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12-1 甘くなれない二人

※本作はアルファポリスに掲載している作品を加筆修正しています。

※カクヨムにも投稿しています。


【登場人物】

エリサ・アルヴィナ・アンベール…アンベール公爵夫人。ポーション作りのスキルがある転生者。

アベル・アンベール…公爵。エリサの夫。『青炎の死神』として恐れられている。

ウィルフレッド・ジーベルト…アベルの執事。

イヴリン・ゲルマー…エリサの侍女。

フリーダ・ザクセン…町の粉屋のおかみ。

リック・ザクセン…フリーダの息子。10歳。

クラレンス・パジェット…ノルデン・フェルトで行き倒れていた兵士。

 エリサがアンベール公爵家に嫁いで三ヶ月が過ぎた。つまり、薬屋を開業して三ヶ月が過ぎた。


 あっという間にエリサの回復薬はノルデン・フェルトでも一番の名産となり、今では王都から貴族や商人が買い求めにくる。つまり、フリーダの粉屋にも客足が増え、エリサはほぼ毎日町に出ていた。


「忙しいのは結構だけど、毎日外に出てて大丈夫かい?」


 客足がやっと途絶えたので、今日の営業は終わりにし、お茶にする。

 フリーダの心配に、エリサは頬杖をついてため息をついた。


「まぁ、怖いくらいバレないのよ」

「もうバレてるんじゃない? バレてるけど、あえて泳がされてるとか」

「やだやだ! 考えたくない! やめてよぉ」


 嘆くエリサに、フリーダはケタケタ笑った。

 しかしエリサはアベルにバレているかどうかよりも、目下の悩みが別にあった。


「商人ギルドから、都の商人に回復薬を流していいかと聞かれたのよね。ほら、カリウスさんの紹介で」


 以前、商家カリウス家のメイド犬、ハンナの病を治した縁で、カリウス家の娘、レイチェルからその両親にまで絶大な信頼を得ていた。

 あのとき蒔いた種がここまで大きく成長するとは思いもしない。


 フリーダはお茶を含みながら、前のめりになった。


「ほぉ、いいことじゃないか。アンタの名がさらに上がるってわけだね」

「それはそれでちょっと困るのよ……私はお忍びで町の薬師としてそれなりの稼ぎがあればいいの。でもまぁ、離縁するにはもう少しお金が必要かなとは思うけど」

「アンタの回復薬はよく効くし、もう少し値を上げてもいいんじゃないかい」

「でも、この町の相場以上のものはもらえないわ。目立ちたいわけじゃなくて、稼ぎたいだけなのよ」


 この悩みにフリーダは首をかしげた。


「何がどう違うのかサッパリだね。目立たないと稼げないだろうに」

「そ……それはそうか」


 エリサは自分の矛盾に気が付き、頭を抱えた。


(うーん。王都で回復薬を売ると、いつか実家に気づかれそうだし、そうじゃなくても懇意にしてた道具屋とか薬草屋とかにもバレかねないというか。そうしたらアベル様の耳に入ることもありそうだし。でも、王都で売ればそのぶん料金を上げて収入を増やせそうだし)


「ともかく、商人ギルドに返事をしなくちゃね……あぁ、悩ましいわ!」

「売れすぎるのも問題なんだねぇ」


 フリーダは呆れてイヴリンに言う。イヴリンは気まずそうに笑った。


 ***


 それから明日は商人ギルドへ出向き、返事をするために店を休むことにした。

 ちょうど明日はアベルが月一の会合のため王都へ行く。


 アベルとの生活も慣れ、夜の団らんの際も黙ってぼんやりするだけ。

 アベルも大人しいエリサに対して何か探るようではなく、一定の距離を保ちながらエリサを愛でている。

 たまにウィルフレッドと出くわすときは、なぜか哀れみの目を向けられるようになったがあまり気にしていない。


「……リサ、エリサ」

「えっ、あ、アベル様。いかがしました?」


 呼ばれていることにも気づかないほどぼんやりしていた。エリサは姿勢を伸ばし、笑顔を浮かべる。


「このところ、調子はどうだ?」

「え? なんのお話です?」

「いや……ここずっと、君は何かを考えているようだから」

「はぁ。まぁ、いろいろと」


 エリサは笑顔で誤魔化した。しかし、今日のアベルはなんだか違う。


「その笑顔、なんか本心が見えない」

「えっ……本心、ですか?」


(なんか急に面倒なこと言ってきたな……ヤンデレはたまにこうして鋭いことを言ってくるんだよねー)


「本心を申してもよろしいんですか?」


 エリサは急激にスッと冷めた顔をした。


(本心も何も最初から離縁したいって喚いたわけだし、今さら取り繕ってもね)


「あぁ、いや、本心はどうやら三ヶ月前と変わってないらしいな、うん、すまない」


 アベルは気まずい顔をし、目をそらした。


(うーん、理性があるタイプのヤンデレ)


「だいたい、アベル様は私に触れられるようになったんですか? 魔法の制御のほどは」

「あぁ、こうして毎日君を見ていると、だいぶ慣れてきたよ。いつもすまないな、エリサ」

「……ん、なんだか今日はやけにしおらしいですね。さては、何か吹き込まれました?」


(王都とかで、私の回復薬のこととか聞いてないでしょうね。もしくはウィルフレッドに焚き付けられてたり)


 じっと探るように見てみると、アベルは困ったように咳払いした。


「そうだな……吹き込まれたわけじゃないが、国王陛下が」

「国王陛下!?」


 とんだ大物が飛び出し、エリサは腰を浮かせて驚く。アベルはなおも気まずそうだ。


「そう、国王陛下が……君をそろそろ城に呼べと」

「なぜですか?」

「俺が伯爵家の娘を娶ったことは国王様ひいては他の貴族も知るところ。つまり、社交の場に出す気はないのかと言われてな」

「でもその件はナシになったじゃないですか」

「そうなんだよ。そうなんだが、国王に言われたら……俺としても君をきちんとエスコートできるか不安だし、のらりくらりとやってるんだ」


 アベルの不安とエリサの不安は、どうにも交差しないが結論は同じだった。


「もうしばらくのらりくらりしてください」

「あぁ、分かった。なんとかしよう」


 このとき、初めて夫婦が合意した。

 しかしアベルは何やら言いにくそうにあとを続けた。

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