12-2 甘くなれない二人
「……だが、一回試してみてもいいか?」
「試す、って……?」
そう訊く間もなく、アベルは立ち上がり、エリサの近くに立った。ソファの肘置きに手をつき、エリサに覆いかぶさる形になる。
「え……アベル様……」
(待って、こんな急に? 急に、キス? じゃなくて、アレを? アレをするの?)
何が起きてるのかわからず混乱し、その場に固まる。
(待って待って待って! 私、もうこんなの前世ぶりって感じだし、やっぱり急はちょっと……)
思わず目をつむる。しかし、くるかどうか分からない感触が待てども一向にこないので、エリサはすっと薄目で見た。
アベルは息を止めたまま固まっていた。
「あ、アベル様? あの、大丈夫です?」
体をのけぞらせて訊いてみると、彼は息を止めたままスッと後ろへ下がった。
「やっぱりまだダメのようですね……」
「すまない。君を抱こうと考えると、先に妄想が……いや魔法が……」
(妄想って何!?)
アベルの失言にエリサは貞操の危機を感じた。それを情けないと思われたと感じたのか、アベルは慌てて言い繕った。
「でも、決して勘違いしないでほしい! 俺は君を心から愛してるから!」
「はいはい、そうでございましたね」
アベルは顔を真っ赤にさせていた。対し、エリサはこの応酬に飽き飽きしていた。
「それで、このことは誰に吹き込まれたんです? アベル様が私に迫ろうとするなんて考えられませんし」
訊いてみるとアベルは項垂れながら「ウィルフレッドに」と白状した。
(やっぱりあの人か)
「そろそろ、君との夜で、その、慣らしてもいいのではと言われたんだ。でないと、まぁ、これからの生活に支障が出るとか、君に愛想を尽かされるとか、世継ぎとか」
(うーん……愛想も何も、一切の恋愛感情はありませんけどね)
しどろもどろなアベルに対し、エリサの表情は冷ややかなままだ。しかし、この初心な少年みたいなアベルもエリサとの触れ合いを望んでいるらしい。
(それもそっか……わけわかんないけど、なぜかこの人、私を愛してるみたいだし。でもなぁ……私、夜のほうはリードされたい派だし)
「そういえば、アベル様が大怪我なさったときの、あのアベル様の強引な、アレは」
なぜか言葉がうまく出てこず、エリサもしどろもどろになる。
「強引なやり方は嫌だったか?」
「いえ……あのときくらいのスキンシップは、ちょっと、私も、嫌じゃ、なかった……かもしれません。いえ! 今のはナシです! ナシ!」
(何を言ってるのよ、私はーーー!)
顔をそらして恥ずかしさに耐えると、アベルはなぜかショックを浮かべていた。
「そうか……そうだよなぁ……あのときは理性があまりなくて……」
どうやら理性が働くとぎこちなくなるらしい。難儀である。
エリサもアベルも脱力し、ため息をついた。
「別に夜伽とか、あまりご無理なさらなくて結構ですのよ? アベル様にはアベル様のペースがあるでしょうし」
気づかうようにエリサが言えば、アベルは恥ずかしそうに額を押さえた。
「不甲斐ない」
(落ち込んでらっしゃる……そりゃ男性にとっては問題よね……貴族だし、お世継ぎのことも考えなきゃいけないんだろうし……いや、私はその前に絶対脱出するけど)
そんなことを考えつつ、ふとアベルを見て思いを巡らせた。
(でももし、私がいなくなったらこの人は、次の妻を娶るのかな……? ていうか、できるのかな、この人に)
考えても想像がつかない。するとアベルがため息まじりに言った。
「俺は一刻も早く君を抱きたいと思ってる」
「え、あ、はぁ」
「そもそも、君にそっくりな娘が五人はほしい」
「は」
「だから絶対に克服してみせるよ。君のために」
そう言って目に力を込めるが、エリサの引いた顔には気づいていなかった。
(あー、ダメダメ! ほだされちゃダメ! 彼の人生は彼のもので、私には関係ない!)
「ともかく、明日は陛下に会ってものらりくらりしてください。アベル様、お仕事頑張ってくださいね」
「エリサ……優しい……天使」
アベルは感激しながら言うと鼻をすすった。そんな夫を見て、ますます不安を覚えるエリサだった。
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