、頭を抱えた。

 脇ではウィルフレッドが「もうすでに呆れられてると思う」と言いたげな顔をしていたが、口には出さずにそれからも慰めていた。

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